閉じ込められた会場
大型モニターに映し出された女は、
楽しそうに笑っていた。
『あなたたちも――
私のコレクションになってくれる?』
会場にはざわめきが広がっている。
しかし、
それは恐怖というよりも困惑だった。
「何これ?」
「イベントのサプライズ企画?」
「撮影イベントかな?」
「JINって誰?」
参加者たちはスマートフォンを取り出し、
スクリーンを撮影している。
誰も、
CKRの七人が狙われているとは思っていない。
むしろ――
「おい、あの人たち!」
「さっきからスクリーンに出てる人じゃない?」
「何かの企画参加者なのかな?」
そんな声が聞こえてくる。
Heroは周囲を見回した。
「……Mask」
「はい。」
「会場の連中は、
俺たちが狙われているとは思っていないな?」
「今のところはそうですね…」
Maskは小型端末を操作する。
「イベント運営側も、
今回の映像を予定された演出だと
認識しているようです。」
Jokerが苦笑する。
「つまり犯人は、
イベントそのものに紛れ込んでるってこと?」
「おそらく。」
Mirageが腕を組む。
「だったら、
私たちが慌てて動いたら逆に怪しまれるわね?」
Knightが頷く。
「一般参加者を巻き込むのも避けたい。」
Dollが周囲を見る。
「みんな、何も知らないんだもの……」
YONAGIも静かに頷いた。
「JINを探している私たちだけが狙われているのね?」
Heroはスクリーンを見上げる。
「なら――相手の狙い通りに動いてやる。」
「え?」
Jokerが振り返ると
Heroは小さく笑った。
「ただし、俺たちのやり方でな?」
その瞬間だった。
会場のスタッフらしき男性が、
七人へ近づいてきた。
首にはイベントスタッフ用のIDカードをかけていた。
「すみません。」
男性は丁寧に頭を下げる。
「先ほどの映像について、
運営から確認したいことがあります。」
Jokerが首を傾げる。
「俺たち?」
「はい。」
男性は周囲に聞こえるよう、
明るい声で続けた。
「今回の特別企画に関する確認です。
出演者専用の控室へご案内します。」
「特別企画?」
Dollが尋ねる。
「はい。」
男性は笑顔を崩さない。
「先ほどの映像に関係する、
シークレットステージです。」
会場の参加者たちは、
それを聞いて納得したように頷いている。
「やっぱりイベント企画だったんだ!」
「すごい!」
「何が始まるんだろう?」
誰も疑っていない。
Heroは男性を見つめた。
そして――
イヤホンへ小さく声を送る。
「全員、通常通りにしてください。」
『了解。』
七人は何事もなかったようにスタッフについていく。
ただし、全員が気付いていた。
このスタッフの
胸元のIDカードのロゴが――
イベント公式のものとは、
ほんの少しだけ違っていた。
数分後
七人は会場の裏側にある通路へ入った。
一般参加者の姿は徐々に減っていく。
聞こえていたシャッター音も、
歓声も遠ざかっていった。
Jokerが小声で呟く。
「……随分、静かなところまで来たね。」
Knightが周囲を見る。
「スタッフ用通路だな。」
Maskが端末を確認する。
「この先にある部屋は、
イベントの公式マップには存在しません。」
Heroの目が細くなる。
「やっぱりな…」
YONAGIが小さく息を吐く。
「最初から、
私たちだけを誘導するつもりだったんですね。」
「そういうことだな…」
先頭を歩いていたスタッフが足を止める。
「こちらです。」
そこには黒い扉があった。
プレートには、
**『関係者専用』**
とだけ書かれている。
スタッフがカードキーを取り出す。
「どうぞ、お入りください。」
カチャリと扉が開いた。
中は広い部屋で壁には何もない。
中央には長いテーブルと
そして――七つの椅子
Jokerが部屋を見回した。
「……七つ?」
Knightが眉をひそめる。
「俺たちの人数を知っていたってことか?」
スタッフは何も答えないで
ただ笑顔のまま、
「皆様、こちらで少々お待ちください。」
そう言って扉を閉めた。
カチャンと鍵が掛かる音がして
Dollが振り返る。
「……閉じ込められた?」
Maskが扉を調べる。
「電子ロックですね…」
Jokerが肩をすくめる。
「歓迎されてるとは思えないねぇ」
Heroは部屋の中央へ歩く。
「全員、落ち着け」
その瞬間――
部屋の照明が落ちた。
「!」
いきなり真っ暗になり
そして
ピッと
小さな電子音が鳴ると同時に
壁に大型モニターが浮かび上がった。
そこに映ったのは――
黒鉄迅だった。
「……JIN!」
YONAGIが画面へ近づく。
映像の中で、
迅は椅子に座っていて
手足を拘束されているようには見えない。
しかし、その表情は険しい。
『YONAGI……?』
映像の中の迅が呟いた。
YONAGIの顔が強張る。
「JIN!」
『来るな!』
突然、迅が叫んだ。
『そいつらの言うことを聞くな!』
映像が一瞬乱れ
そして――
画面にあの女性が現れた。
黒い衣装に
左目の下の黒い星
「こんばんは」
女性は微笑む。
「ようこそ、皆さん」
Heroが画面を睨む。
「お前は誰だ?」
「そんなに怖い顔をしないでほしいわ…」
女性は楽しそうに笑った。
「私はただ、皆さんと遊びたいだけよ♪」
Jokerが吐き捨てる。
「JINを返せ!」
「もちろん…返すわよ!」
女性は頷いた。
「でも、その前に――」
画面が切り替わると
そこには七つの映像
Hero
Doll
Joker
Mirage
Knight
Mask
そしてYONAGI
それぞれが
コスプレイヤーとして活動している姿だった。
「あなたたちのこと、たくさん調べたのよ♪」
Dollが息を呑む。
「……いつから?」
女性は笑う。
「黒鉄迅を探し始める前からよ♪」
Heroの表情が変わった。
「俺たちを調べていた?」
「ええ…
でも安心して?」
女性は人差し指を口元に当てる。
「あなたたちがCKRだなんて、
誰にも言ってないから♪」
六人の空気が一瞬で変わった。
だが――女性は続ける。
「だって、
私はあなたたちを
イベント参加者としてしか知らないもの」
Heroは黙った。
その言葉には、一つの意味があった。
**CKRの正体は、まだ知られていない**
この場で下手に動けば、
それを自分たちから露呈してしまう。
Maskもすぐに理解した。
「……Hero」
「ああ…」
Heroは小さく頷く。
「俺たちは、ただのコスプレイヤーだ!」
女性が笑う。
「そう…だから――」
彼女は画面越しに七人を見つめる。
「今日はコスプレイヤーとして遊びましょう?」
その瞬間
ガコンッ!と
部屋の壁が開いて
奥から別の通路が現れる。
そこには――
七つの扉
それぞれに名前が書かれていた。
**HERO**
**DOLL**
**JOKER**
**MIRAGE**
**KNIGHT**
**MASK**
そして、
**YONAGI**
YONAGIが息を呑む。
「……分断するつもり?」
「正解♪」
女性は笑った。
「一人ずつ、あなたたちに質問するのよ♪」
「そして――
正しい答えを出せたら、迅に近づける。」
Heroが低く尋ねる。
「間違えたら?」
女性は笑顔を崩さない。
「さあ?
間違えたら
その時のお楽しみよ!」
Jokerが舌打ちする。
「趣味悪すぎ…」
Knightが拳を握る。
「罠だな…」
「当然だろうな…」
Heroは六人を見る。
そして最後にYONAGIを見る。
「全員、聞いてくれ」
六人の視線がHeroへ集まる。
「この先、何が起きてもCKRの名前は出すな」
「俺たちはただのコスプレイヤーだ。」
「そして――」
Heroは自分の仮面に触れる。
「一人で戦っていると思わないでくれ」
Maskが頷く。
「通信は?」
「維持する。」
「ただし、
向こうに傍受されている可能性があります。」
「なら、必要最低限だけだ。」
YONAGIが拳を握る。
「分かりました。」
Heroは静かに笑う。
「よし」
その瞬間、
七つの扉が同時に開いて
女性の声が響く。
『さあ――
あなたたちの仮面の中身を見せて?』
七人は、それぞれの扉を見つめる。
その先に何が待っているのか
誰も知らない。
ただ一つ分かっていることがある。
これは――
黒鉄迅を探すための潜入ではない。
**七人自身を狩るために用意された舞台だ**
そして犯人はまだ、
CKRの正体を知らない。
だからこそ――
Heroは静かに笑った。
「……逆に利用してやる。」
七人はそれぞれの扉へ向かって歩き出した。
その直後――
誰もいなくなった部屋のモニターに、
一つの文字が浮かび上がる。
**『第一幕――開始』**
そして別室では、
黒鉄迅が静かに目を開けていた。
「……来たか」
その口元には、
ほんの僅かな笑みが浮かんでいた。




