画面の向こう
秋の夜
CKR事務所では
一件目の事件が解決してから、
およそ三週間が過ぎていた。
事務所にはミシンの音が響いている。
Dollがイベント用の衣装を縫い上げ、
Mirageは完成したウィッグを整えていた。
Jokerはソファへ寝転びながら
スマートフォンを眺めている。
「いやぁ……最近のレイヤー配信ってすごいね♪
二十四時間配信とか普通にやってるし!」
Knightは工具箱を閉じながら笑う。
「俺には無理だな…
ずっとカメラ向けられてるとか落ち着かない。」
Heroは資料を読みながら小さく笑った。
「時代だな…」
その時
Maskがノートパソコンから顔を上げる。
「皆さん…
少し気になる話があります。」
全員がMaskを見る。
画面には、
一人の女性コスプレイヤーが映っていた。
銀色の髪に青い瞳をしていて
完成度の高い衣装。
動画サイトのトップ画面には、
大きくこう表示されている。
『星宮レイ 登録者八十万人』
Jokerが目を丸くした。
「この子知ってる!」
「超人気レイヤーじゃん!」
Mirageも頷く。
「イベントでもよく見るわ。」
「衣装も全部自作だったはずよ?」
Maskは動画を再生する。
「昨日の深夜に行われたライブ配信です。」
動画には、
廃スタジオらしき建物で
笑顔を見せるレイが映っていた。
『こんばんはー!』
『今日は廃スタジオから二十四時間耐久配信です!』
コメント欄が高速で流れていく。
『待ってました!』
『今日もかわいい!』
『寝ないぞ!』
『頑張れ!』
動画は順調に進んでいた。
しかし
一時間ほど経過したところで
レイの笑顔が消えた。
『……え?』
彼女の視線は画面の奥へ向く。
『誰……?』
コメント欄が一気に流れる。
『スタッフ?』
『演出?』
『ドッキリ?』
カメラの奥に
暗闇の中
白い仮面をつけた人物が静かに立っていて
一歩
また一歩と
ゆっくり近付いてくる。
『ちょ、ちょっと待って!……』
レイが後退する。
その瞬間
ガタンッ!!
思いっきりカメラが倒れた。
「きゃああっ!」
悲鳴と
激しい物音がして
映像が激しく揺れる。
やがて
白い仮面の人物がカメラを拾い上げ
レンズ越しにこちらを見つめる。
何も喋らない。
ただ
ゆっくり手を振った。
そして
配信は途切れた。
動画はそこで終わると同時に
事務所に沈黙が流れた。
Dollが小さく呟く。
「……怖かった…」
Knightは腕を組む。
「これ…演出には見えないな…」
Heroは画面を見つめたまま言った。
「警察は?」
Maskが答える。
「本人が配信のために姿を消した可能性もあると見て
炎上目的の自作自演として捜査してるようです。」
Jokerが首を横に振る。
「これは…違うと思う。」
Mirageもそれに続いて話す。
「交流することが多かったから言えるけど
レイさんは、こんなことする人じゃないわよ?」
その時だった。
コンコンと
事務所の扉が叩かれると
全員が顔を上げる。
代表でDollが扉へ向かう。
「はい。」
ゆっくり扉を開くと
そこには、一人の青年が立っていた。
肩には高価そうなカメラバッグを抱えており
目の下には深い隈ができている。
青年はCKRを見渡し、
小さく頭を下げた。
「アポなしで突然すみません…
俺は……朝比奈湊です。」
震える声で続ける。
「星宮レイを……
どうか助けてください!」
その一言で、
事務所の空気が変わった。
Heroは静かに立ち上がる。
「中へ入ってくれ……
まずは、君の話を聞こうか?」
こうしてCKRの新たな事件――
『配信の向こう側』が幕を開けるのだった。




