揺らぐ仮面
翌朝
拠点の窓から差し込む光で、
久我誠司は目を覚ました。
……いや、
正確にはほとんど眠れていなかった。
見慣れない天井に
見慣れない部屋。
そして、
自分は本来なら拘置所にいるはずの人間だから
現実感がない。
ゆっくりと体を起こした
その瞬間
「おはよー」
間延びした声がして
久我が振り向く。
ソファに寝転がりながら、
Jokerが手をひらひらさせていた。
「……いたのか?」
「昨日からずっといたよ!」
「気味悪いな…」
「褒め言葉?」
「違う!」
Jokerはくすりと笑った。
「そっか…」
久我はため息をつく。
本当に変な連中だ。
その時
扉が開いた。
「起きた?」
Dollが顔を覗かせると
その後ろからMirageが入ってきた。
手にはタブレットがある。
「状況が変わったわ!」
静かな声だった。
久我は聞いて眉をひそめる。
「何かあったのか?」
Mirageはタブレットを差し出してきた。
画面を見るとニュースが映っている。
『死刑判決を受けた久我誠司、護送中に逃走』
『警察による大規模な捜索開始』
『被害者三名に新たな疑惑か?』
そこで久我の目が止まる。
「……疑惑?」
Mirageが頷く。
「昨夜から、
一部の報道機関が動き始めたのよ!」
Dollが近くの椅子へ腰掛けた。
「世間も少しだけ騒ぎ始めてるよ〜」
「『本当にただの被害者なのか』って」
久我はしばらく画面を見ていた。
そして、
小さく言う。
「今さら……かよ…」
「そう。」
Mirageの返事は短かった。
「今さらだけど…」
「でも、それでも変わるよ?」
沈黙。
その時
再び扉が開いた。
Heroだった。
黒いコートではなく
ラフな服装だが雰囲気は変わらない。
「全員、会議室へ来てくれ」
その一言で空気が変わると
Jokerが起き上がる。
「はーい。」
Dollが立ち上がると
Mirageはタブレットを閉じた。
久我だけが座ったままだ。
Heroが見る。
「久我も来い」
「俺もか?」
「お前の話だからな?」
少しの沈黙。
やがて久我は立ち上がった。
「……分かった。」
会議室
長机を囲むように六人が座る。
そして空いている一席がある。
そこを見て、
久我は微妙な顔をした。
「俺も座るのか?」
「立ってると疲れるでしょ?」
Dollが真顔で言うと
久我は思わず苦笑した。
何なんだこの空気は
座ると
全員の視線が集まって
妙な気分だった。
Heroが口を開く。
「状況を整理する。」
Maskがモニターを操作する。
ニュース記事や世論の反応が映し出された。
「現在、意見は三つ。」
淡々と説明する。
「一つ目。久我誠司は凶悪犯。」
「二つ目。事件の背景に別の事情がある。」
「三つ目。情報が足りず判断保留。」
Jokerが頷く。
「割れ始めてるね。」
Knightが腕を組む。
「まだ弱い。」
「そうだね…」
Mirageが静かに言う。
「真実が出てきても、人は簡単には考えを変えない。」
久我は画面を見ていた。
そこには自分への非難も、
擁護も並んでいる。
知らない誰かが、
自分について語っているという奇妙な感覚だった。
そのとき
Dollが言った。
「ねえ…」
久我が顔を上げる。
「久我くん」
「……何だ?」
「あなたは死刑になってもよかったの?」
静かになった。
久我は答えない。
Dollも急かさないで見守る。
しばらくして
久我は息を吐いた。
「分からない。」
全員が黙って聞いている。
「三人を殺したことは事実だ。
だから、罪を受けるのも当然だと思ってた。」
少しだけ目を伏せる。
「でも……。」
言葉が止まる。
「でも?」
Heroが静かに促すと
久我はゆっくり顔を上げた。
「妹のことが、何も残らないのは嫌だった。」
沈黙。
「ただの病死で
何もなかったことになる。」
「それだけは……嫌だった。」
声が少しだけ震えたが
誰も何も言わない。
最初に口を開いたのはKnightだった。
「それが答えだな?」
久我が見ると
Knightは真っ直ぐ言った。
「お前は死にたいんじゃない…
忘れられたくないだけだ!」
その一言に
久我は言葉を失った。
Dollが小さく頷き
Mirageも静かに目を伏せたが
Jokerだけが珍しく笑っていない。
そしてHeroが言う。
「なら、生きろ!」
久我が顔を上げる。
「……簡単に言うなよ…」
「簡単じゃないのは分かる」
Heroの声は静かだった。
「だから俺たちがいる。」
久我が黙る中
Heroが続ける。
「お前の罪は消えないし…
妹も帰ってこない。」
「だが、真実を残すことはできる。」
部屋が静まり返る。
やがて
久我は小さく笑った。
今までの乾いた笑いとは違う。
どこか諦めたような
少しだけ力の抜けた笑いだった。
「……やっぱり変な連中だ。」
その瞬間
Jokerがニヤッと笑う
「それ、今日二回目。」
Dollも吹き出し
それを見たMirageの口元が少しだけ緩む。
Maskは無表情のままだが、
小さく息を吐いた。
Knightは腕を組んだまま目を閉じる。
そして
Heroが、ほんの少しだけ笑った。
「慣れろ!」
久我はその顔を見て思った。
――ああ
この六人は
裁判官でもない
警察でもない
正義の味方でもない
だけど
昨日まで誰一人聞こうとしなかった話を
この六人だけは、
最後まで聞こうとしている。
雨はもう止んでいた。




