王家主催の夜会での反応
この日、グロートロップ王国では王宮でアヴィス王家主催の夜会が開催される。
王家主催の夜会は基本的にグロートロップ王国内の貴族は全員参加となる。
当然、グラシエラとアルヴァロもアヴィス王家主催の夜会に参加する為に、マリャル侯爵家の馬車で王宮に向かっている。
グラシエラは馬車の外の景色に目を向けていた。
グラシエラの隣には、当然のようにアルヴァロが座っている。
すっかり太陽から月へとバトンタッチした時間帯だ。
王都ソビラの街は昼間の賑やかな様子から一変し、しんと静まり返っている。賑わっているのは王宮か、裕福な平民の屋敷くらいだろう。
「……ドレスも髪飾りも、贈った甲斐があった」
アルヴァロは満足そうな表情でグラシエラを見ていた。
この日のグラシエラは、花の刺繍が施された淡い青色のドレスを身にまとっている。そして栗毛色の髪はシニョンにまとめられ、サファイアの髪飾りを着けていた。
実はグラシエラが身に着けているサファイアの髪飾りと淡い青色のドレスは、今回の夜会に向けてアルヴァロが贈ったものなのだ。
「素敵な髪飾りとドレスをありがとうございます、アルヴァロ様。……マファルダお姉様の形見のローズクォーツの髪飾りもお気に入りでしたが、このサファイアの髪飾りも素敵です」
グラシエラは表情を綻ばせた。
「あのローズクォーツの髪飾り、グラシエラ嬢にとって大切なものであることは分かっている。でも……正直に言うとグラシエラ嬢はピンクより青の方が似合うと思うんだ」
「左様でございますか……。確かにマファルダお姉様は、優しく柔らかな顔立ちでしたからピンクが似合いましたわね」
アルヴァロの言葉に少しだけ戸惑いつつも、マファルダのことを思い出し穏やかな表情になる。
優しく柔らかで、可愛らしい顔立ちだったマファルダ。
マファルダの姿は今でもグラシエラの脳裏に思い浮かぶ。
「グラシエラ嬢は凛とした顔立ちだからね。僕は良いと思うよ」
グラシエラに向けられるサファイアの目は、ミステリアスではあるがどこか優しげだった。
「……左様でございますか」
アルヴァロの言葉に少しだけ鼓動が跳ねた。
(アルヴァロ様……初対面の時は、ミステリアスで冷たそうなお方だと思っていたけれど……世間からどう言われようとペドロ様を兄として大切に思っているし……優しいお方なのよね……)
アルヴァロの、ペドロを兄として慕う気持ち。そして、息抜きの時や今もグラシエラに向けてくれるサファイアの目。
グラシエラは自身の体温がほんの少しだけ上がったような気がした。
規則正しい馬車の揺れが、心地良く感じるグラシエラであった。
「グラシエラ嬢、今日の夜会でどうするべきか、覚えているよね?」
アルヴァロに聞かれグラシエラは首を縦に振り、ニッと口角を上げる。
「ええ、もちろんですわ。まずはこの夜会をアルヴァロ様と楽しんでいる様子を周囲に見せつけること。でしたよね?」
「その通り。もしレアル伯爵閣下や伯爵家の者達が五年前の『王宮殺人事件』に何らかの関わりがあるのなら、僕達の様子は気になるはずだ」
「押して駄目なら引いてみろという作戦ですわね」
「言い得て妙だね」
アルヴァロはクスッと笑った。
その笑みが、息抜きの時と同様どこか楽しそうだった。
グラシエラは思わず頬を赤く染め、アルヴァロから目をそらしてしまう。
(アルヴァロ様とは、五年前の事件の真相解明までの関係。なのに、どうしてこんな気持ちになるのかしら……?)
馬車の外の景色に目を向けると、少し風が吹いているようで木々がゆっくりと揺れていた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
気付けば、マリャル侯爵家の馬車は王宮に到着していた。
グロートロップ王国の王宮は、豪華絢爛でこの世の贅の限りを尽くしたような造りだ。
煌びやかで眩しいシャンデリア、天井や壁には意匠が凝らされた彫刻、目に入るもの全てが豪奢である。
この王宮で、アヴィス王家主催の夜会が開催されるのだ。
「さあ、行こうか。グラシエラ嬢」
「ええ、アルヴァロ様」
アルヴァロからスッと差し出された手を取るグラシエラ。
グラシエラはアルヴァロにエスコートされながら王宮へ入る。
シャンデリアの光によりサファイアの髪飾りが輝き、グラシエラの栗毛色の髪の艶やかさを際立たせている。花の刺繍が施された淡い青色のドレスの裾は、風をまとったように揺れた。
「グラシエラ嬢、笑おう。まずは楽しんでいるところを見せつけてやろう」
フッと不敵に笑うアルヴァロ。
その時、ふとグラシエラの脳裏にマファルダの声が蘇る。
『グラシエラ、お願い、笑って。私は貴女の笑顔が大好きよ。貴女には笑顔が似合うわ』
(マファルダお姉様……それから、アルヴァロ様も……)
グラシエラは大輪の花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。
アルヴァロはそんなグラシエラの笑みを見てほんのり頬を赤く染る。サファイアの目は、どことなく優しげだった。
大輪の花のような笑みのグラシエラと、優しい表情のアルヴァロ。
そんな二人が夜会の会場入りしたことで、周囲は騒つく。
「え……? あの二人……」
「五年前の『王宮殺人事件』の被害者の弟と加害者の妹だろ」
「婚約した話は本当だったのね」
「何か二人共表情明るいよな。何か楽しそうだし」
グラシエラとアルヴァロはそんな周囲の声など聞こえていないかのようにダンスを始める。
アルヴァロにリードされ、グラシエラは華麗にステップを踏む。
花の刺繍が施された淡い青色のドレスの裾は風をまとってふわりと揺れている。それだけでなく、シャンデリアの光により輝きを増していた。
グラシエラのヘーゼルの目と、アルヴァロのサファイアの目が合う。
アルヴァロはサファイアの目を優しげに細め、グラシエラは思わずアルヴァロから視線をそらした。
(アルヴァロ様……この前の夜会で他の方々には冷たい視線を向けていらしたのに……)
グラシエラは自身に向けられたアルヴァロの優しげな視線を少しだけ意識し始めていた。
(真相解明までの関係だとしても……何だか嬉しいわ)
グラシエラはほんのり頬を赤く染め、穏やかに口角を上げた。
グラシエラはアルヴァロにリードされ、再び華麗に、軽やかにステップを踏んだ。
シャンデリアの光で反射するサファイアの髪飾り。艶やかな栗毛色の髪。そして、風を含んで揺れるドレスの裾。更にグラシエラのヘーゼルの目はキラキラと輝いている。
そんなグラシエラを見て、アルヴァロは楽しそうに表情を和らげた。
そんなグラシエラとアルヴァロには、当然ながら注目が集まった。
「……グラシエラ嬢とアルヴァロ殿、何だか楽しそうだな」
「……事件関係なく普通に婚約関係を結んだように見えるわ」
「五年前の『王宮殺人事件』の被害者の弟と加害者の妹が何であんなに楽しそうなの? おかしいじゃない」
「イゾルダ王太子妃殿下を裏切った浮気者の弟の癖して明るい顔しやがって」
グラシエラとアルヴァロを受け入れる声や、否定的な声、様々な声が上がっていた。
そんな中、グラシエラとアルヴァロをじっと睨んでいる者がいた。
レアル伯爵である。
「……気に入らないな。どういうつもりだ?」
レアル伯爵は忌々しげにポツリとそう呟くのであった。
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