協力者
男が人混みの中へ消えていく。
Heroたちは、
決して走らなかった。
走れば目立ってしまうから
ここは一万人を超える参加者が集まる大型イベント
少しでも不自然な動きをすれば、
またNoFaceの舞台にされる。
「……Hero」
イヤホン越しにMaskの声がする。
「男の現在位置を確認しました。」
「どこだ?」
「西館三階。撮影エリアへ向かっています。」
Heroは歩調を変えずに答える。
「Joker、Doll」
「了解」
二人が自然に別方向へ回り込む。
「Mirage、Knightは西側の出口を確認してくれ」
「任せて!」
「了解!」
「湊は俺と来い」
「はい」
湊はカメラを構えたまま、
Heroの隣を歩く。
周囲から見れば、
撮影をしながら移動している二人にしか見えない。
パシャッと
湊が一枚撮影する。
「……何を撮ってるんだ?」
Heroが小声で尋ねる。
「周囲の状況です。
それと……」
湊は液晶をHeroへ向けた。
そこには、
先ほどの男の姿が写っていた。
「顔は?」
「かなり鮮明です。」
Heroは一瞬だけ画像を見る。
「よくやった。」
「ただ……」
湊の表情が曇る。
「この人、
レイのファンだったんでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「撮影していた写真の中に、
レイのコスプレ写真がありました。」
Heroの目が細くなる。
「レイの?」
「はい」
湊は別の写真を表示する。
そこには、
イベント会場で撮影された星宮レイの写真の
その端に男が写り込んでいた。
Heroが足を止める。
「……こいつ
レイの失踪前から、近くにいたのか?」
「たぶん…そうかもしれません」
湊は写真を拡大する。
「他にもあります。」
一枚
二枚
三枚
どの写真にも、
同じ男がいる。
それを知って
Heroの表情が変わった。
「偶然じゃない。」
その時
『Hero。』
Maskから通信が入る。
「過去のイベント写真を照合しました。」
「結果は?」
『この男性、レイさんだけじゃありません。
過去に失踪した
配信者のイベント写真にも写っています。』
Heroは低く息を吐いた。
「……NoFaceの協力者か?」
『その可能性が高いです。』
一方
西館三階
男は撮影エリアを抜け、
関係者専用通路へ入っていった。
JokerとDollが少し離れた場所から見ている。
「関係者限定の場所に入ったね…」
Dollが小声で言うと
Jokerは周囲を確認する。
「関係者通路かぁ……」
「追う?」
「いや…」
Jokerは笑みを浮かべた。
「俺たちより先に、
Knightたちが出口を押さえてると思うよ?」
イヤホンからKnightの声が響く。
『確認したぞ…
出口は一つだけだ。』
Mirageも続く。
『こっちも大丈夫よ?逃げ道はないわ。』
Jokerが頷く。
「じゃあ、Heroに任せよう。」
Heroと湊が撮影エリアへ到着すると
男の姿はない。
しかし、
床には小さな白い封筒が落ちていた。
Heroがしゃがんで拾う。
封筒には――
**CKR**
とだけ書かれている。
湊が息を呑む。
「これ……」
Heroは封筒を拾い上げ中身を確認すると
中には一枚のカードが入っていて
そこには短い文章が書かれていた。
『よく見つけたね?』
その下には、
『でも、君たちが追っているのは私じゃない。』
さらに一行
『私は、君たちが誰を信じるのかを見ている。』
Heroの眉が動く。
「……罠だ!」
その瞬間
バンッ!
背後の扉が閉まった。
「!」
湊が振り返ると同時に
Heroはすぐに湊の前へ出る。
「下がれ!」
暗い通路の奥に
人影が立っている。
先ほどの男だった。
「……来ると思っていましたよ?」
Heroは警戒しながら尋ねる。
「お前は何者だ?」
男はゆっくり両手を上げた。
「敵じゃありません。」
「なら、なぜ逃げた?」
男は苦笑する。
「逃げたんじゃなくて…
あなたたちを、ここへ誘導したんです。」
Heroの目が鋭くなる。
「NoFaceの仲間か?」
「……そう言われています。」
「質問に答えろ!」
男は少し黙った。
そして――
「僕は、NoFace本人に会ったことがありません。」
湊が驚く。
「え?」
男は胸元の白い仮面バッジを外した。
「これを付けろと言われただけです。」
「指定された人物を監視してほしい。
そして、必要な時に情報を渡すようにと」
Heroは男を睨む。
「レイの居場所は?」
男は首を横に振った。
「知りません。」
「嘘だ。」
「本当です。」
その時
Heroの端末が鳴った。
Maskからだった。
『Hero、急いでください!』
「どうした?」
『今、会場内の大型スクリーンが再び起動しました。』
Heroの顔が険しくなる。
『映っているのは――』
一拍。
『星宮レイです!』
湊の顔色が変わった。
「レイ……?」
そして、会場中に再び映像が流れ始めた。
今度のレイは、先ほどの配信とは違った。
薄暗い部屋で椅子に座った彼女が、
カメラを見つめている。
しかし――
その表情は穏やかだった。
「……みなさん」
レイが静かに口を開く。
「聞こえていますか?」
湊が一歩前へ出る。
「レイ……!」
映像の中のレイが微笑む。
「湊くん」
その瞬間
湊の動きが止まった。
「……俺の名前……」
Heroも画面を見つめる。
レイは続けた。
「そして――
CKRのみなさん。」
白い仮面が、
画面の端からゆっくり現れる。
レイの隣に立つNoFaceだ。
『次は、君たちが選ぶ番だ。』
画面が暗転する。
そして最後に一つだけ文字が浮かび上がった。
**「誰を信じる?」**
会場中が静まり返る。
Heroは手元のカードを見つめた。
そこに書かれていた言葉と同じだった。
――君たちが誰を信じるのかを見ている。
Heroはゆっくり顔を上げる。
「……なるほど。」
湊が尋ねる。
「何がですか?」
Heroは男を見る。
「こいつを捕まえることが目的じゃなかった。」
「最初から――」
Heroの目が鋭くなる。
「俺たちを試していたんだ。」
そして
Heroの通信機からMaskの声が響いた。
『Hero
もう一つ、見つかりました。』
「何だ?」
『レイさんの動画ファイルの中に――』
Maskが一瞬、
言葉を止める。
『CKRの内部情報が入っています。』
その瞬間
六人の間に、
冷たい沈黙が落ちた。
NoFaceは――
**CKRを知りすぎていた。**




