七人の試練
七つの扉が開くと
その向こうには、
それぞれ違う廊下が続いていた。
Heroは扉の前で立ち止まり、
六人を見回す。
「さっきも言ったが、これは罠だ。」
Jokerが笑う。
「分かってるよ。」
「でも、行くしかないんでしょ?」
Mirageが肩をすくめると
Heroは頷いた。
「ただし、目的を忘れるな。
黒鉄迅を探すんだ。」
YONAGIが静かに答える。
「そして、無事に連れ戻す。」
その言葉にHeroは一瞬だけYONAGIを見る。
「……ああ。」
七人がそれぞれの扉へ向かうと
扉が閉じた。
カチャン――
完全に一人になった。
Heroの前に広がっていたのは、
真っ白な部屋だった。
ホントに何もない
家具1つもない部屋の
中央に一台のモニターだけが置かれている。
突然、
画面が点灯し
そこに映ったのは――
黒鉄迅だった。
「……JIN?」
Heroが画面へ近づくと
映像の中の迅は、
どこか疲れた表情をしていた。
『Hero……いや、CKRのリーダー』
「お前が俺をここへ誘導したのか?」
『質問するのは、こっちだよ。』
迅が笑う。
『君は、仲間をどこまで信じられる?』
Heroの眉が動いた。
「……何?」
『例えば――』
画面が切り替わると
そこにはDollの姿が映った。
別室で、
誰かと話している。
『Dollが敵に捕まったら
君ならどうする?』
Heroは即答した。
「助けに行く。」
『罠かもしれないのに?』
「それでも行く。」
『仲間が原因で、
他の仲間が危険になるかもしれないよ?』
「それでもだ。」
迅は黙り
そして、小さく笑う。
『なるほど……』
Heroは画面を睨む。
「これは試験か?」
返事は来ないまま
代わりに扉が開いた。
その先には、
Dollの姿があった。
「Hero!」
「Doll!」
Heroが駆け寄る。
だが――
Dollの足元には、
赤いラインが引かれている。
『その線を越えれば、彼女は助かる。』
スピーカーから迅の声が響く。
『ただし、君自身は戻れない。』
Heroが足を止めると
Dollは首を横に振る。
「来ちゃダメ!
Hero、これは罠よ!」
HeroはDollを見てから
ゆっくりと赤いラインを跨いだ。
「……知ってるよ」
Dollが目を見開く。
「え?」
「罠だってことくらい、最初から分かってる。」
Heroは前へ進む。
「でも、お前を置いていく理由にはならない。」
その瞬間――
パッと音がして
部屋の照明が戻った。
Dollの姿が消え
代わりに、扉が開いた。
『合格だ』
迅の声だけが響き
Heroは拳を握る。
「……何が目的だ?」
しかし返事はなかった。
一方――
Jokerの部屋では
中に十人以上のコスプレイヤーがいた。
「え?」
Jokerが目を丸くする。
「何この人数?」
全員がJokerを見ている。
その中の一人が口を開いた。
「あなた、有名レイヤーよね?」
「まあね♪」
「だったら教えてよ」
「この中に――」
女性は笑う。
「黒鉄迅を消した犯人がいるよ?」
Jokerの笑顔が消えた。
「……誰?」
「あなた自身で探して」
そう言うと、
部屋の照明が落ちる
暗闇の中で、誰かが囁いた。
「誰を信じる?」
Jokerはしばらく黙っていた。
そして――
「全員だよ!」
「……え?」
「誰が犯人かなんて、今の俺には分からない。」
Jokerは笑った。
「だから全員を疑う。」
「でも――」
一歩進む。
「誰か一人を最初から犯人扱いする気はないよ!」
暗闇の向こうから、
笑い声が聞こえた。
『合格』
Knightの部屋
巨大な倉庫の中に
大量の機材が並べられていた。
「……なるほど」
Knightが周囲を見ると
監視カメラに
照明と
通信設備
すべてイベント会場で使用されていたものと同じだ。
一台のモニターに文字が浮かぶ。
**『三分以内に脱出せよ』**
Knightが時計を見る。
「面白い。」
彼は工具箱を開いた。
「こういうのは得意分野だ!」
Mirageの部屋
壁一面に写真が貼られていて
そこには、様々なコスプレイヤーが写っている。
その中には黒鉄迅もおり
そして――隣にはYONAGIが映っている。
Mirageは一枚の写真を手に取った。
「……これ」
迅とYONAGIが
初めて一緒にイベントへ参加した時の写真だった。
その写真の裏には、
**『あなたは、この二人のどちらを信じる?』**
と書かれている。
それを見てMirageは眉をひそめる。
「くだらないわね!」
写真を置き
「二人とも、自分で選んだ道を歩いてるでしょ!
誰かに決められるものじゃないわよ!」
画面が点灯した。
『合格』
Maskの部屋
Maskだけは、
すぐに異変に気付いていた。
「……おかしい」
目の前に並んでいるのは、
数十台の端末
それぞれに違う暗号が表示されている。
だが――
「このシステム……」
Maskは端末を操作する。
「イベント会場のものじゃない。」
さらに解析すると、
「もっと古い。
少なくとも、数年前から存在している。」
その瞬間、画面に文字が浮かぶ
**『君は何を見つけた?』**
Maskは答えなかった。
さらに解析を進め
そして――
一つのファイルを発見する。
ファイル名**CKR**
それを見てMaskの手が止まった。
「……なぜ、俺たちの名前がここにある?」
しかしファイルを開こうとした瞬間、
アクセス権限が失われた。
「……!」
画面が暗転して
『まだ早い』
そう言われたMaskはモニターを睨んだ。
「……誰なんだ?」
YONAGIの部屋
そして――
YONAGIの前には、
一枚の写真だけが置かれていた。
黒鉄迅とその隣に、自分
二人が笑っている。
「……迅」
背後から声がする。
『あなたは彼を信じる?』
YONAGIは答えなかった。
『彼はあなたに何も隠していない?』
「……」
『本当に?』
YONAGIは写真を握る。
「迅は……私の相棒よ!」
『それだけ?』
「……」
『彼の裏の顔を、あなたは全部知っている?』
YONAGIは目を伏せる。
黒曜会での仕事は
迅が情報収集をしていて
失踪する直前に、
「少し気になる人物がいる」
と言っていたけれど
――何かがおかしい。
だが
「それでも……」
YONAGIは顔を上げた。
「私は迅を信じる。」
『どうして?』
「私が知っている迅は――」
一瞬だけ声が震える。
「私と一緒に、くだらないことで笑う人で
人気者でも、裏社会の人間でもない。」
「私が知っているのは――」
写真を胸に抱く。
「唯一の相棒よ!」
そして――
『合格』
YONAGIの前の扉が開いた。
数十分後
七人は最初の部屋へ戻っていた。
全員無事だったが
誰も笑っていなかった。
Heroが全員を見る。
「何を見せられた?」
Jokerが肩をすくめる。
「俺は人間関係のテスト」
Knightは苦笑する。
「俺は機材」
Mirageは写真を見せた。
「私は迅とYONAGIの過去」
Dollも頷く。
「私はHeroが仲間を助けるかどうか……」
Maskが黙っているのをみて
Heroが尋ねる。
「Mask?」
「……俺の部屋には、CKRのデータがありました。」
空気が変わった。
「CKRのデータ?」
「はい。」
Maskは端末を見せる。
「俺たちが
この組織を作る前の情報まで存在していた。」
Jokerが眉をひそめる。
「つまり――
誰かがずっと俺たちを調べていた。」
Heroが黙り込んだ。
その時だった。
奥の扉が開くと
そこに――
黒鉄迅が立っていた。
「……迅!」
YONAGIが駆け寄るが
迅は片手を上げた。
「待って」
YONAGIが止まると
迅はゆっくり七人を見る。
服は乱れていないし
それに傷もない
拘束された形跡もない。
Jokerが目を細めた。
「……あれ?」
Knightも気付く。
「怪我がない?」
Mirageが迅を観察する。
「本当に監禁されていたの?」
迅は笑った。
「もちろん…」
Heroが尋ねる。
「なら、なぜそんなに平然としている?」
「さあ?」
迅は肩をすくめた。
「怖くて動けなかっただけだ…」
YONAGIが迅へ近づく。
「迅……本当に大丈夫?」
「ああ…」
迅は優しく笑う。
「ありがとう、YONAGI」
その笑顔を見て、YONAGIは少しだけ安心した。
しかし――
Heroだけは、
迅から目を離さなかった。
何かがおかしい
その違和感を、
まだ言葉にはできない。
迅は六人を見渡し
そして静かに言った。
「……君たち、強いね」
Jokerが笑う。
「そりゃどうも!」
「俺を助けるためだけに、
ここまで来るとは思わなかったよ…」
Heroが答える。
「仲間を見捨てる理由はない。」
迅は一瞬黙った。
そして――
「だからこそ、君たちを選んだ。」
「……何?」
Heroの目が鋭くなる。
迅は微笑んだ。
「いや…何でもない。」
その瞬間
部屋の奥にあった巨大な扉が開いた。
その先には、
イベント会場へ戻る通路が続いている。
「出口だ!」
迅が言う。
「帰ろう。」
七人は互いに顔を見合わせた。
そして、歩き出す。
だが――
誰も気付いていなかった。
迅が最後尾で足を止め、
誰にも見えないように
スマートフォンを取り出していたことに
画面には、一つのメッセージ。
**『第一段階、終了』**
迅は短く入力する。
**『能力、確認しました』**
少し間を置いて――
**『CKRは想定以上です』**
送信
そして最後に、
**『黒曜会への勧誘を開始して構いません。』**
迅はスマートフォンをしまって振り返ると
そこには、
何も知らずに歩いていくCKRの六人とYONAGIがいる。
迅は小さく笑った。
「……やっぱり
君たちは――」
その声は、誰にも届かなかった。
「俺たちの側に来るべきだ。」
そしてその夜
黒曜会の内部では――
CKRを正式に引き入れるための計画が、
動き始めていた。




