黒い封筒
夜――
CKR事務所兼アトリエ
昼間まで聞こえていたミシンの音も、
工具の音も止まり、
アトリエには静かな空気が流れていた。
中央のテーブルには――
七枚の黒い封筒。
Doll
Mirage
Joker
Knight
Mask
Hero
そして――YONAGI
七人はそれぞれ自分の封筒を前に座っていた。
Jokerが椅子にもたれながら、
封筒を眺める。
「……なんかさ」
「ん?」
Dollが顔を上げる。
「こうやって並べると、ほんとに怪しいよねぇ…」
「今さら?」
Mirageが苦笑すると
Knightは腕を組んだまま封筒を見る。
「問題は中身だ…」
Maskが頷く。
「黒曜会が
俺たちの能力を調べた上で用意したものです。」
Heroは黙っていた。
隣ではYONAGIが自分の封筒を見つめていると
Heroが気づく。
「YONAGI」
「はい?」
「開けられるか?」
YONAGIは少しだけ迷った。
「……はい。」
そして七人は同時に封筒を開いた。
紙を取り出し
Dollが目を通す。
「私のは……衣装制作と管理」
Mirageも読む。
「私は撮影関係者との接触と、
イベント情報の収集ね…」
Jokerが自分の書類を見る。
「俺はSNSと配信関係か…」
Knightが続く。
「会場設備、搬入経路、裏方への接触」
Maskは黙って資料を読み進める。
「俺は情報解析……」
そしてHero。
「作戦指揮と交渉か…」
最後にYONAGIが自分の資料を確認した。
「私は……黒曜会との連絡役だわ」
Jokerが顔を上げる。
「……あれ?」
「どうしたの?」
Dollが尋ねると
Jokerは七枚の資料をテーブルへ並べた。
「仕事内容はバラバラなのに……」
Maskがその続きを察する。
「最終的な目的地は同じですね?」
全員が資料を見ると
そこには、
それぞれ違う方法で
集める情報について書かれていた。
イベント
SNS
撮影会
コスプレ交流
配信
そして――
裏で問題を起こしている人物
Heroが眉を寄せる。
「……対象者の調査か?」
Maskが資料をめくる。
「名前は伏せられています。」
「でも、特徴は書いてある。」
Maskが読み上げる。
「・複数の女性との交際を利用した金銭トラブル
・複数名からの詐欺被害
・イベント関係者への迷惑行為
・過去に問題行動を起こしているにもかかわらず、
現在も活動を継続している者」
Mirageが呟く。
「……これ、全部同じ人物?」
「違います。」
Maskは首を横に振る。
「複数人です。」
Knightが資料を覗き込む。
「男ばかりだな?」
「男性レイヤーが中心ですね…」
YONAGIが資料を見つめる。
「……黒曜会は、
この人たちを探してるんですか?」
Heroが答える。
「その可能性が高いな…」
Jokerが腕を組む。
「でも、何のために?」
その瞬間――
Maskの手が止まった。
「……待ってください。」
Heroが見る。
「どうした?」
Maskは資料の最後のページを開くと
そこには短い一文があった。
**『対象確保後の処理については
黒曜会側で担当する』**
誰も口を開かず
Jokerが眉をひそめる。
「……処理?」
Knightも資料を見る。
「普通なら、警察に引き渡すとかじゃないのか?」
Mirageが静かに言った。
「確保すること自体は分かるわ?でも……」
Dollが続ける。
「その後を黒曜会が担当するって、どういうこと?」
Heroは資料をじっと見つめる。
「分からないな…」
YONAGIが小さく息を吸った。
「……私、知っています。」
全員がYONAGIを見る。
「黒曜会では、
昔から『処理』という言葉を使っていました。」
「どういう意味?」
Jokerが尋ねると
YONAGIは少し考えてから答えた。
「その人間を、表の世界から切り離すこと…」
Knightが眉をひそめる。
「具体的には?」
「それ以上は……私も詳しく知りません。」
YONAGIは俯いた。
「ただ、黒曜会が自分たちの利益になるように、
人を動かしていたことはあります。」
Heroは黙っていた。
やがて――
「……この依頼は受けないぞ」
Heroがはっきりと言った。
Jokerが頷く。
「俺も賛成」
Dollも続く。
「人を捕まえて、
その後どうするか分からないなんて……怖すぎるよ。」
Mirageは資料を閉じる。
「私も嫌だわ…」
Knightも腕を組む。
「同じく反対だ。」
Maskは最後まで資料を確認していた。
「俺も反対です。」
HeroはYONAGIを見る。
「YONAGIは?」
YONAGIは少しだけ迷い――
「……私も、CKRの仲間として反対します。」
Heroは頷いた。
「分かった。」
その瞬間だった。
――ピンポーンと
突然、事務所のインターホンが鳴った。
全員が振り返ると
Knightが立ち上がる。
「こんな時間に誰だ?」
Maskが端末を確認する。
「外に人が一人」
「黒曜会か?」
「……おそらく」
Heroが立ち上がった。
「俺が出る。」
玄関を開けると
そこに立っていたのは――
黒鉄迅だった。
黒いコートを着て、
いつもの穏やかな笑みを浮かべている。
「こんばんは」
Heroは表情を変えない。
「何の用だ?」
「封筒は読んだかい?」
「ああ…」
迅は少し笑った。
「どうだった?」
Heroは答える。
「断る」
一瞬――
迅の笑顔が消えた。
「……即答かい?」
「ああ…」
「理由は?」
Heroは一歩前へ出る。
「お前たちが
何をするつもりなのか分からないからだ。」
迅が黙ると
Heroの後ろからYONAGIが現れる。
「迅」
「……YONAGI」
「あなた、本当に私たちを仲間にしたいの?」
「もちろんだ。」
「だったら――」
YONAGIは自分の封筒を差し出す。
「この『処理』って何?」
迅は封筒を見ると
そして――小さく笑った。
「そこまで読んだか?」
その一言で、
YONAGIの表情が変わった。
「……知ってるの?」
「もちろん。」
Jokerが玄関の奥から声を飛ばす。
「じゃあ説明してよ!」
迅は七人を見る。
「簡単な話だ。
警察に任せても、何年もかかるし
確実な証拠がないと動いてくれない。
だから黒曜会が独自に動く。」
Heroが睨む。
「独自に?」
「そうだ。」
迅は淡々と答えた。
「法で裁かれない人間を、俺たちが確保する。」
「そして――」
一拍。
「二度と被害を出さないようにする。」
Dollが眉をひそめる。
「それって……正義なの?」
迅は答えずに
代わりにHeroを見る。
「君たちは、今まで何人もの人間を見てきた。」
「事件を起こしても逃げる奴
誰かを騙しても、また同じことを繰り返す奴」
「そういう人間を、君たちはどうする?」
Heroは答えない中
迅は続けた。
「俺たちは、そういう人間を放置しない。
それだけだ。」
Maskが静かに口を開く。
「……それにしては、
資料に報酬額が書かれています。」
迅の視線がMaskへ向く。
「報酬?」
Maskは一枚の紙を見せる。
「対象者一人につき、かなりの金額が動く。」
迅は笑った。
「当然だろ?
人を動かすには金が必要だからね…」
Maskは黙るが、
その表情は納得していなかった。
Heroも同じだった。
「帰れ…」
迅が目を細める。
「……いいの?」
「ああ…」
Heroは言い切った。
「俺たちは黒曜会には入らない。」
迅はしばらくHeroを見つめ――
やがて笑った。
「分かった。今日は帰るよ。」
迅は背を向けるが
玄関を出る直前に振り返った。
「ただし――
君たちは、これからもその対象者と出会う。」
Heroの目が鋭くなる。
「どういう意味だ?」
「コスプレイベントに行けば、会うし
撮影会に行けば、会うと思うぞ?
SNSを見れば、名前が出てくる。
君たちが表の世界で活動する限り――」
迅は微笑む。
「避けられないよ?」
そして玄関の扉が閉じたが
しばらく誰も動かなかった。
Jokerがため息をつく。
「……嫌な予告だな」
Knightが腕を組む。
「つまり、
これからも事件に巻き込まれるってことか?」
MirageがYONAGIを見る。
「大丈夫?」
YONAGIは黙っていた。
そして――
「……違う。」
全員が振り返る。
「何が?」
YONAGIはゆっくり顔を上げる。
「迅は、私たちを事件に巻き込みたいんじゃない。」
「じゃあ?」
YONAGIは封筒を見る。
「私たちに……『対象者』を見つけさせたいんです。」
Maskが目を細める。
「なるほど…」
Heroも気づいた。
「俺たちが事件を解決するたびに、
黒曜会にとって都合のいい人間が手に入る。」
「そういうことです。」
YONAGIが頷くと
Jokerが苦笑する。
「……つまり俺たちを使って、
人探しをしたいわけか?」
Heroは封筒を閉じた。
「なら、逆に利用してやる。」
全員がHeroを見る。
「黒曜会が何をしているのか」
Heroは静かに続ける。
「俺たちが調べるんだ!」
Maskが頷く。
「賛成です。」
Knightも立ち上がる。
「やることが決まったな?」
Dollがミシンの横へ戻る。
「じゃあ、また仕事?」
Mirageが笑う。
「CKRらしくなってきたじゃない♪」
Jokerもソファへ座る。
「さて……次の事件はどんな奴かな?」
YONAGIは自分の仮面を手に取った。
「……私も調べます。」
Heroが頷く。
「ああ…」
そして――
アトリエの照明が再び灯ると
七人はそれぞれの場所へ戻っていく。
表ではコスプレイヤー
裏では事件を追うCKR
しかし彼らはまだ知らない。
黒鉄迅が追っている「対象者」の中には――
ただの悪人ではなく、
黒曜会が利益を得るために利用している人間が
混ざっていることを
そして、
迅自身がその仕組みの中心にいることを
さらに――
その仕組みが完成すればするほど、
CKRの存在そのものが、
黒曜会にとって価値のあるものになっていくことを
夜のアトリエに、
ミシンの音が再び響き始めた。
次の事件は――
もうすぐそこまで来ていた。




