潜入開始
翌朝
CKRのアトリエでは
普段とは違う慌ただしい空気が流れていた。
ミシンの音に
ヘアアイロンの熱
それに
机いっぱいに広げられたメイク道具の山や
壁には今日使用する衣装やウィッグが
綺麗に並べられている。
Jokerは鏡の前で前髪を整えながら笑った。
「いやぁ、
やっぱイベント前ってテンション上がるね!」
Knightは
軍服のジャケットを羽織りながら
呆れたようにため息をつく。
「遊びに行くわけじゃないぞ?Joker」
「分かってるって♪」
Jokerは肩をすくめた。
「仕事だからこそ楽しまないとね♪」
そのやり取りに、Dollが小さく笑う。
「二人とも、朝から元気だね?」
その時
作業部屋の扉が静かに開いた。
「あの……」
全員が振り向くと
そこには、
コスプレ衣装を身にまとった美月が立っていた。
白を基調としたファンタジー風の衣装で
銀色の装飾が施されたマント
兄が作ったという衣装は、
美月によく似合っていた。
「お、お待たせしました……」
少し照れたように裾を握る美月を見て、
Jokerが目を輝かせる。
「おぉ! すごく似合ってる!」
美月は頬を赤く染める。
「ありがとうございます……」
Mirageが衣装を見渡しながら尋ねた。
「その衣装、お兄さんが作ったの?」
「はい。」
美月は優しく微笑む。
「去年、兄が私のために作ってくれた衣装なんです。」
「『美月も一緒にレイヤーになろう』って…」
その笑顔は少しだけ寂しそうだった。
それを見て
Dollがそっと美月の肩に手を置く。
「今日は、その約束を叶えよう?
そして、お兄さんも連れて帰ろう!」
美月は強く頷いた。
「……はい!」
Heroは六人を見渡す。
「今回の潜入目的を確認する。」
Mirageがタブレットを開いた。
「一つ
天宮奏斗が最後に接触した人物を探す。」
「二つ
失踪した男性レイヤー五人との共通点を調べる。」
「三つ
犯人にこちらの存在を悟られないこと。」
Maskがノートパソコンを閉じる。
「イベント参加者リストは確認済みです。」
「奏斗さんと交流があったレイヤーも
複数人参加しています。」
Heroは壁に掛けられた六着の衣装を見つめる。
「今回は全員、レイヤーとして潜入する。」
Jokerが笑った。
「ようやく本業だね♪」
Knightがすぐにツッコミを入れる。
「本業は清掃員だろ?」
「表向きはね?」
Dollがくすっと笑う。
Heroは壁に飾られた六つの仮面へ視線を向ける。
「準備はいいか?」
「「「「「「はい!」」」」」」
一時間後
午前10:30
コスモクロスフェスタ当日
会場前には長蛇の列ができており…
入場列ができていた。
外からは中の様子が見え
色鮮やかな衣装を身にまとったコスプレイヤーたちが
カメラマンたちが次々とシャッターを切り、
会場は熱気に包まれている。
その中へ、七人も自然に紛れ込んだ。
Heroは白銀の鎧をまとった騎士
Maskは白衣姿の研究者
Jokerは陽気な道化師
Dollはゴシックドレスの人形
Mirageは和装の陰陽師
Knightは特殊部隊の隊長
そして美月は、
兄が作ってくれた白い騎士団のヒロイン衣装を
まとっていた。
周囲のレイヤーたちも思わず振り返るほど、
七人は目を引く存在だった。
「……すごい」
美月は目を輝かせる。
「久しぶりにイベントへ来ました。」
Jokerが笑う。
「緊張してる?」
「少しだけ……」
「大丈夫よ?」
Dollが優しく微笑む。
「今日は一人じゃないからね♪」
Heroはイヤホン型通信機に触れた。
「通信チェックするぞ?」
『Mask、異常なし。』
『Mirage、異常なし。』
『Knight、異常なし。』
『Doll、異常なし。』
『Joker、今日も絶好調!』
「最後はいらない事を言うな」
Heroの一言に、全員が思わず笑った。
緊張していた美月も、
自然と笑顔になる。
Heroは会場全体を見渡した。
「作戦開始だ」
「まずは自由に動いてくれ…
聞き込みと情報収集を優先する。」
「少しでも怪しい人物を見つけたら、
すぐ共有しろよ? いいな…」
「了解!」
六人は人混みの中へ散っていく。
美月はDollと共に歩き出した。
まだ…誰も気付いていない。
この華やかなイベント会場のどこかで、
人気男性レイヤーだけを狙う"コレクター"が、
新たな獲物を探すように静かに
七人を見つめていることを――




