最初の食卓
雨が止んでから、
一時間ほどが経ったが
拠点の空気は不思議なくらい静かだった。
久我は窓際に立ち、
外を見ている。
曇り空だが、
昨日までとは少し違って見えた。
「……」
考えることが多すぎる。
死刑判決出て逃走して
CKRと出会って
そして――美咲の死因の判明
頭の中が整理できないと思った
そのときだった。
「ご飯できたよー!」
Dollの声が響くと
久我が振り返る。
「……ご飯?」
「そうだよ♪」
「今?」
「今!」
当然のように返されると
そこへJokerが顔を出した。
「CKRのルール四
任務が終われば、全員で必ず食事をする。」
「……いや、まだ任務終わってないだろ?」
「細かいな…」
「細かくないだろ?」
「まあまあ。」
Jokerが笑う。
「とりあえず来なよ!」
久我は小さくため息をついた。
結局、
DollとJokerに連れていかれた。
食堂らしき部屋に
大きなテーブルがあり
そこには既に全員が集まっていた。
Knightが皿を並べていて
Mirageがスープを運んでいる。
Maskは何やら端末を閉じて席についた。
そしてHeroは
静かに椅子へ座っている。
久我は思わず立ち止まった。
……なんだ、この光景。
さっきまで死刑や再審の話を
していた連中とは思えない。
Dollが手招きする。
「座って♪」
「……俺も?」
「もちろん!」
当然のように言われる。
久我は戸惑った。
昨日会ったばかりだぞ?
しかも俺は逃亡中の死刑囚で
一緒に食卓を囲む状況じゃないだろ??
困惑する久我を見て
Mirageが静かに言う。
「冷めるよ?」
「あ……。」
思わず返事をしてしまうと
Jokerが吹き出した。
「やっと返事したな」
「うるさい」
「素直じゃないな」
「うるさいな」
また笑われる。
何なんだ、本当に
と思いながら
久我は観念して席についた。
その瞬間
Heroが静かに言う。
「いただきます。」
「いただきます。」
五人が揃えて言う中
久我だけが黙っていた。
Dollが首を傾げる。
「食べないの?」
「……いや、食べる」
少し遅れて
「いただきます。」
それを聞いたJokerが、
なぜか満足そうに頷いた。
食事が始まるが
しばらく誰も喋らない。
久我は目の前の料理を見る。
普通だ
驚くほど普通だ。
家庭料理で
スープにサラダ
それにオムライス
「……。」
思わずスプーンが止まると
Dollが気づいた。
「嫌い?」
「いや……。」
久我はオムライスを見る。
「妹が好きだったのを思い出したんだ……。」
静かになった。
Dollの表情が少しだけ和らぐ。
「そうなんだ。」
久我は小さく頷く。
「イベントから帰ってきた時によく作ってた。」
「盛り付けは、下手だったけどな…
でも、美咲は毎回うまいうまいって食べてた。」
少し笑う。
それは久しぶりの笑みだった。
誰も茶化さないで聞いてくれた。
Jokerでさえ黙っている。
やがてMirageが言った。
「優しい子だったんだね。」
久我は答える。
「ああ。」
一言だけ。
でも、その一言に全部が詰まっていた。
再び静かになるが
その沈黙を破ったのはKnightだった。
「なら。」
全員が見ると
Knightはいつもの無表情で言った。
「生きて、覚えていろ!」
久我が目を瞬く。
「……え?」
「忘れるな。」
短い言葉だが妙に重い。
「覚えている人間がいる限り、
誰かは完全には消えない。」
部屋が静かになると
久我は何も言えなかった。
そのとき
Heroがゆっくり口を開く。
「だから俺たちは食事をする。」
全員が彼を見る。
「終わったことを、終わったままにしないためだ。」
「必ずここへ戻って
生きていることを確認する。」
「そして――誰も一人にしない。」
静かな声だった。
だけど、
不思議とよく響いた。
久我は目を伏せる。
昨日まで
誰とも話したくなかった
誰とも関わりたくなかった
自分はもう終わった人間だと思っていた
なのに
目の前では、
仮面をつけた六人が普通にご飯を食べている。
本当に変な連中だな
だけど――
少しだけ
ほんの少しだけ
ここにいてもいいのかもしれないと
そう思ってしまった。
そのとき
ピロンと
電子音が鳴った。
Maskが画面を見ると
「……来た!」
全員の空気が変わる。
「何だ?」
久我が聞くと
Maskが静かに答えた。
「三人の件で新しい動きがあった!」
Mirageが立ち上がる。
「ニュース?」
「違う。」
Maskは画面から目を離さず
そして、ゆっくり言った。
「内部告発だ。」
沈黙。
「病院関係者を名乗る人物から、
匿名の証言が届いた。」
久我が息を止める。
「内容は?」
Maskは画面を見つめたまま言った。
「……『久我美咲の件を知っている。もう隠せない』」
食堂から音が消えた。
久我の手から、
スプーンが落ちる。
小さな金属音だけが、
やけに大きく響いた。




