コレクターの痕跡
「逃げられたか……。」
Heroは人混みの奥を見つめたまま、
小さく呟いた。
周囲では何事もなかったかのように
撮影会が続いている。
楽しそうな笑い声や
鳴り止まないシャッター音が至る所から聞こえる。
だが、
CKRの六人だけは、
この会場に漂う違和感を確かに感じていた。
「まるで煙みたいだわ…」
Mirageが静かに言う。
「姿を見せたと思ったら、すぐ消えるし…」
Knightが腕を組む。
「相手も変装の技術を持っている。
しかも…俺たち以上かもしれないのが厄介だな…」
Jokerは苦笑いを浮かべた。
「初めてだよ?
追う側なのに追いつけないなんてな…」
Maskは監視カメラの映像を止め、
拡大を繰り返していた。
「……いや…
完全には消えていません。」
全員がMaskを見る。
「見てください。」
画面には白いコートの女性が映っている。
角を曲がる瞬間に
その一瞬だけ、
バッグの口が大きく開いていた。
「これって…」
Maskが画面を拡大する。
バッグの中から、
黒い革張りのアルバムがわずかに覗いていた。
「アルバム?」
Dollが首を傾けると
Maskはさらに画像を鮮明化する。
「ページが開いています。」
「写真が……貼ってあるぞ?」
Heroは画面を凝視した。
ぼやけてはいるものの、
一枚だけ見覚えのある写真が映っている。
銀色のウィッグを被り
大剣を担ぎ、笑顔を見せる青年。
「……奏斗だ!」
美月が思わず息を呑んだ。
「お兄ちゃん……」
その場の空気が凍りつく。
Maskは静かに頷いた。
「間違いありません。
この写真は…天宮奏斗さんです。」
美月の手が震え始める。
「なんで……
どうして兄の写真を……」
Dollはそっと美月の手を握った。
「落ち着いて?
まだ無事な可能性はあるから…」
美月は涙をこらえながら頷いた。
「……はい」
Heroはゆっくりと口を開く。
「写真を持っていたってことは…
つまり、偶然じゃない。」
「最初から奏斗を狙っていたってことだ。
そして、他の失踪者も同じで……
Mirageが続ける。
「全員、あのアルバムの中にいる。」
その言葉に、
誰も反論しなかった。
Jokerは珍しく笑顔を消し、
小さく呟く。
「コレクションか……」
「人間を、物みたいにする奴か…」
Knightの拳が強く握られる。
「許せないな…」
その時だった。
「すみません!」
若い男性スタッフが駆け寄ってきた。
「さっき皆さん、
白い衣装の女性を追い掛けていましたよね?」
Heroが振り向く。
「ああ…
何か知っているのか?」
スタッフは少し考えてから頷いた。
「あの人なら、数時間前にも見ましたよ!
本部で落とし物を届けてくれたんです」
「落とし物?」
「はい。」
スタッフは記録を確認する。
「男性用のネックレスでした。」
そう言いながらネックレスを見せてくる。
「すごく大切そうだから
持ち主に渡してくださいって言われて探してました。」
美月が顔を上げる。
「このネックレス……
兄がいつも着けてた
青い石の付いたネックレスです。」
スタッフは目を見開いた。
「もしかして妹さんですか?
では…これお兄さんに渡してください。」
そう言われてネックレスを渡された
美月の顔から血の気が引く。
「そんな……」
Heroの表情が険しくなる。
「その女性は、どこへ向かったんだ?」
「西館の休憩スペースですよ?
でも、そのあと姿は見てません。」
Heroは通信機に触れた。
「全員、西館へ向かうぞ!
まだ遠くへは行っていないはずだ。」
「「「「「「了解」」」」」」
六人は一斉に走り出した。
美月も必死にその後を追う。
その頃
西館の人気の少ない廊下で
黒髪へ変装した女性は、
自動販売機の前で立ち止まっていた。
手には、
青い石が付いたネックレス。
「ふふ……」
優しく指先で撫でる。
「ちゃんと預けたから安心して?
これで、あなたを探す人はもっと必死になる。」
静かな笑みを浮かべる。
その笑顔は慈愛にも見えたが、
その瞳の奥には常軌を逸した執着だけが宿っていた。
「奏斗くん
もう少しだけ待っていてね?
すぐに、新しいお友達を連れて行くから♪」
女性はネックレスをバッグへしまうと、
人混みの中へ静かに姿を消した。
一方、
CKRはまだ知らない。
自分たちの一歩先を、
"コレクター"が常に歩いていることを。




