最初の対象者
翌朝――
CKR事務所兼アトリエ
朝日が窓から差し込み、
アトリエにはいつもの光景が戻っていた。
ミシンの音や
ウィッグを整える音に
工具が触れ合う音
昨日までと変わらない日常だが――
テーブルの中央には、
一枚の資料が置かれていた。
黒曜会から渡された資料で
その中に記載されていた――
「対象者」
Maskは朝からその資料を端末に取り込み、
情報を整理していた。
「……やっぱり、おかしい」
Jokerがコーヒーを飲みながら振り返る。
「朝からそれ、何回目?」
「三回目です。」
「そんなに?」
「それくらい変なんですよ!」
Maskは画面を全員に見せた。
そこには、
一人の男性のプロフィールが表示されている。
年齢――三十二歳
職業――フリーランス
表向きの活動――コスプレイヤー
SNSフォロワー――約十二万人
そして――
『複数の女性との金銭トラブル』
という記録だけ
Dollが眉をひそめる。
「この人……結構有名なんだね?」
「ええ…」
Maskは続ける。
「ただし、問題はここからです。」
画面をスクロールする。
そこには、
複数の女性から寄せられた相談記録が並んでいた。
「えー何々?
・交際を持ちかけて金銭を借りる。
・結婚をほのめかして金を要求する。
・返済を約束するものの、その後連絡を絶つ」
Jokerの表情が曇る。
「……結婚詐欺か?」
Mirageも画面を見る。
「しかも一人じゃないわね?」
「はい。」
Maskが頷く。
「確認できただけで複数人です。」
Knightが腕を組む。
「それなら、警察に相談すればいいんじゃないか?」
「そうなんですが……」
Maskが別の資料を開く。
「被害者の中には、
証拠が足りずに動けなかった人もいるようです。」
Heroが資料を手に取る。
「つまり、黒曜会はそこを狙っていると?」
「そう考えるのが自然です。」
YONAGIは黙って画面を見つめていた。
「この人……」
「知ってるの?」
Mirageが尋ねる。
YONAGIは頷いた。
「名前だけですが…
以前、黒曜会にいた頃に聞いたことがあります。」
Jokerが首を傾げる。
「じゃあ、昨日の資料に載ってたのは
偶然じゃないってことか?」
YONAGIは答えなかった。
その時――
事務所のインターホンが鳴った。
全員が振り返ると
Knightが立ち上がる。
「また来客か?」
Maskが確認する。
「今回は一般の依頼人です。」
「見た感じどっちだ?」
「……女性です。」
Heroが頷く。
「通してくれ。」
しばらくして――
アトリエの扉が開いた。
入ってきたのは、
二十代後半ほどの女性だった。
緊張した様子でバッグを抱えている。
「突然すみません……」
Dollが優しく声をかける。
「大丈夫ですよ?どうぞ。」
女性は椅子に座った。
そして――小さく息を吸う。
「相談したいことがあります。」
Heroが向かいに座る。
「聞かせてください。」
女性はスマートフォンを取り出した。
画面には――
一人の男性コスプレイヤーの写真
その男性は、
笑顔でカメラに向かってポーズを取っていた。
Heroの目が変わるのを
Maskも気づいた。
「……この人ですか?」
女性は震える声で答えた。
「はい。」
「私……この人と付き合っていました。」
一瞬の沈黙
「最初は、本当に優しかったんです。」
「コスプレの話をしたり、
イベントに一緒に行ったり……
でも、しばらくしてから――」
女性は俯いた。
「お金を貸してほしいって言われました。」
Jokerが黙って聞いている。
「・仕事で困っている。
・家族のために必要なんだ。
・結婚したら返す。」
そんな言葉を何度も言われたという。
そして――
女性がスマートフォンの画面を見せる。
「合計で……かなりの金額を渡しました。」
Dollが息を呑む。
「……それで?」
「突然、連絡が取れなくなりました。
でもSNSを見ると、
普通に活動していて……
私のことなんて、
最初から存在しなかったみたいに……」
女性の目に涙が浮かぶと
YONAGIは黙ってその話を聞いていた。
Heroは落ち着いた声で尋ねる。
「その男性の名前は?」
女性は答えた。
「……鳴海朔也です。」
Maskが端末を操作すると
数秒後――
「一致しました。」
全員が顔を見合わせる。
昨日、黒曜会の資料に載っていた名前
**鳴海朔也**
今回の依頼人が探している人物と――
黒曜会が追っている人物が同じだった。
Jokerが小さく呟く。
「……偶然じゃないよね?」
Heroは答えなかった。
女性は頭を下げる。
「お願いです!
私のお金を取り戻したいんです…」
Heroは少し考えた。
「分かりました。」
「ただし――」
Heroは彼女を見る。
「俺たちは、
あなたに代わって復讐するつもりはありません。」
「必要なら、
正規の手段で動けるように証拠を集めます。」
女性は頷いた。
「……お願いします。」
その言葉を聞いた瞬間――
Maskの端末に通知が入った。
「Hero。」
「どうした?」
Maskは画面を見せる。
そこには――
**『対象者:鳴海朔也』**
そして、その下に新しい項目が追加されていた。
**『黒曜会:接触準備開始』**
Heroの表情が変わる。
「……もう動いてる。」
Knightが資料を見る。
「俺たちが依頼を受けたことも分かってるのか?」
Maskが答える。
「可能性が高いです。」
Jokerが苦笑する。
「昨日の今日で、ずいぶん早いな?」
YONAGIが立ち上がる。
「私が黒曜会に連絡します。」
Heroが振り返る。
「YONAGI?」
「昔の仲間なら、まだ連絡できる人がいます。」
YONAGIはスマートフォンを握る。
「鳴海朔也を黒曜会がどうするつもりなのか、
確認してみます。」
Heroは少し考え――
「分かった。
ただし、一人で動くなよ?」
「はい。」
YONAGIが連絡を始める。
数分後――
「……繋がりました。」
全員が顔を上げると
YONAGIは通話を聞いていた。
そして――表情が少しずつ変わっていく。
「……え?
はい……分かりました。」
通話が切れる。
Heroが尋ねる。
「何て?」
YONAGIはスマートフォンを下ろした。
「黒曜会は……鳴海朔也を捕まえるつもりです。」
Knightが頷く。
「やっぱりか…」
しかし――YONAGIは続けた。
「ただ……」
「捕まえた後のことは、
私にも教えてくれませんでした。」
部屋が静まり返る中
Maskが呟く。
「やっぱり『処理』か?」
YONAGIは頷いた。
「……はい。」
Heroはしばらく黙っていた。
そして資料を閉じる。
「この事件…」
全員がHeroを見る。
「鳴海朔也を追うぞ!」
「ただし――」
Heroの視線が黒曜会の資料へ向く。
「黒曜会より先に、俺たちが真実を掴む。」
Jokerが立ち上がる。
「了解。」
Dollも頷く。
「やろう!」
Mirageはウィッグを整えながら笑う。
「今回も、コスプレイヤーとして潜入ね♪」
Knightが工具ケースを持ち上げる。
「準備するか?」
Maskは端末を閉じた。
「鳴海朔也の次のイベントを調べます。」
そしてYONAGIも――
自分の仮面を手に取った。
「私も行きます。」
Heroは七人を見渡す。
「決まりだ。」
――その瞬間
アトリエに、再びCKRの空気が戻った。
だが、誰も気づいていなかった。
この事件こそが――
黒鉄迅がCKRを黒曜会へ引き込むために用意した、
最初の「試験」だったことを
そして鳴海朔也を追う先で――
CKRは、
黒曜会が隠している「処理」の本当の意味へと、
少しずつ近づいていくことになる。




