真相解明その後
ドゥアルテ、パウロ、王妃を除くアヴィス王家及びレアル伯爵の毒杯による処刑が終わった後のこと。
グロートロップ王国王都ソビラ中心部近くにある墓地にて。
グラシエラは立派な白い百合の花を抱えて歩いていた。
そして、グラシエラの横にはアルヴァロがいる。
「マファルダお姉様……」
グラシエラは穏やかな表情でマファルダの墓に白い百合の花を供え、両手を組み目を瞑って弔っている。
アルヴァロもグラシエラに倣い、両手を組み目を瞑る。
グラシエラの姉マファルダは、王都ソビラ郊外の荒れた無縁墓地に眠っていた。
しかし今回、五年前の『王宮殺人事件』の真相が明かされ、マファルダの無実が証明されたのだ。
よってマファルダは王都ソビラ郊外にある荒れた墓地から、ソビラ中心部に近い位置にあるこの墓地に移されたのだ。
もちろん、グラシエラの手によって。
目の前にあるマファルダの墓は、立派なものである。
不意に、優しい風がグラシエラの頬を撫でる。
『グラシエラ、大好きよ』
グラシエラはハッとして目を開け、顔を上げる。
目の前には白い百合が供えられたマファルダの墓。グラシエラが供えた百合である。
誰かがいる様子はない。
しかし、マファルダの柔らかな声が聞こえた気がしたのだ。
風により、太陽を隠していた雲は流れて行く。
いつの間にか、太陽が顔を出していた。
マファルダの墓が、太陽の光に照らされる。
「マファルダお姉様……」
グラシエラは柔らかく口角を上げた。
「私も、マファルダお姉様のことが大好きです。この先も、いつまでも」
グラシエラはそっとマファルダの墓石に触れた。
アルヴァロは、そんなグラシエラを見守ってくれている。
「アルヴァロ様……」
「グラシエラ嬢、どうしたんだい?」
「五年前の『王宮殺人事件』……真相が解明したからと言って、マファルダお姉様やペドロ様、そしてフロール様が戻って来ることはありません。ですが……真相が解明したことで、私達はようやく前に進めるような気がするのです」
グラシエラはヘーゼルの目を真っ直ぐアルヴァロに向けている。
「前に進める……か。確かに、グラシエラ嬢の言う通りかもしれない」
アルヴァロは、表情を和らげた。
サファイアの目は、優しくグラシエラに向けられている。
グラシエラが好きな目である。
「アルヴァロ様、ペドロ様のお墓参りも、ご一緒してよろしいでしょうか?」
アルヴァロが兄のペドロをどれだけ大切に思っていたのかは、グラシエラもよく知っている。
イゾルダを裏切ったという事実はあれど、アルヴァロにとっては優しい兄だったのだ。
アルヴァロは首を縦に振る。
「ああ、もちろんだ。兄上には、グラシエラ嬢のことをしっかり紹介したいことだし」
アルヴァロの表情は、今までの中で一番自然な笑みであるように感じた。
「ありがとうございます」
グラシエラは思わずクスッと笑う。
夏の太陽の光が、グラシエラとアルヴァロを明るく照らしていた。
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数日後。
グロートロップ王国では、アヴィス王家に代わりブラガンサ筆頭公爵家が王位を継いだことにより、お祭り騒ぎになっていた。
この日王宮では、新たにブラガンサ王朝誕生したことによる夜会が開催されている。
煌びやかに輝く天井のシャンデリアに、意匠が凝らされた天井や壁。飾られた花々は色とりどりに咲き誇っており、王宮を華やかに演出している。
グラシエラはアヴィス王家時代も王宮に来たことがある。しかし、同じ王宮でも今は全く雰囲気が違うように感じる。今の方が王宮は明るく過ごしやすいように思うグラシエラである。
チラリと窓の底に見えた王宮の庭園も、どこかカラフルに感じていた。
「賑やかですわね」
「ああ。エンリケ殿も大変そうだ」
アルヴァロにエスコートされながら、会場に入るグラシエラ。
新たな国王としてエンリケの父が即位し、エンリケは王太子となったのである。
会場中央には、王太子となったエンリケが国内の貴族から挨拶をされおり、その対応に追われていた。
そんなエンリケを見て、アルヴァロは苦笑している。
「アルヴァロ様、エンリケ殿ではなく、もうエンリケ王太子殿下です」
「そうだね」
グラシエラの言葉に、アルヴァロはハハッと笑った。
「さあグラシエラ嬢、エンリケ王太子殿下に挨拶に行こうか」
「はい」
グラシエラは明るい笑みで頷き、アルヴァロと共にエンリケの元へ向かうのであった。
「はあ。まさか俺が王太子になるとは。全く、人生何が起こるか分からないものだ」
グラシエラとアルヴァロを見るなりエンリケは、やれやれと言うかのような様子で笑っていた。
「王太子の姿も中々様になっていますよ、エンリケ殿。いえ、エンリケ王太子殿下」
「アルヴァロ殿、今わざと間違えたな?」
「バレましたか」
「全く、お前という奴は」
アルヴァロとエンリケは軽口を叩きながら笑い合っている。
グラシエラが知らない間に、アルヴァロとエンリケの仲はより深まっていたようだ。
「アルヴァロ殿とグラシエラ嬢、君達二人の結婚は来年だったかな?」
「ええ。……ようやく、胸を張ってグラシエラ嬢が僕の婚約者だと言えます。本物の婚約者だと」
「アルヴァロ様と私は、最初は五年前の『王宮殺人事件』の真相が解明するまでの関係でしたわね」
アルヴァロの言葉に、グラシエラはそうクスッと笑った。
身分を偽り、エラ・シルヴァという偽名を使ってマリャル侯爵家の王都の屋敷にメイドとして潜入したグラシエラ。しかし、立ち居振る舞いなどからアルヴァロに招待がバレてしまう。そして、アルヴァロから五年前の『王宮殺人事件』の真相を解明する為に協力を持ちかけられた。世間からの注目を集める為に、偽の婚約を提案された時の驚きは、今でも覚えている。
「でも、グラシエラ嬢、今は違うだろう」
「ええ、もちろんです」
グラシエラが頷くと、アルヴァロのサファイアの目が優しく細められた。
「愛しているよ、グラシエラ嬢」
甘く、とろけるような表情がグラシエラに向けられる。
サファイアの目に、吸い込まれそうである。
「……私もです」
グラシエラは思わず頬を赤くして頷いた。
「本当にお熱いことだ。そういうことは、よそでやって欲しいね」
エンリケは大袈裟で呆れ気味にため息をついた。
「エンリケ王太子殿下も、確かもうすぐガーメニー王国の王女殿下を迎えるのではありませんでしたか?」
グラシエラは聞いた情報をエンリケに確認する。
王太子となったエンリケは、グロートロップ王国を治めるだけでなく、当然ながら次の代へ繋ぐ役割も担わなければならない。
「グラシエラ嬢もそれを知っているのか。まあ、公開された情報だから仕方がないか」
エンリケはハハッと笑い、言葉を続ける。
「彼女とはガーメニー王国を外遊していた頃出会ってな。彼女は詳しくは王女ではなくオルデンブルク筆頭公爵家の令嬢だ。この縁談に際して、ガーメニー王国とグロートロップ王国の同盟の為にも、彼女をガーメニーの王家に養子入りしてもらってからこちらに嫁いで来る」
「ということは、その王女殿下とは結構交流があるのですね」
エンリケの話を聞き、アルヴァロはそう確認した。
「まあ、手紙を送り合う仲ではある。彼女を意識したのはここ最近のことだが」
エンリケは少しだけ頬を赤く染めていた。
「というわけでアルヴァロ殿、もう安心してくれて構わない」
エンリケはチラリとグラシエラを見た後、アルヴァロに意味深な笑みを向ける。
グラシエラはエンリケの意図が分からず首を傾げた。
「どうやらそのようですね」
アルヴァロはフッと苦笑し、グラシエラを抱き寄せた。
「アルヴァロ様? エンリケ殿下も先程から一体どうなされたのです?」
グラシエラは二人の様子に戸惑うばかりである。
しかし、仲が良さそうなアルヴァロとエンリケの様子に、思わず笑みが零れた。
二人の間に何が合ったのかは分からないが、楽しそうならばそれで良いと思うグラシエラである。
グロートロップ王国、ブラガンサ王家が主催する夜会は、明るく楽しい雰囲気に包まれていた。
『グラシエラ、どうか幸せにね』
ふと、マファルダの優しい声が聞こえたような気がしたグラシエラであった。
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本編はこれで完結です。
次回から番外編に入ります。




