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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない【長話版】  作者: HATENA 
第一部「固有ダンジョン」

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第三章「守護者」

 中層ボスを倒したあと、報酬を前に少しだけ悩んだ。

 今までの上がり方と少し違う。

 ただ倒して終わりじゃない。次に何を選ぶかまで、こっちへ寄越してくる。


 いつもより選ばせる感じが強い。

 置かれているだけなのに、先にこっちの腹を探られているみたいで少し鬱陶しかった。


 職業進化は、殲滅者、処刑者、狂戦士。

 どれも名前だけなら強そうだ。

 けれど、俺が欲しいのは分かりやすい派手さじゃない。


 「急所を見て、そこに通す」


 口に出すと、手の中の感覚と妙に合った。

 正面から押すより、崩れる場所へ通すほうがしっくりくる。


 だから処刑者を選ぶ。


 進化した瞬間、頭の奥が少しだけ冴えた。

 視界そのものが変わるわけじゃない。けれど、敵を見た時に「どこが脆いか」が前より鋭く引っかかる。

 目で見ているというより、先に嫌な場所が浮く。

 斬れば通る場所が、痛む場所みたいに目につく。


 嫌な感覚だけど、強い。


 「使える」


 次にスキル進化。

 ここも少し迷う。攻撃を伸ばす手もある。

 だが、結局いちばん頼りになっているのは鑑定系だ。

 分からない相手を分かる形に変える。それがないと、この先はたぶんきつい。


 選んだのは未来視鑑定。

 使った瞬間、断片的に相手の次の動きが流れ込んでくる。

 流れ込むというより、まだ来ていない動きの縁だけが先に皮膚へ触る感じだった。

 頭で拾う前に肩が強張る。


 完全じゃない。

 はっきり見えるわけでもない。

 ただ、次にどちらへ重心が寄るか、どの角度で来るか、その輪郭だけが先に触れてくる。


 「……これなら足りる」


 ないよりずっとましだ。

 全部が見えるわけじゃない。

 それでも、何もないまま振るよりずっと息がしやすかった。


 さらに中層制覇ボーナス。

 転移、特殊エリア、そして上層への道が開く。


 「次もあるのか」


 報酬の量が多すぎて、逆に少し気持ち悪い。

 このダンジョンは、強くなると露骨に次を見せてくる。

 扉を少しずつ開けて、そのたびにもっと奥を覗かせてくる。

 そういう感じが、やけに腹立たしかった。


 欲しいものを並べられているのに、素直に喜ぶ気にはならない。

 差し出されるたび、もっと先も見るだろと決めつけられている感じがする。


 餌みたいで気に入らない。

 それでも、手が届くなら取るしかなかった。

 ここで目を逸らしたら、たぶんずっと気になる。


 だったら、見えるうちに見ておく。


 中層制覇後に現れた分岐は、上層ルートと特殊エリアだった。

 普通なら上層だ。


 でも、条件付きで開いた特殊エリアのほうが気になった。

 寄り道というより、今しか入れない場所に見えたからだ。


 「こういうの、大体当たりか地雷なんだよな」


 少しだけ考えて、結局そっちを選ぶ。


 転移した先は、今までのダンジョンとはまるで違う白い空間だった。

 洞窟でも施設でもない。ただ何もかも削ぎ落としたみたいな白さで、逆に落ち着かない。

 天井も壁も境目が薄くて、距離感が妙に狂う。

 立っているだけで、靴裏の感覚が少し浮いた。


 ガルの足音も響かない。

 いるのは分かるのに、音だけが薄い。

 白さに削られているみたいで気分が悪かった。


 中央の台座に触れた瞬間、試練開始の表示が出る。


 現れたのは、自分の模倣体。

 同じ姿、同じ武器、同じ気配。


 「……最悪だな」


 見た瞬間に嫌だった。

 知らない強敵より、自分と同じもののほうがよほど気味が悪い。

 姿だけじゃない。

 立ち方も、剣の持ち方も、半歩ぶんの間合いの取り方まで似ている。


 鏡を見るのとは違う、もっと嫌な感じだった。

 自分の癖を正面から返されると、こんなに鬱陶しいのかと思う。

 知っている動きのはずなのに、近くで見ると余計に気味が悪い。


 未来視が邪魔なくらい噛み合う。

 踏み込めば、向こうも同じように半歩ずらす。

 読みがあるせいで、逆に決め手が生まれにくい。

 先が薄く見えるぶん、同じ薄さで読まれている感じがした。

 自分の中身まで少し借りられているみたいで腹が立つ。


 「なら、読み合いじゃない」


 崩しへ切り替える。

 火と風を重ね、処理の遅れを作る。

 動きを読むんじゃなく、読まれても対応しにくい状況を押しつける。

 向こうはこっちほど雑に崩せない。


 実際、そこで初めて差が出た。

 わずかな引っかかり。ほんの少しの遅れ。

 それだけで十分だった。


 最後はそのズレに踏み込んで斬る。

 白い空間の中で、模倣体だけが霧みたいにほどけて消えた。

 消え方まで自分に似ていなくて、そこだけ少しだけましだった。


 【試練クリア】


 戦闘補正、未来視精度向上、模倣耐性。


 「……嫌な場所だな」


 ただ強い相手を置いてるだけじゃない。

 わざわざ嫌な勝ち方をさせてくる。

 性格の悪さだけは、よく分かった。


 終わったのに、白い空間は相変わらず静かで、祝う感じも何もない。

 勝ったはずなのに、息がまるで抜けない。

 白さだけが残って、まだどこかを見られている気がした。


 勝ったというより、通された感じのほうが近い。


 特殊エリアを抜けると、上層がはっきり解放された。

 入口はこれまでの洞窟じみた通路と違って、白く滑らかな施設みたいな道だった。

 自然物のはずなのに、どこか人工的で落ち着かない。


 「ダンジョンっぽくないな」


 足音まで少し響き方が違う。

 上へ進んでいるというより、別の場所へ入っていく感覚のほうが強かった。

 洞窟の奥にあるはずなのに、湿った土の感じが薄い。

 代わりに、触れたくない白さだけが続いている。


 清潔なわけでもない。

 ただ、汚れの入る余地ごと削られているみたいで落ち着かなかった。


 上層には環境補正まであるらしい。

 身体能力微上昇、魔力循環強化。

 ありがたいというより、嫌な感じがした。

 勝手に底上げされるぶん、こっちの身体まで場所に合わせて変えられているみたいで落ち着かない。

 息を吸うたび、少しだけ体の回り方が軽い。

 軽いのに、自分のものをそのまま使っている感じが薄い。


 最初に現れたのはフロートアイ。

 空中に浮く目玉型の魔物だ。

 壁際から音もなく滑り出てきて、こちらを見た瞬間に薄気味悪い光を灯す。


 真正面から見返したくない目だった。

 生き物の眼というより、こっちの動きだけを冷たく拾う道具みたいで気分が悪い。


 剣は届かない。


 「だろうな」


 でも、風刃なら届く。

 未来視で軌道を読む。動きそのものは速いが、完全に読めないほどじゃない。

 ただ、見上げているあいだ足元が薄くなる。

 上だけ追えば、下から噛まれる。


 浮いたまま位置を変える前に、風で切る。

 目玉が割れ、ようやく落ちる。


 地上にはマナスライム。

 こっちはこっちで面倒だった。斬っても形が戻る。

 中にある硬い一点だけが、嫌に目につく。

 足元で広がる音も嫌だ。

 粘ついた何かが床を這うたびに、白い通路の気持ち悪さが増していく。


 「上見て、下も見るのかよ」


 ガルに地上の注意を引いてもらい、俺は空を落としてから核を潰す。

 上と下を切り替えないと追いつかない。

 前みたいに近づいて斬るだけじゃ足りない。


 視線を空へ上げた瞬間、足元の気配が薄れる。

 逆も同じだ。

 少し気を抜くだけで、すぐ片方が刺さる。


 面倒だ。

 でも、放っておくほうが鬱陶しかった。


 上層の敵構成に慣れてくると、ようやく少し余裕が出た。

 フロートアイ三体にマナスライム二体。

 以前なら嫌になる構成だが、今は最初に落とす相手が見える。

 どこから潰せば呼吸が残るか、少しだけ分かる。

 その分だけ、少しずつ手が止まりにくくなっていた。


 風で空を割る。

 火で散らし、水や土で地上を固定する。

 先に何を落とすか、どこでガルを動かすか、その順番が自然に繋がるようになってきた。

 前みたいに、見えたものへ反応で振るだけじゃなくなっていた。


 ガルとの連携も、もういちいち声をかけなくても噛み合う場面が増えた。

 相手を引く位置も、飛び込む角度も、前よりずっと迷いが少ない。

 言葉より先に、間だけが合う。


 「噛み合ってるな」


 呟いたあとで、そう思った瞬間がいちばん危ないと気づく。

 ダンジョンの中で安定を感じた直後に、ろくなことがなかった。

 少し楽になった、と感じたところで足を掬われる。

 ここはずっとそういう場所だ。


 実際、そこでマップが反応した。


 ・特定個体:中ボス


 「来るか」


 表示の色が違う。

 上層中央。そこが次の山場らしい。

 道も少しずつ開けていく。誘導されているみたいで気分は悪いが、逆に言えば迷う余地はない。


 壁の白さも、ここへ来るにつれて少しずつ冷たく見えてくる。

 同じ場所のはずなのに、前の区画より空気が張っていた。

 床を踏んだ音まで細くなる。

 吸い込んだ息が少しだけ浅い。


 音が減る。

 フロートアイの羽音も、スライムの擦れる音も、少しずつ遠くなる。

 そのぶん、先にあるものの気配だけがはっきりしていく。


 少しだけ息を吐く。

 嫌な感じがする。

 ここまでの敵がただの前座だったみたいで、腹が立った。

 わざわざ順番に慣らされていた感じもする。


 空を見ろ、足元を見ろ、複数を捌け。

 そういうのを一通りやらせてから、次を出してくる。

 やり方を覚えたところで、その次を出してくるのがこの場所の嫌なところだ。


 まだ先がある。

 静かなのに、そこだけははっきりしていた。


 上層中央の広間に浮かんでいたのは、巨大な目玉だった。

 ただ大きいだけじゃない。視線そのものが圧になっているみたいで、入った瞬間から居心地が悪い。

 見られている、で済まない。

 広間に入った時点で、こっちの立ち位置ごと掴まれた感じがした。


 【アークアイ Lv980】


 ・特性:多重詠唱/空間制御(微)


 「目玉の上位版って感じじゃねぇな」


 広間へ踏み込んだ直後、複数の光弾が一斉に飛ぶ。

 未来視がなければ避けきれない。

 軌道が見えても、体がついていくかは別だった。


 見られている感じも強い。

 目の前の巨大な瞳に意識を掴まれて、少しでも遅れるとそのまま飲まれそうだった。

 まばたきの間まで覗かれているみたいで、気分が悪い。

 視線を切りたくても切れない。

 正面にあるだけで、考える場所を奪ってくるのが鬱陶しかった。


 転がるように避ける。

 それだけじゃ終わらない。


 風だけでは硬い。

 火だけでも削り切れない。

 しかも一定距離を保ったまま位置を変え続けるせいで、近づく隙がない。


 「面倒すぎるだろ」


 途中で全方位攻撃まで来た時は本気で嫌になった。

 視界が光で埋まる。

 明るいのに、逆に何も見えない。

 土壁で直撃を避けながら、歯を食いしばる。

 白く潰れた視界の奥で、どこを見られているのかだけは分かる気がした。


 このまま見られ続けるのは鬱陶しい。

 だから、無理やりこじ開ける。


 風で軌道を乱し、火で外殻を削り、水で圧をかけ、土で逃げ道を限定する。

 全部を完璧にやれているわけじゃない。それでも重ねれば、少しずつ動きが鈍る。


 ガルが一瞬でも注意をずらした隙に、目玉の裏側へ踏み込む。

 裏へ回った瞬間、圧のかかり方が変わる。

 正面から掴んでいた視線が、わずかに外れた。

 それだけで、喉の奥が少しだけ開く。


 その奥で、嫌に濃い光が脈打っている。


 「そこか」


 露出した核へ、全力で斬り込む。

 抵抗はあったが、最後に硬い殻が割れる感触が伝わった。


 核が砕けた瞬間、ようやく広間の圧が消えた。


 【討伐】


 上層中ボス撃破


 【報酬】


 ・魔力制御のスキル書

 ・空間核

 ・大量経験値


 「勝ったけど、余裕はないな」


 静かになったのに、まだ落ち着かない。

 広間の中央に立っているのに、足元が少し浮いているみたいだった。

 見られていた感覚だけが、まだ眼球の裏に残っている。

 終わったはずなのに、まだ少し遅れて視線だけが残っている。


 ここで終わりとは思えない感じだけが残る。


 上層中央を越えた先の通路は、妙に静かだった。

 敵の気配がない。

 というより、何も近づけていない感じがする。上位の何かが、その先を自分の領域にしているような、不自然な空白だった。


 「……排除されてるな」


 歩きながら背中が冷える。

 静かなほうが嫌だった。

 足音だけがやけに残る。

 自分で踏んでいる音なのに、半拍遅れて後ろからついてくるみたいで気持ち悪い。

 振り返っても、何もいない。

 それが余計に嫌だった。


 最深部の広間には、黒い結晶がひとつだけ置かれていた。

 ボスの姿は見えない。

 でも、逆にそれが嫌だった。何もいないように見える場所ほど、このダンジョンは面倒なものを隠してくる。


 広間の空気は妙に薄くて、息を吸っても腹の底まで落ちてこない。

 ここだけ、山の中の洞窟じゃなくなっていた。


 触れた瞬間、空間が歪む。

 視界が揺れて、黒い結晶が内側から砕ける。

 歪んだというより、一瞬だけ自分の立ち位置がどこかへ滑った感じがした。

 足裏が床を踏んでいる感覚だけが遅れて戻る。


 その中から現れたのは、人型の鎧だった。


 【上層守護者 Lv1500】


 ・特性:完全戦闘特化/適応進化


 「最悪だな」


 言い終わる前に、相手が消えたように見えた。

 次の瞬間にはもう眼前にいて、剣が振り下ろされる。


 受けた瞬間、体が吹き飛ばされた。


 「がっ……!」


 床を滑って、どうにか立ち直る。

 遅れて両腕が痺れる。

 受けたはずの衝撃が、あとから骨の中へ潜ってくる感じがした。


 最初の一撃だけで格の違いは十分分かった。

 未来視が追いつかない。見えた時にはもう遅いくらい速い。

 しかも硬い。

 通した手が、次にはもう通りにくくなる。


 今までの相手なら、見えなくても数合で癖を拾えた。

 こいつは、その癖を拾う前にこちらの手を学習してくる感じがあった。


 笑えない。


 逃げようとしても、退出不可の表示。

 門の位置を思い出そうとして、妙に白く途切れた。

 出る、という選択肢だけが薄く剥がされている感じがする。

 それがいちいち腹立たしかった。


 「ここでやるしかないってことか」


 声に出すと、変に腹が据わった。

 ガルが隣に並ぶ。

 こいつも分かっているのか、無駄に吠えたりはしない。

 黒い毛並みが視界の端にあるだけで、足裏の感覚が少しだけ戻る。


 慌ててもどうにもならない。

 できることを順番に積むしかなかった。


 まずは一手通す。

 通ったあとで、次を考える。

 そうやってしか、この相手には届かない気がした。


 守護者との戦いは、今までのどの相手とも違った。

 強い、速い、硬い。それだけでも十分厄介なのに、こちらの成功をその場で潰してくる。

 通った手が、その次にはもう通りにくい。

 それが分かるたび、喉の奥がざらついた。


 土で止めれば、次には外し方を覚える。

 同じ角度で斬れば、次にはそこを閉じる。

 嫌になるくらい、対応が早い。


 「厄介すぎるだろ」


 悪態をついても変わらない。

 同じ手を二度使わないしかなかった。


 土で一瞬止める。

 水で足を滑らせる。

 風で姿勢を流す。

 その全部をガルの噛みつきと重ねて、ようやく装甲の継ぎ目にヒビが入る。


 火まで混ぜたいが、欲張ると手が遅れる。

 足りないまま通すしかない場面が続くのが、いちいちきつかった。

 完璧な形を作る前に振るしかない。

 その雑さのまま通すたび、手首と肩に鈍い痛みが残る。


 だが、そこからさらに速くなる。

 適応進化という表示は伊達じゃなかった。

 こちらが通した手を、次にはもう通しにくくしてくる。


 苛立つ。

 遅いのは向こうじゃない。こっちが、通した瞬間にもう古くなっている。


 「ふざけんな」


 まともに受ければ終わる。

 それでも一発もらう覚悟で踏み込まないと、装甲の内側までは届かない。

 腕が痛む。肺が熱い。足も重い。

 息を吸うたび、血の匂いが近い。

 それでも、ここで引けばそのまま押し切られる。


 斬る。流される。

 もう一度踏み込む。

 何度も同じようでいて、少しずつ角度を変える。

 完全に対策される前に、ほんのわずかな隙間を探す。


 その繰り返しの中で、ようやく内部へ刃が通った。


 「奥にある」


 見えたのは一瞬だけ。

 赤い核とも違う、淡い光が装甲の奥で脈打っていた。

 中心というより、無理やり押し込まれている火種みたいだった。

 あれを壊せば終わる。


 次で終わらせるしかない。


 体は重い。

 でも、まだ立てる。

 ガルも同じだった。

 ぼろぼろでも、まだ前へ出る気配が消えていない。


 脚は笑いかけているのに、止まる感じだけが来ない。

 それだけで、次の一手を捨てずに済んだ。

 ここまで来たなら、あとは届く形を一度作るだけだ。

 そう言い聞かせるしかなかった。


 守護者がさらに速度を上げる。

 未来視も、もう完全には当てにできない。先読みは届くのに、体のほうが追いつかない瞬間が増えてくる。

 見えてから動くんじゃ遅い。

 なのに、動き切ったあとでようやく今の一撃がどこを通ったか分かる。

 そのずれ方が、妙に気味悪かった。


 だから逆に、断片だけを拾って賭ける。

 全部は追わない。

 次の一手、その半歩先だけを見る。


 右、左、返し。


 その一つずつを最小限で外し、三手で崩す。

 余裕のある回避じゃない。掠めない程度にずらしているだけだ。服が裂け、腕に衝撃が走る。

 それでも、生きたまま次へ繋がれば十分だった。


 見切っているというより、見えた断片へ体を無理やり合わせている感覚に近い。

 気を抜けば、そのまま遅れる。

 遅れた瞬間、自分の輪郭ごと持っていかれる気がした。


 炎で視界を歪ませる。

 水で足元をずらす。

 風で流す。

 全部が完璧じゃなくても、半歩ぶん守護者の処理を遅らせられればいい。


 ガルが正面から噛みついて一瞬止める。

 その間に背後へ回り、前に開いた継ぎ目へ斜めから叩き込む。


 装甲が割れ、内部が覗く。


 「通った」


 だが、まだ止まらない。

 守護者の打撃をまともに受け、体が軋む。息が詰まり、視界が揺れる。

 そのまま膝をつきそうになる。


 内側へ入ったのに終わらないことが、逆に気味が悪かった。

 奥へ届いた感触だけがある。

 なのに相手はまだ崩れ切らない。

 通ったはずなのに足りない、というのがいちばん面倒だった。

 中途半端なら潰されるだけだと、痛みのほうが先に教えてくる。


 それでも、押し込む。

 ここで離したら、次はたぶんない。


 「貫け」


 内部へ届いた感触はあった。

 硬い殻の奥に、確かに刃が入った。


 光が漏れる。

 装甲の継ぎ目から、内側の輝きが滲む。

 壊れかけているのか、まだ足りないのか、その境目が分からない。

 でも、少なくとも何も通っていない感触ではなかった。


 次が最後。

 そういう感覚だけが、妙にはっきり残った。


 勝てる気はしない。

 ここで終わらせないと終わる、それだけが残った。

 怖さはとっくに形を失っていた。ただ、ここで止まるのだけは鬱陶しかった。


 守護者の動きが止まる。

 遅れて、内側の光がひび割れるみたいに散った。

 重い殻が崩れ落ちる。


 ようやく終わったはずなのに、体のほうはすぐにはついてこなかった。

 息が荒い。腕も痛む。

 それでも、頭のどこかだけが妙に静かだった。


 ダンジョンの空気が、まだ肺の奥に残っている。

 吐いても、すぐには抜けない。

 それが、ひどく気味悪かった。

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