判決
法廷は、静まり返っていた。
時計の秒針の音さえ聞こえそうなほどの静寂の中
久我誠司は、まっすぐ前を見ていた。
逃げないで
俯かずに
ただ、静かに
裁判長が判決文を手に取る。
「被告人、久我誠司」
低く、落ち着いた声が法廷に響く。
「被告人は三名の命を奪いました。」
「その結果は極めて重大であり、
失われた命が戻ることはありません。」
久我は動かない。
「一方で、本件には看過できない事情があります。」
傍聴席に緊張が走る。
「被害者らは、
被告人の妹である久我美咲さんを含む患者に対し、
重大な不正行為と隠蔽行為に関与していました。」
「その事実は長年、
明るみに出ることがなく、
被告人は深い絶望と喪失感の中に
置かれていたものと認められます。」
静かな声だが、
一言一言が重かった。
「また、被告人は再審理において、
自らの罪を否定せず、
真摯に向き合う姿勢を示しました。」
「妹の存在も、
自らの罪も、消さないことを選びました。」
沈黙。
裁判長は、一度だけ久我を見た。
そして
「以上を総合的に考慮し、
当裁判所は、
死刑を維持することは相当ではないと判断します。」
傍聴席の空気が張り詰め
久我の瞳が、わずかに揺れた。
「よって」
静寂。
「被告人、久我誠司を――」
長い、一秒。
そして
「無期懲役に処します。」
……。
誰も、動かなかった。
法廷が、完全に静止した。
次の瞬間
小さく、息を呑む音。
そして
すすり泣き
高橋だった。
両手で口を押さえ、涙を流している。
病院関係者たちも、目を伏せていた。
後方
CKRの六人
誰も騒がないし
誰も立ち上がらない。
ただ――
Dollが、そっと目を閉じ
Mirageが小さく息を吐き
Knightが腕を組み直す。
Maskが静かにモニターを閉じ
Jokerだけが、少しだけ笑った。
そして
Heroは、何も言わずに久我を見ていた。
前方
久我は動かなかった。
無期懲役だが
死刑ではない。
助かった
そう呼ぶには、
あまりにも重い言葉だった。
美咲は帰ってこないし
自分のしたことも消えない。
それでも
終わりではなくなった。
その事実だけが、
胸に静かに落ちていく。
「……。」
気づけば
胸元へ手を当てていた。
服の内側
そこには、美咲の手紙がある。
『ちゃんとご飯を食べて。』
『ちゃんと寝て。』
『ちゃんと笑って。』
『優しい人のままでいてくれたら、
それが一番うれしいです。』
……だめだ
視界が滲む。
久我は、ゆっくり目を閉じた。
そして
本当に小さな声で
誰にも聞こえないほど小さく。
「……聞いたか、美咲?」
唇が震える。
「俺……」
言葉が詰まる。
それでも
「まだ……生きれるみたいだ。」
一滴
涙が頬を伝った。
法廷は静かだった。
誰も急かさないし
誰も何も言わない。
そのとき
裁判長が、静かに口を開いた。
「被告人」
久我が顔を上げると
裁判長の表情は、変わらない。
それでも、
その声は少しだけ柔らかかった。
「長い時間になるでしょう」
静かな声。
「ですが」
一拍置く。
「生きてください。」
沈黙。
「あなたの妹さんが、
残してくれたものを忘れないためにも。」
法廷が、再び静かになる。
久我は、何も言えなかった。
ただ
ゆっくりと
本当にゆっくりと
頭を下げた。
それが――
久我誠司が、
自分の罪と人生に向けて見せた、
最初の一礼だった。




