暴かれた闇
《五年前の『王宮殺人事件』の真実!》
数日後の新聞記事の見出しにこう書かれていた。
その新聞記事は、グロートロップ王国内で大きな話題になっていた。
「おい、今日の新聞読んだかよ!?」
「ええ! 読んだわ! 五年前の『王宮殺人事件』、まさか真犯人はベルナルド王太子殿下だったなんて!」
「つまり、メゼネス伯爵家のマファルダって子は冤罪だったってこと!?」
「自殺までしてしまったのに、可哀想だわ!」
「王家はどう責任を取るつもりなんだろうな?」
「イゾルダ王太子妃殿下もベルナルド王太子殿下の犯行の隠匿に関わっているそうね!」
王都ソビラでは、平民達が五年前の『王宮殺人事件』の真相に関する記事で盛り上がっていた。
そして、もちろん貴族達の間でもその記事は話題になっている。
「あの、グラシエラ様……マファルダ様のこと……」
「冤罪で自殺だなんて、何てお可哀想なの……!」
「グラシエラ様、私達は、貴女の味方ですからね」
「ベルナルド王太子殿下にもイゾルダ王太子妃殿下にも見損ないましたわ」
そうグラシエラに話しかける貴族令嬢達がいた。
(よく覚えているわ。この方々も、事件について好き勝手噂していた癖に)
グラシエラは怒りで震える拳を後ろに隠し、上品な淑女の笑みを浮かべる。
「あら、そう思ってくださるなんて。でも、結構です。貴女達は自分で真実を調べようともせず、ただ刺激的な話題に乗るだけの存在なのでしょうから」
グラシエラの言葉に、令嬢達は何も言えなくなる。
グラシエラは淑女の笑みでチクリと令嬢達に針を刺すのであった。
「流石だね、グラシエラ嬢」
「感情的になっては負けですから」
アルヴァロに対し、グラシエラはそう返した。
「僕の方にも、王家にどのくらい恨みがあるのかとか色々聞かれたよ」
アルヴァロは辟易した様子だった。
「それにしても、まさかあんな真相だったなんて、僕も驚きだ」
「そうですわね」
「それに……憎しみもあるけれど、アヴィス王家に対しては色々と呆れているよ」
アルヴァロはため息をついた。
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所変わって、グロートロップ王国の王宮。
灰色の雲が広がり、今にも雨が降りそうな状況である。
「人殺し王家!」
「アヴィス王家を許すな!」
「俺達の税金で贅沢ばかりしやがって!」
王宮前では平民達のデモが行われていた。
「ベルナルド様……」
王宮内部から、王太子妃イゾルダは外のデモに目を向ける。
その目は不安に染まっているようだ。
「イゾルダ、大丈夫だ。私が何とかする。君の不安は私が取り除く。五年前のように、どんな手を使ってでも……!」
王家特有のアメジストのような紫の目は、ギラリとしていた。
ベルナルドの拳はプルプルと震えている。
唇を噛み締めるベルナルドである。
「ベルナルド様……!」
イゾルダはベルナルドの言葉にうっとりとそのマラカイトのような緑の目を細めた。
「いや、ベルナルド、今回ばかりはそうはいかないぞ」
そこへ、重厚感と威厳のある、凛とした声が響く。
「父上……!」
「国王陛下……!」
星の光に染まったようなアッシュブロンドの髪に、アメジストのような紫の目。
顔立ちはベルナルドを壮年にしたかのようである。
彼こそが、グロートロップ王国国王、カルロスである。
「父上、でも、このままでは王家は終わってしまいます。何としてでもこの騒ぎを収めないと。……アルヴァロとグラシエラ、それからエンリケと新聞社、後、告発者マルシオを処分しなければ……! ああ、あの時せめてグラシエラだけでも処分出来ていたならば……!」
ベルナルドのアメジストの目には、光が灯っていなかった。
そんなベルナルドに、国王カルロスは深くため息をつく。
「そのようなことをしたら、国民は皆王家に反発するようになる。それこそ、革命が起きて我々王族は処刑されるぞ」
重々しい口調のカルロスである。
「今回の件は、お前を王太子にした私にも責任がある」
「そんな……! でも父上、兄上も弟も、体が弱かったり奇形で公の場に出られないではありませんか! 健康な私こそ、王太子、時期国王に相応しいはずです!」
ベルナルドは必死にカルロスにそう訴えた。
ベルナルドには、四つ上の兄ドゥアルテと、二つ下の弟パウロがいる。
しかしアヴィス王家はカルロスよりも上の代から王家と血が近い家から妻を迎えていた。
そのせいで、ドゥアルテとパウロは奇形児として生まれ、体も弱く公の場に出ることが出来ないのである。
そこへ、イゾルダも加勢する。
「国王陛下、ベルナルド様の仰る通りだと思いますわ。私だけでなく、この国にとってもベルナルド様はなくてはならない存在なのです」
イゾルダはベルナルドの手をそっと握った。
「イゾルダ……!」
ベルナルドはパッと明るい表情になり、再びカルロスの方を向いた。
「父上、五年前の件は仕方のなかったことです。ペドロとフロールは死んでも良い存在だったのですよ。それに、確かにマファルダは可哀想ですが、偶然アリバイがなかったですし、メゼネス伯爵家なら可もなく不可もなく、冤罪を押し付けるのに丁度良い相手でした」
「国王陛下、ベルナルド様の仰る通りですわ。それに、証拠となる資料なら私の父に処分させましたし。アルヴァロとグラシエラに目撃されたとしても、ベルナルド殿下が機転を効かせて父にアリバイを作ってくださいましたわ」
以前グラシエラとアルヴァロが見たという、王宮図書館でレアル伯爵が『王宮殺人事件』の資料を破るところ。
やはりあれは間違いではなかったのだ。
イゾルダが父であるレアル伯爵に頼み、証拠となる資料を処分させていたのだ。
そして、目撃情報は無理やベルナルドがレアル伯爵とニサップ王国国境にいたという偽のアリバイでもみ消したのである。
カルロスは深くため息をつく。
「私の子で健康に育ったのはベルナルド、お前だけだった。まだブラガンサ筆頭公爵家に王位を譲るわけにもいかないと思っていた。だから五年前の出来事をもみ消した。その結果がこうなってしまった」
カルロスの眉間には深く皺が刻み込まれていた。カルロスはそのまま言葉を続ける。
「……ブラガンサ筆頭公爵家は元々五年前の件の真相が別にあるのではないかと疑っていた。エンリケだって、独自に動いていたじゃないか。……まあ、エンリケの父が息子を守る為にエンリケを他国に行かせたお陰で真実の露呈が遅くなったとでも言うべきか。いや、ナルフェックに逃げた目撃者を見つけ出したから早まったと言うべきか……」
カルロスはもう何度目かも分からない深いため息をついた。
「アヴィス王家はもう終わりだ」
最後にそう呟くカルロスである。
「そんな……」
イゾルダはショックを受けたような表情になった。
(私は、ベルナルド様とこの先も幸せに生きるはずだったのに……)
イゾルダは自身が生家であるレアル伯爵家にいた頃のことを思い出すのであった。
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