黒曜会からの依頼
翌日
CKR事務所
朝からアトリエでは、
ミシンの音が響いていた。
Dollは衣装の最終調整をし、
Mirageはウィッグを整えている。
Knightはイベント用の機材を点検し、
Jokerはソファに寝転びながら
スマートフォンを眺めていた。
その中央にあるテーブルには――
一通の黒い封筒が置かれている。
昨夜、CKRに届いたものだった。
表には宛名も差出人もなく
ただ、銀色の文字で――
**『黒曜会』**
とだけ書かれていた。
Jokerが封筒を指でつつく。
「ねぇ……これ、
どう見ても普通の依頼じゃないよね?」
Knightが腕を組む。
「黒曜会から直接ってことか?」
Mirageが封筒を眺める。
「ずいぶん堂々としてるわね…」
Maskが封筒を確認する。
「細工はありませんね…」
Heroはしばらく封筒を見つめていた。
そして――
「開けるぞ?」
Heroが封筒を開くと
中から出てきたのは、
数枚の写真と一枚の書類だった。
最初の写真には――
一人の青年が写っていた。
黒を基調とした衣装で
銀灰色のウィッグ
肩には大きな剣
イベント会場で大勢のファンに囲まれながら、
堂々とした笑顔を浮かべている。
Jokerが写真を覗き込む。
「……男レイヤー?」
Mirageが写真を受け取る。
「かなり有名よ?」
Maskが写真を確認する。
「名前は――」
一拍
「黒鉄 迅
二十五歳です。
「コスプレネームも同じく『JIN』で
SNSのフォロワーは約三十五万人います。」
Knightが眉をひそめる。
「三十五万人……相当な人気だな!?」
Mirageは別の写真を見ると
そこには、
黒い甲冑を身にまとった迅が写っていた。
まるで漆黒の鋼を
そのまま人の形にしたような姿をしている。
「この人……知ってるわ!」
Jokerも頷く。
「俺も見たことある!」
「男性系の衣装が多くて、
完成度がかなり高いレイヤーだったはずよ?」
Dollが写真を見る。
「表情の作り方も上手だね…」
Heroが写真の裏側を見ると
そこには、手書きの文字があった。
**『黒鉄迅を探してほしい』**
その下には――
**『彼は我々の仲間だ。』**
Knightが顔を上げる。
「……黒曜会の人間なのか?」
Maskが書類を確認する。
「そのようですね…
黒鉄迅は、表向きはコスプレイヤー
しかし裏では、
黒曜会に所属していた可能性があります。」
Jokerが苦笑する。
「表では人気レイヤーで
裏では裏社会の人間……か」
Mirageが写真を見つめる。
「まさに、仮面をつけた人間って感じね?」
Heroは何も答えなかった。
その時だった。
カチャ……
静かに事務所の玄関が開いた。
全員が一斉に振り返ると
Knightが立ち上がる。
「誰だ?」
玄関から入ってきたのは――
一人の女性だった。
黒いロングコートで
肩まで伸びた茶色の髪。
落ち着いた雰囲気をまとっているが、
その目には強い意志が宿っていた。
彼女は六人を見ると、
静かに頭を下げた。
「突然ごめんなさい!」
Jokerが首を傾げる。
「……誰?」
女性は少しだけ笑った。
「私の名前は――
白石紗夜です。」
Mirageが目を細める。
「どこかで会ったことあるわよね?……」
「そうかもしれません。」
紗夜は答える。
「表では、
私もコスプレイヤーとして活動していますから。」
そして懐から、一枚のカードを取り出した。
そこには――
黒曜会の紋章が刻まれていた。
「裏では、黒曜会の人間です。」
事務所の中が静まり返ると
Jokerが小さく口笛を吹く。
「なるほどね…」
Knightは警戒を解かない。
「今回の依頼人は、お前なのか?」
「はい。」
紗夜はテーブルへ近づき
そして黒鉄迅の写真を手に取った。
その瞬間――
彼女の表情が僅かに曇った。
「迅は、私の仲間です。」
Dollが尋ねる。
「それだけじゃないんでしょう?」
紗夜は少し黙った。
「……相棒でした。
私と迅は、表ではコスプレイヤーとして
二人で活動していて
そして裏では、黒曜会の仕事をしていました。」
Maskが確認する。
「情報収集?」
「ええ…」
紗夜は頷いた。
「迅は人の懐に入るのが得意でした。
イベントでは人気レイヤーとして振る舞いながら、
裏では情報を集めてました。」
「だから、多くの人間と接触していたんだな?」
Heroが写真を見る。
「それで、いきなり失踪したってことか?」
「はい。」
紗夜の声が少し低くなる。
「三日前に私一人で参加していた
コスプレイベントが終了した後、
迅から一度だけ連絡がありました。」
「『少し気になる人物がいる』と…
送られてきただけで
連絡試みようとしたんですがどれも繋がらず
それが最後でした。」
Maskが尋ねる。
「最後に確認された場所は?」
紗夜は一枚の写真をテーブルへ置いた。
そこにはイベント会場の裏口が写っていた。
それを見たMaskが
タブレットを使って画像を拡大する。
「怪しい人物がいます。」
画像の隅をみると
そこには、フードを被った人物が一人立っていた。
顔は見えないが――
胸元には見覚えのないマークが刻まれている。
**半分に割れた仮面。**
Heroの目が鋭くなる。
「……このマークは?」
紗夜が静かに答える。
「黒曜会のものではありません。
私たちが知る、どの組織のものとも違います。」
Jokerが写真を覗き込む。
「じゃあ、誰のマークなんだ?」
「分かりません。」
紗夜は首を横に振る。
「ただ――
迅は、このマークを調べていました。」
Maskが顔を上げる。
「失踪する前から?」
「はい…
私は迅がこのマークに関係する何者かに
狙われたと思っています。」
そう言われて
Heroはしばらく写真を見つめてから
紗夜へ視線を向ける。
「お前はどうする?」
紗夜は迷うことなく答えた。
「迅を探します。
たとえ、黒曜会を敵に回してでも…」
Knightが眉を上げる。
「覚悟はできてるってことか?」
「はい。」
紗夜は六人を見る。
「だから、私も同行させてください!」
MirageがHeroを見る。
「彼女が一緒なら、
イベントへの潜入もしやすいわね♪」
Maskも頷く。
「表のコスプレイヤーとして活動しているなら、
自然に情報収集できます。」
Jokerが笑う。
「それに、俺たちもコスプレイヤーだし…
七人なら、それなりに目立つかもね♪」
Knightがため息をつく。
「お前、それ楽しんでるだろ?」
「もちろん♪」
Dollが笑った。
「でも、迅さんを見つけるためなら必要なことよ?」
Heroはしばらく考えた。
そして――
「分かった。」
紗夜が顔を上げる。
「……本当にいいんですか?」
「ああ…」
Heroは黒鉄迅の写真を手に取る。
「ただし、俺たちの指示には従ってもらう。」
「分かりました。」
「それから――」
Heroは写真の中の迅を見る。
「必ず生きて連れ戻す。」
紗夜は強く頷いた。
「……お願いします。」
その時
壁に掛けられていた六つの仮面の隣に――
紗夜が持っていた仮面が置かれた。
Jokerがそれを見て笑う。
「これで七人か?」
Heroは仮面を見つめる。
「いや」
一拍
「表向きは――」
Heroが静かに続けた。
「七人のコスプレイヤーだ。」
紗夜が小さく笑う。
「そして裏では?」
Heroは黒鉄迅の写真へ視線を戻した。
「迅を探す。」
「準備に取りかかってくれ!」
七人は、静かに準備を始めた。
次の舞台は――
**コスミカル東京**
華やかな衣装と笑顔の裏側で、
裏社会の人間たちが交差する場所である。
そして、
その中には――
黒鉄迅を消した何者かがいる。
CKRの新たな事件が、
静かに動き始めた。




