視線の主
イベント開始から二時間
会場の熱気はさらに増していた。
撮影スペースでは
カメラのシャッター音が絶え間なく響き、
人気レイヤーの周りには人だかりができている。
その中でも、
ひときわ多くの人を集めていたのは
Jokerだった。
「Jokerさん! こっち向いてください!」
「ありがとうございます!」
「次、ツーショットお願いできますか?」
「もちろん!」
次々とポーズを変え、
自然な笑顔で応じるJoker
その姿に、
Heroは通信機越しに小さく息をついた。
『……相変わらず目立つなぁJoker』
『人気者だからね♪』
Jokerは笑いながら答えた。
『でも、そのおかげで話しかけてくる人も多いよ?』
『さっきも奏斗さんを知ってるレイヤーが
何人かいたから
あとでまとめて報告する。』
「頼む。」
Jokerとの通信を切った
その時だった。
Maskの声が入る。
『Hero…』
「どうした?Mask」
『"Snow White"のアカウントが更新されました!』
全員の動きが止まる。
『投稿時間は……三十秒前』
Heroは眉をひそめた。
「内容は」
Maskは画面を見つめ
そして、
小さく息をのんだ。
『写真が一枚
今日のイベント会場です。』
『写っているのは……』
一瞬の沈黙。
『Joker』
「……俺?」
Jokerが思わず周囲を見回す。
『コメントには一言だけ』
Maskが読み上げる。
『今年も、素敵な人を見つけたわ♡』
空気が凍りつく中
Knightが低い声で言う。
『狙われたかもな?』
Heroは周囲を見渡した。
「Mask」
『はい。』
「投稿場所を特定できるか?」
『写真の角度から逆算します。』
キーボードを叩く音が続く。
数秒後
『北館二階の
撮影エリア付近です。』
「近いな……」
Heroはイヤホンに触れる。
「北館二階へ全員集合だ!」
『了解』
六人がそれぞれ人混みをかき分けながら移動を始める。
その頃
北館二階の片隅で
一人の女性がカメラの液晶を静かに眺めていた。
純白のロングウィッグに
白いロングコートを羽織り
端正な顔立ちをしている。
周囲から見れば、
ただの美しいコスプレイヤーだが
その視線だけは異様だった。
液晶に映るのは、
笑顔で撮影に応じるJoker
女性はその写真を指先で優しくなぞる。
「……綺麗ね♪」
小さく微笑む。
「でも…
今回はあなたじゃないの…」
カメラをゆっくりと横へ向けると
レンズの先にいたのは、美月だった。
兄が作った衣装を身にまとい、
Dollと笑い合っている。
女性は目を細める。
「その衣装……
奏斗くんの作品ね?」
「やっぱり、あなたが妹だったんだ。」
口元がゆっくりと吊り上がる。
「会いたかったわ♡」
その笑みには、
温かさなど一切なかった。
愛おしそうに見つめる瞳の奥には、
底知れない執着だけが宿っていた。
一方その頃
Heroたちは、
まだその視線の存在に気付いていなかった。




