仮面のコレクター
深夜
廃スタジオの前に、
一台の車が停まった。
エンジンを切り
七人が車から降りる。
目の前にあるのは、
星宮レイが最初に襲われた場所
三週間前
レイはここで配信をしていて
途中で――消えた。
湊は建物を見上げたまま、
強くカメラバッグを握りしめる。
「……ここに、レイがいる。」
Heroが頷く。
「ああ。」
Maskが端末を確認する。
「通信は遮断されています。」
「監視カメラも?」
「すべてこちら側からは確認できません。」
Jokerが苦笑する。
「最後の最後まで、性格悪いねぇ…」
Knightが周囲を見回す。
「罠の可能性は?」
「高いな…」
Heroは即答した。
「それでも行く。」
Dollが静かに息を吐く。
「うん。」
Mirageが仮面を直す。
「ここまで来たら、終わらせましょう。」
七人は建物の中へ入った。
廃スタジオの内部は
以前とは違い、
照明がすべて点いていた。
床には白い線が引かれていて
その先には、大きな扉があった。
Maskが近づく。
「電子ロックです。」
Jokerが周囲を見る。
「どうやって開ける?」
「……必要ない。」
Heroが言った。
「向こうから開けてくれるだろう」
その直後
カチッと音が鳴り
扉がゆっくり開いた。
「……来たね?」
スピーカーから声が響く。
NoFaceだった。
『歓迎するよ、CKR』
Heroが前へ出る。
「レイを返せ!」
『そんなに急がないでくれよ…
最後の時間くらい、ゆっくり楽しもうよ♪』
部屋の奥にある
大型スクリーンが点灯する。
そこには、
これまで失踪した人たちの映像が映し出された。
レイに
ゲーム配信者
メイク配信者
Vlog配信者
コスプレイヤー
高校生の配信者
そして――
過去にNoFaceが狙った人間たちと思われる
映像が流れ出した。
それを見てDollが息を呑む。
「……こんなに?」
Maskが映像を解析する。
「全員生存しています。」
全員が振り返る。
「本当に?」
Maskは頷く。
「映像データは加工されていますが、
少なくとも死亡した形跡はありません。」
湊が叫ぶ。
「レイは!?」
すると
一つの画面が拡大された。
そこに――
星宮レイが映った。
「レイ!」
湊が駆け出そうとすると
Heroが腕を掴んだ。
「待て!」
『その通り』
NoFaceの声が響く。
『焦らないでくれ…彼女はそこにいる。
君たちが一歩間違えなければ、ね?』
Heroが睨む。
「条件は?」
『簡単だよ♪
私を理解すること。』
「……何?」
『どうして私が、彼らを集めたのかをね?』
画面に映る失踪者たち
『彼らは皆、誰かに見られることを望んでいた。』
『人気者になりたかった。
注目されたかった。
自分を演じていた。』
『でも――』
NoFaceの声が低くなる。
『人気がなくなれば、誰も見なくなる。』
『だから私は、彼らを永遠に残した。』
Mirageが怒りを滲ませる。
「それは残したんじゃないわ…
アンタが勝手に閉じ込めただけよ!」
『違う!』
初めてNoFaceの声が荒れた。
『忘れられるくらいなら――
私が覚えていればいい!』
Heroが静かに言う。
「……それがお前の答えか?」
『そうだ!』
「違うな…」
Heroは一歩前へ出る。
「お前は人を見ていない。」
『……』
「この人たちの写真と映像を見ているだけだ…」
NoFaceが黙る。
「衣装と顔
それに動画の再生数と人気なのかどうか」
「その4つものしか見ていない」
「その人間が何を考えているのか、
何を望んでいるのか」
「お前は一度も見ようとしていない!」
沈黙してから
湊がHeroの隣へ立った。
「レイは……
数字のためにコスプレしてたんじゃない!」
「俺と一緒に、好きな作品を作りたかったんだ…」
「笑ったり、失敗したり、
くだらない話をしたり……」
湊は画面を見つめる。
「そういう全部が、レイなんだ…」
『……黙れ』
「黙らない…」
湊は初めて声を荒げた。
「レイを返せ!」
その瞬間
画面が暗転した。
そして――
大きな音とともに、
部屋の奥の扉が開く。
「……!」
中から失踪していた数人の男女が出てきた。
全員、無事だった。
そして最後に――
「湊……?」
弱々しい声がして
湊の目が見開かれる。
「レイ……!」
星宮レイだった。
少し痩せていて
髪も乱れている。
それでも――
間違いなく本人だった。
湊は駆け寄る。
「レイ!」
「湊……遅いよ……」
涙を浮かべながら、レイが笑う。
「……でも、来てくれた。」
「当たり前だろ!」
湊はレイを抱き締める。
「絶対に探すって決めてた。」
CKRの六人も、
静かにその光景を見つめていた。
だが――
Heroだけが、周囲を警戒していた。
「……NoFace」
返事がない。
「どこだ?」
その時
背後から声がした。
『ここだよ?
全員が振り返る。
そこには――
白い仮面を被った人物が立っていた。
NoFaceの手には小さなナイフが握られていたが、
誰も近づこうとはしない。
ただ、Heroを見つめている。
『これで全部終わりだと思う?』
Heroは答えた。
「ああ…」
『なぜ?』
「お前の仮面は、もう剥がれた。」
NoFaceが動きを止めても
Heroは続ける。
「もう誰も、お前の作った物語には付き合わない。」
「レイも
ここにいる全員も。」
「そして――」
Heroは自分の仮面を外した。
「俺たちもだ。」
六人が続く。
Doll
Joker
Mirage
Knight
Mask
そして最後にHero
全員が素顔を晒すと
NoFaceが震える。
『……どうして』
Heroが答える。
「俺たちも、
仮面の向こう側にいる人間だからだ。」
「だから分かるんだ
仮面を被っているからって――
人間まで消えるわけじゃない。」
NoFaceはゆっくり後退した。
その時
遠くからサイレンが聞こえた。
Maskが端末を見せる。
「通報済みです。」
NoFaceが笑う。
『……警察を呼んだのか?』
「そう。」
Maskは淡々と答えた。
「今回は、あなたを裁くのは俺たちじゃありません。
あなた自身の罪を、法の前に残します。」
NoFaceはしばらく黙っていた。
そして――
白い仮面を外した。
その素顔を見て、
Heroは静かに目を細める。
「……神崎」
かつての事件で被害者だった男でもある
神崎零士は涙を流していた。
「俺は……ただ……」
声が震える。
「忘れられたくなかった。」
Heroは静かに答える。
「だったら、人を消すんじゃなくて
自分の名前で生きればよかったんだ…」
神崎は何も言い返せなかった。
やがて警察が到着し、
彼は抵抗することなく連行されていった。
廃スタジオに残されたのは――
救出された人々と、
事件を終えたCKRの六人
そして
湊とレイだった。
湊がレイを見る。
「帰ろう。」
レイは小さく頷いた。
「うん。」
その言葉を聞いたHeroは、
静かに出口へ歩き出した。
Jokerがその隣へ並ぶ。
「……終わったね。」
Heroは頷く。
「ああ…」
Knightが笑う。
「今度こそ、本当に終わりだな」
Mirageも微笑む。
「長かったわね。」
Dollが振り返ると
空には朝焼けが差し込んでいた。
Maskが最後に端末を閉じる。
「事件、解決です。」
Heroは朝の光を見る。
「帰ろう。」
六人は歩き出す。
その背後で――
白い仮面だけが、
床に静かに残されていた。
**長かった事件は、ようやく終幕を迎えた。**




