敵の目的
「……CKRの内部情報?」
Heroの声が低くなる。
通信の向こうで、
Maskが答えた。
『はい。まだ断定はできませんが
……俺たちしか知らないはずの情報が複数あります。』
「どんな情報?」
Knightが尋ねる。
『事務所の構造と過去の依頼内容
メンバー六人の担当分野
そして……』
Maskが一度言葉を切った。
『俺たちが表向きに使っている偽名まで…』
その瞬間、
空気が変わった。
Jokerの笑みが消える。
「……それ、外部から調べられるレベル?」
『無理です。』
「じゃあ……」
Dollが小さく呟く。
「誰かが、私たちの近くにいるってこと?」
「可能性はある。」
Mirageが周囲を見渡した。
先ほどまで賑やかだったイベント会場が、
急に不気味な場所に見えてくる。
無数の参加者である
スタッフと
カメラマン
それにコスプレイヤー
その誰もが、
敵に見えてしまう。
Knightが拳を握った。
「だったら、さっきの男も囮かもしれないな?」
男は黙ったまま、
六人を見ていた。
やがて静かに口を開く。
「……僕も、何も知らないんです。」
Heroが男を見る。
「信じろと?」
「信じてくれとは言いません。」
男は苦しそうに笑った。
「僕だって……NoFaceが怖い。」
湊が男を見つめる。
「じゃあ、どうして協力したんですか?」
男は少し俯いた。
「……脅されたからです。
家族に手を出すと…」
その言葉に、
誰も口を挟まなかった。
「逆らえば、家族がどうなるか分からない…
だから言われた通りにした。」
「写真を撮って、
人物を調べて、
情報を渡した。」
男は胸元の白い仮面バッジを握りしめる。
「でも……人が消えていくのを見て、
怖くなった。」
Heroはしばらく男を見つめた。
「レイを知っているか?」
「直接は……」
「最後に見たのは?」
男は目を閉じる。
「……数カ月前です。」
湊が息を呑んだ。
「どこで?」
「このイベントです。」
「嘘だろ……」
湊が一歩前へ出る。
「確かに…俺はレイと一緒に会場へ来た。
その時にもいたってことか?……」
「はい。」
男は頷いた。
「あなたが撮影している場所の近くにいました。」
湊の顔が強張る。
「俺の近くに……?」
「でも、レイさんを連れて行ったのは僕じゃない。」
「誰が?」
男は答えようとした。
その時――
パンッ!
会場の照明が一斉に消えた。
「!」
悲鳴が上がる。
「停電!?」
「押さないで!」
「何が起きてるの!?」
会場内が騒然となり
非常灯だけが赤く点滅する。
Heroがすぐに指示を出した。
「全員、動くな!」
『Hero、監視カメラが全部落ちた!』
Maskの声だ。
「復旧は?」
『無理です!外部から強制的に切断されています。』
Mirageが周囲を警戒する。
「またNoFaceね?」
「たぶんな…」
Jokerが苦笑する。
「本当に派手好きだな、あいつ…」
その時
スクリーンが一台だけ点灯した。
真っ暗な画面に
中央に白い文字が浮かぶ。
『一人目』
「……一人目?」
Dollが呟くと
次の瞬間
画面が切り替わった。
そこに映ったのは――
CKR事務所
六人が普段使っている作業部屋だった。
Dollが息を呑む。
「……事務所?」
映像には、
誰もいないはずの事務所が映っている。
ミシンや衣装にウィッグ
そして壁に並べられた六つの仮面
その映像を見た瞬間、
Heroの表情が変わった。
「……今、誰もいないはずだろ!?」
Maskが答える。
『はい。』
「つまり――」
『誰かが、事務所に侵入しています。』
Jokerが舌打ちする。
「俺たちを会場に集めて、
その隙に事務所へ?」
Knightが低く呟く。
「最初からこれが目的だったのか?」
Heroはすぐに決断した。
「戻るぞ!」
「でも、レイは?!」
湊が叫ぶと
Heroは一瞬、スクリーンを見る。
「もちろん、レイも助ける。
ただし――先に俺たちの拠点を守る。」
七人は一斉に動き出した。
しかし
「待って!」
Maskの声が響いた。
「もう一つあります。」
「何だ?」
『さっきの映像……おかしいです!』
Maskが画面を解析する。
『映像は現在の事務所ではありません!』
Heroが足を止める。
「どういうことだ?」
『撮影日時を確認しています。』
数秒
『……二週間前です。』
「二週間前?」
『はい。』
「じゃあ、誰もいない事務所を撮影しておいた?」
『それだけじゃありません。』
Maskの声が震える。
『映像の中に……一人、映っています!』
大型スクリーンが再び切り替わった。
映像の隅
作業机の前に、
一人の人物が立っている。
顔は見えない。
黒い服に
長い髪
そして――
白い仮面
湊が呟く。
「……NoFace?」
Heroは画面を見つめる。
だが
「違う。」
全員がHeroを見る。
「何が?」
Heroは映像を拡大した。
「こいつはNoFaceじゃない。」
「仮面の形が違う。」
Maskが確認する。
『……確かに。』
Heroは目を細めた。
「NoFaceには、別の協力者がいる。」
その瞬間
映像の人物がこちらを向いた。
そして、
仮面に手を添える。
ゆっくり外す。
そこに映った顔を見て――
湊が絶句した。
「……え?」
Heroたちも言葉を失う。
映像の人物は――
**朝比奈湊だった。**
「俺……?」
湊の顔から血の気が引いていく。
「違う……俺じゃない!」
「俺はイベント仲間に飲み会誘われて
この場所に行ってない!……」
Jokerが湊を見る。
「湊……?
本当に知らないのか?」
湊は必死に首を横に振った。
「知らない!
俺はレイがいなくなってから、ずっと探して……
見つからなくて
やっとの思いでCKRに助けを求めて――」
「落ち着け。」
Heroが制した。
湊は荒い息を吐く。
Heroは映像をじっと見つめた。
「……偽物だ。」
Knightが尋ねる。
「分かるのか?」
「ああ。」
Heroは画面を指差した。
「歩き方が違うだろ?
湊は右足に少し癖がある。」
湊が驚く。
「……よく見てますね。」
「依頼人を観察するのも仕事だ。」
Heroは続ける。
「それに、この映像は二週間前だろ?
レイが失踪する前だ。
そして湊は、その頃からレイの撮影をしていた。」
湊は黙り込む。
Heroはさらに映像を分析する。
「つまり、NoFaceは湊の姿を使って――」
一拍。
「俺たちを疑わせようとしている。」
Jokerがため息をつく。
「性格悪すぎるだろ……」
Mirageがスクリーンを睨む。
「私たちの仲間割れを狙ってるのね?」
「そういうことだ。」
その時
スクリーンに最後のメッセージが表示された。
『信じることは、仮面を剥がすこと。』
そして――
『次は、あなたたちの中から一人選ぶ。』
映像が消えると
会場に再び明かりが戻り
人々のざわめきが広がる。
しかし、
CKRの六人は動かなかった。
誰もが互いを見つめている。
NoFaceは、
CKRの情報を知っている。
事務所の内部も
過去の依頼も
そして、
メンバーの特徴まで
ならば――
**本当に内通者はいないのか?**
Heroが静かに口を開いた。
「全員、聞け!」
五人がHeroを見る。
「ここから先、誰も単独行動するな!」
Knightが頷く。
「了解。」
Dollも続く。
「うん。」
Mirageは湊を見る。
「湊もよ?」
「……はい。」
Jokerが珍しく真剣な表情で言う。
「NoFaceが何を企んでるか知らないけど……」
Maskが続ける。
「俺たちは、レイを見つける。」
Heroは六人を見回した。
「そして、NoFaceの正体を暴く!」
その時
湊のカメラから、
小さな電子音が鳴った。
「……?」
湊がカメラを確認すると
新しい画像が一枚、
保存されていた。
誰もシャッターを押していない。
画面に映っていたのは――
**レイの姿。**
そして、その隣に立つ人物は白い仮面だ。
画像の下には、
短い文字が添えられていた。
**『次は、ここへ来て』**
その下に表示された場所は――
東京国際展示ホールから数キロ離れた、
**廃棄された撮影スタジオ**
湊が震える声で言った。
「……レイがいるかもしれない。」
Heroは画像を見つめると
静かに仮面を直した。
「行くぞ」
Jokerが笑う。
「今度こそ、NoFaceの正体を拝みに行こうか?」
Knightが拳を握る。
「罠でも関係ない。」
Mirageが頷く。
「レイを取り戻すわよ」
Dollも静かに微笑む。
「そして、全部終わらせよう。」
Maskが端末を閉じる。
「場所、確認しました。」
Heroが歩き出す。
「だったら――」
六人と湊は、
人混みの中へ消えていく。
その背中を、
遠く離れた場所から誰かが見つめていた。
白い仮面の奥で、
誰かが静かに笑う。
「……そう
やっぱり、来てくれるんだ。」
そして――
次の舞台の幕が、
静かに上がった。




