判決
三か月後――
東京地方裁判所
法廷の傍聴席は、
隙間なく埋まっていた。
報道陣に
記者
それに一般傍聴人
誰もが、
この裁判に注目していた。
かつて
『仮面を被った連続殺人犯』
『冷酷な死刑囚』
そう呼ばれた男の、
やり直しの裁判であり
そして
被害者とされていた三人の悪事が
次々と明らかになった事件であることから
世間は割れていた。
それでも、
一つだけ確かなことがある。
半年前とは違い
誰もが、真実を知ろうとしていた。
法廷の扉が開く。
カツ
カツ
静かな足音。
久我誠司が入廷した。
傍聴席がざわめく。
久我はゆっくりと席についた。
逃げない。
俯かない。
真っ直ぐ前を見つめている。
そして
傍聴席の最後列に
六人の姿があった。
Hero
Mask
Joker
Doll
Mirage
Knight
全員が静かに座っている。
久我は一瞬だけ視線を向けると
Jokerが小さく手を振り
Dollが微笑む。
Heroは何も言わない。
それでも
久我は小さく息を吐いた。
少しだけ、肩の力が抜ける。
「これより、審理を再開します。」
裁判長の声が響き
法廷が静まる。
検察官が立ち上がる。
「被告人、
久我誠司は三名を死亡させた事実を認めています。」
「しかし、本件には新たな事実が判明しました。」
法廷に緊張が走る。
「被害者三名は、
病院における医療記録の隠蔽および
違法な新薬投与に関与していました。」
傍聴席がざわつく。
「その結果、
被告人の妹である久我美咲さんを含む
複数の患者に重大な被害が
発生していたことが確認されています。」
静寂。
「被告人は、
その事実を知り、
強い憤りと喪失感から
犯行に及んだものと認められます。」
久我は前を見ていた。
何も言わずに
ただ、静かに聞いている。
やがて
裁判長が口を開く。
「被告人」
久我が顔を上げる。
「あなたは以前の裁判で、
一切を語りませんでしたね?」
「……はい。」
「なぜですか?」
沈黙の中
法廷中の視線が集まる。
久我はゆっくり息を吸った。
そして
「話しても……意味がないと思っていました。」
静かな声だった。
「妹は帰ってこないし…
何を話しても、何も変わらないと」
一拍置き
「だから……何も言いませんでした。」
法廷は静まり返っていると
裁判長が尋ねる。
「今は違うのですか?」
久我は、少しだけ考えた。
そして
傍聴席へ視線を向ける。
仮面はしてないが六人がいて
ただ、静かにこちらを見ている。
久我は前へ向き直った。
「……はい
今は違います。」
裁判長が待つと
久我は、ゆっくりと言った。
「妹が生きていたことを
苦しんでいたことを
それでも……笑っていたことを。」
胸元へ手を当てる
そこには、美咲の手紙が入っていた。
「全部、なかったことにしたくありません!」
静寂。
「それに」
久我は続ける。
「俺がしたことも」
声が少しだけ震える。
「許されるとは思っていません。
三人を殺したこと
それは事実です。」
傍聴席が静まり返る。
「だから」
ゆっくり顔を上げる。
「どんな判決でも受けます。」
法廷に沈黙が落ちた。
そのときだった。
傍聴席の後方で、
小さなすすり泣きが聞こえた。
高橋だった。
ハンカチを握りしめていて
その隣には、病院関係者が何人か座っていた。
皆、目を伏せている。
裁判長は、
しばらく久我を見ていた。
そして静かに言った。
「……あなたの妹さんは、どのような方でしたか?」
久我が目を瞬く。
予想していなかった質問だった。
しばらく考え
そして。
ふっと、小さく笑った。
「……よく笑う子でしたよ。」
静かな声で
「俺が下手なオムライスを作っても
全然似てないコスプレをしても
いつも笑ってました。」
傍聴席から、
小さな笑い声が漏れ
久我も少しだけ笑った。
そして
その笑みが、ゆっくり消える。
「……優しい子でした。」
沈黙。
「だから」
息を吸う。
「最後まで……
手紙には
優しいままでいてほしいって書いてくれてました。」
法廷が静まり返る。
誰も何も言えない中
裁判長は、静かに頷いた。
「……分かりました。」
そして
時計を見た。
「それでは」
法廷中の空気が張り詰める。
「判決を言い渡します。」
久我は、真っ直ぐ前を見た。
後ろでは
六人が、何も言わずに見守っていた。
静寂。
そして――
裁判長が、ゆっくりと口を開いた。




