仮面の案内人
雨は相変わらず降り続いていた。
だが、久我の声だけがその中で妙に静かだった。
「全部は……あの日から始まったんだ。」
その言葉のあと、
しばらく誰も何も言わなかった。
サイレンは近いが
赤い光が路地の壁を染めている。
それでも六人は動かない。
まるで、
その“続きを聞くために”立っているようだった。
久我は視線を落とす。
「妹は……生まれつき体が弱かった…
外に出ることもほとんどできなかった…」
雨音が少しだけ強くなる。
「だから俺は……よくコスプレをしてやってた」
その言葉に、
黒い仮面の男――Maskがわずかに反応するが
久我は気づかず続ける。
「ヒーローとか、魔法使いとか、プリンセスとか」
「外に出られないなら、
世界の方を変えればいいと思った…」
小さく笑う。
だがその笑いはすぐに消えた。
「妹は喜んでたよ…」
「“お兄ちゃんがいると、
世界が違って見える”って…」
沈黙。
その言葉だけがやけに温かく響いた。
久我は拳を軽く握る。
「でも……三年前」
そこで一度、
喉が詰まったように言葉が途切れる。
「病院が変わったんだ…
担当医も、治療方針も全部変わった…」
赤い光が一瞬強く路地を照らす。
「そこからだ!」
久我の声がわずかに低くなる。
「妹は悪化したんだ…
理由はわからない」
「でも確かに……何かがおかしかった」
HEROが静かに口を開く。
「医療ミスか?」
「分からない」
即答だった。
「分からないまま、死んだ…」
その一言で、空気が一段重くなり
Dollと呼ばれた少女が一瞬だけ目を伏せたが
久我は続ける。
「妹が死んだ日…
俺は病室で泣かなかった」
「泣けなかったんだ…」
拳が少しだけ震える。
「ただ、思ったんだ…」
「“誰のせいだ?”って…」
雨が強くなる。
サイレンがさらに近づくが
久我の声だけは静かだった。
「病院は“原因不明”で
警察は“事故扱い”」
「誰も悪くないって顔をしてた…」
久我はゆっくり顔を上げる。
その目は、さっきとは違っていた。
「だから俺は調べたんだ!
妹のカルテも、担当医の記録も全部な…」
「そこで見つけた…」
一瞬、沈黙。
「“隠されていた治療データ”をな…」
その言葉に、
六人の空気がわずかに変わる。
Jokerが小さく息を漏らす。
「おっ……来たね」
HEROが視線だけで制するが
久我は気づかず続ける。
「そのデータを見た瞬間に分かった」
「妹は“治療されてた”んじゃなくて
“試されてた”ってことがな…」
雨が一瞬だけ止まったような錯覚。
「新薬の実験対象だったんだ…」
その言葉が落ちた瞬間
空気が完全に変わった。
Heroの表情が消え
Knightが一歩だけ前に出る。
「証拠は?」
久我は笑う。
乾いた、壊れた笑いだった。
「消されたよ…」
「全部な…
俺が見たものも、言ったものも」
「そして――」
久我は拳を開く。
「俺は“殺人犯”になった」
サイレンがすぐそこまで来て
赤い光が路地の出口を完全に覆う。
HEROが静かに言う。
「だから三人か?」
久我は答えないが、
それが答えだった。
沈黙と雨
そして遠くで、
車の扉が開く音で
警察が到着したのが分かり
HEROが短く言う。
「時間切れだ!」
Jokerが軽く肩をすくめる。
「毎回いいとこで邪魔入るよね、人生って」
Dollが久我を見る。
「続きは、うちで聞くよ?」
久我はゆっくり息を吐いた。
そして――
初めて六人の方へ、
はっきりと歩き出す。
「……いいぜ!」
「その代わり」
Heroが頷く。
「分かってる!」
久我は薄く笑う。
「俺の話を聞くなら最後まで聞けよ?」
その瞬間
六人が一斉に動く。
ヒーローが手を振る。
Knightが影のように前へ出る。
Dollが久我の腕を引く。
Jokerが後ろを確認する。
Maskが何か小さな端末を操作する。
そして――彼らは雨の中へ消えた。
警察のライトが路地を照らしたとき、
そこにはもう誰もいなかった。
ただ、雨だけが降っていた。




