謎の女
会場へ入った七人は、
それぞれ自然に散らばった。
巨大な展示ホールには、
数え切れないほどのコスプレイヤーが集まっている。
人気レイヤーの周囲には人だかりができ、
カメラマンたちがシャッターを切り続けていた。
「すごい人……」
YONAGIが小さく呟く。
「これなら、
誰か一人くらいは
変な動きをしてても分からないわね?」
Mirageが周囲を見渡すと
Heroは頷いた。
「だからこそ、慎重に動くんだ……」
そして、Maskへ視線を向ける。
「JINが最後に確認されたのは、
会場の裏口付近だったよな?」
Maskが小型端末を確認する。
「はい…
最後に記録されているのは、
会場西側の裏口付近です。
裏口周辺を中心に調べてみます。」
「俺はカメラマン側と交流してみる!」
Jokerが手を上げる。
「JINと交流があったカメラマンなら、
何か知ってるかもしれないしね?」
Knightが続く。
「俺は搬入口とスタッフ側を確認する。」
Dollは笑顔を浮かべた。
「私はレイヤーの交流スペースを見てくるね?」
Mirageも頷く。
「じゃあ私は人気レイヤーの集まるエリアを探るわ。」
Heroは最後にYONAGIを見る。
「YONAGIは俺と一緒に来い。」
「了解。」
七人は、それぞれ別方向へ歩き始めた。
もちろん、全員が小型イヤホンで繋がっている。
表では、ただのコスプレ仲間だが、
その裏では完全に連携していた。
数十分後
「こちらJoker」
イヤホンから声が入る。
「JINの名前を知ってるカメラマンを
何人か見つけた。」
Maskが返す。
「何か情報は?」
「一週間前までは
普通に活動してたって話をしてくれた。」
「失踪直前のことは?」
少し間が空く。
「一人だけ、気になる話があった。」
Heroが反応する。
「聞かせてくれ」
「JINさ……最近、
知らない女性レイヤーと一緒にいるところを
何度か目撃されてたらしいよ?」
YONAGIの表情が変わる。
「女性レイヤーですか?」
「うん」
Jokerが続ける。
「ただ、名前は分からないらしい。」
その時、Mirageから通信が入った。
「それなら、私の方でも似た話を聞いたわ。」
「本当?」
「ええ」
Mirageの声が少し低くなる。
「JINはここ一ヶ月くらい、
ある女性レイヤーとよく話していたらしいの。」
Heroが尋ねる。
「特徴は?」
「黒い衣装」
Mirageが少し考える。
「それと……左目の下に、
小さな黒い星のマークがあったそうよ。」
YONAGIが顔を上げた。
「……黒い星?」
その瞬間だった。
Maskから通信が入る。
「全員、聞いてください。」
いつもの冷静な声だったが、
僅かに緊張している。
「今、会場内の過去の写真を検索しています。
JINが参加したイベント写真を
中心に調べていたんですが……」
一拍
「見つけました。」
Heroが足を止める。
「何を?」
「JINの写真です。」
Maskから送られてきた画像が、
Heroたちの端末に表示される。
そこに映っていたのは、
二週間前に開催された別のイベントの写真だった。
中央にはJIN
そして、その隣には――
黒い衣装を着た女性レイヤーが立っていた。
二人とも笑顔で写っているが、
女性の笑顔にはどこか違和感があった。
そして左目の下には――
黒子のような小さな黒い星
YONAGIが写真を見つめる。
「この人……」
「誰か分かるか?」
Heroが尋ねると
YONAGIは首を横に振った。
「知らないわ……」
Maskが写真を拡大すると、
女性の首元に奇妙なペンダントが映った。
黒い石
その中央には――
**割れた仮面のような紋章**
Heroの目が鋭くなる。
「……これだ。」
以前、
JINの失踪現場の写真に写っていた
マークと同じだった。
Jokerの声がイヤホンから響く。
「つまり……」
Knightが続ける。
「この女が
JINの失踪に関係してる可能性が高いな……」
YONAGIが拳を握る。
「探しましょう。」
Heroは周囲を見渡した。
「待て……」
「どうしました?」
Heroは会場の奥を見つめていた。
人混みの向こうに
一瞬だけ――
黒い衣装の女性が見えた。
そして、
こちらを見ていた。
左目の下には――
黒子のような小さな黒い星がある。
「……いた。」
Heroが呟く。
女性はHeroたちと目が合った瞬間、
ゆっくりと振り返った。
そして――
人混みの中へ消えていった。
「YONAGI」
「はい」
「追うぞ!」
二人が女性の後を追おうとした
その瞬間――
会場の大型モニターが突然切り替わった。
イベントの宣伝映像が消え
黒い画面になり
そして中央に、白い文字が浮かび上がった。
**『仮面を被る者は、仮面を剥がされる』**
会場がざわめく。
「何これ?」
「演出?」
「イベントの企画じゃないの?」
参加者たちが一斉にスクリーンを見上げる。
そして――
次の文字が表示された。
**『有名コスプレイヤーJINを探している者へ』**
Heroの足が止まり
YONAGIが息を呑んだ。
「……私たちを狙ってるの?」
Maskの声がイヤホンから響く。
「Hero、
これは会場内のシステムから直接流されています。」
「つまり、誰かが会場の設備を乗っ取ったのか?」
Knightが低く言う。
「ってことは……」
Jokerの笑みが消える。
「俺たちが来ることも、
最初から分かってたってこと?」
その瞬間――
スクリーンに一枚の写真が映し出された。
JINとその隣に立つ――
あの女性
写真の下には、たった一言
**『次は、君たちをコレクションにする』**
会場全体が大きくざわめいた。
「コレクション……?」
「何の話?」
「怖……」
参加者たちの視線が、
スクリーンへ集中する。
その様子を見ながら、
Heroは拳を握った。
「……なるほどな…」
YONAGIがHeroを見る。
「どうします?」
Heroはスクリーンを見据えたまま答える。
「予定変更だ。」
一拍。
「この会場にいる敵を――
全員、炙り出すぞ。」
その瞬間
七人のイヤホンに、
同時に通信が入った。
Maskだった。
「Hero」
「どうした?」
「会場の出入口が……」
Maskが一瞬言葉を止める。
「全部、ロックされました。」
会場の空気が凍りつく。
ざわめきが広がり、
参加者たちも異変に気付き始める。
そして――
どこからともなく、
女性の笑い声が響いた。
「ふふっ……」
全員が振り返ると
大型スクリーンに、
先ほどの黒い星の女性が映し出された。
彼女は画面越しに微笑んでいる。
「ようこそ、皆さん」
その声は、会場中のスピーカーから響いていた。
「あなたたちも――」
一拍
「私のコレクションになってくれる?」
Heroの目が鋭く光る。
「……面白いな」
Heroはゆっくりと自分の仮面に触れた。
「その仮面――」
そして、
静かに言い放つ。
「俺たちが剥がしてやる。」
華やかなコスプレイベントは、
その瞬間――
ただのイベントではなくなった。
数千人の参加者が集まる巨大な会場の中に
閉じ込められた七人
そして――
彼らを狙う、正体不明の女
狩る側と、
狩られる側が入れ替わる舞台が、
今始まった。




