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真相解明までの偽婚約  作者: 宝月 蓮
本編

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22/28

真相

 グラシエラが見知らぬ男達に誘拐され、アルヴァロに助け出されて数日が経過した。

「それでエンリケ殿、グラシエラ嬢を誘拐した奴らは何と話していたのです?」

「ああ……」

 マリャル侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)に集まったグラシエラとエンリケ。

 アルヴァロからそう聞かれたエンリケは、重々しい口調で話し始める。

「……奴ら曰く、アヴィス王家の命令でやったらしい」

「アヴィス王家……!」

 グラシエラはヘーゼルの目を大きく見開く。

 それが真実ならば、グラシエラは王家から狙われているということになる。

(もしかして、『王宮殺人事件』の真相を追っているから……!?)

 以前、グラシエラは王家が五年前の『王宮殺人事件』に関わっている状況証拠があるとアルヴァロと話していた。

 今回の件で、その疑念はほぼ確信に変わりつつあった。

「グラシエラ嬢を処分した後、アルヴァロ殿も狙う予定だったらしい」

 エンリケの言葉を聞き、グラシエラは目の前が真っ白になった。

 王家はグラシエラを殺そうとしていた。

 その事実は、恐ろしいものであった。

「グラシエラ嬢を……処分……!」

 アルヴァロのサファイアの目が鋭くなる。

 グラシエラは膝の上に置いてあった手を、アルヴァロに強く握られた。

 まるで、自分がグラシエラを守ると言うかのような強さである。

 グラシエラはアルヴァロに手を包まれたことで、少し落ち着きを取り戻した。

「おまけに新たに分かった情報だ。アヴィス王家は五年前の『王宮殺人事件』の後、被害者の一人だったフロール嬢の生家、ピント男爵家を取り潰している」

「まあ……!」

 グラシエラは再びヘーゼルの目を見開いた。

 当初はマリャル侯爵家ではなくピント男爵家への潜入を考えていたグラシエラ。しかし、ピント男爵家が取り潰されていたことで、それを諦めマリャル侯爵家への潜入にした。

「……そうなると、王家は多分マリャル侯爵家も潰そうとしていたのだろう」

 アルヴァロは腕を組み、難しい表情でそう推測する。

「……その可能性は……ありますね」

 グラシエラも少し考え、そう呟いた。

「ああ。でも当時の状況を考えると、マリャル侯爵家を潰したらグロートロップ王国の貴族のパワーバランスが面倒なことになる。もちろんそれは今も変わっていない。だからマリャル侯爵家を潰すのは諦めたのだろう」

 ソファにもたれかかり、エンリケはそうため息をつく。

「……どうしてかは分かりませんが……とにかく、五年前の『王宮殺人事件』にアヴィス王家が関わっている……」

 最終的にその結論に辿り着くグラシエラ。

(王家がマファルダお姉様に濡れ衣を着せた……!?)

 グラシエラは拳をギュッと握りしめる。

 その拳はプルプルと震えていた。

 アルヴァロはそんなグラシエラに気が付いたのか、再びグラシエラの手をそっと握った。

(アルヴァロ様……!)

 そのお陰で、グラシエラは再び落ち着きを取り戻すことが出来た。

「……今まで俺の情報収集を邪魔していたのも、やはり王家だろうな。……とにかく、俺は邪魔が入ろうと情報収集を進めていく。君達は……少しの間大人しくしていた方が安全だろう」

「ですがエンリケ様、ここまで真相に近付いたかもしれない今、じっとしているわけにはいきません」

 グラシエラはエンリケの言葉にそう反論する。

 もうすぐマファルダの無実を証明出来るかもしれない。

 その事実が、グラシエラをじっとさせてくれないのだ。

「まあ、グラシエラ嬢ならそう言うよね」

 アルヴァロはフッと苦笑した。

「でもグラシエラ嬢、ここはエンリケ殿に従っておいた方が良いと思う。現に、僕達は王家から狙われている。何をしてくるか分からないから、慎重になるべきだよ」

「アルヴァロ様……」

 アルヴァロにそう言われ、黙り込むグラシエラ。

「二人共、俺が何とかするから、信じてくれないか? 俺は、二人の無事と幸せを願っているからな」

 明るく高らかな声のエンリケである。

 アメジストの目は真っ直ぐ二人に向けられている。

 グラシエラとアルヴァロは、エンリケを信じることにした。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 グラシエラは王家から狙われているということで、その後マリャル侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)で数日間過ごすことになった。

(マリャル侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)……。何度も来たことはあるけれど、泊まるのは初めてね。……アルヴァロ様と結婚したら、ここで暮らすのが日常になるのだけれど……)

 グラシエラは与えられた部屋のソファに座り、ほんのりと頬を赤く染めていた。

 その時、部屋の扉がノックされる。

 アルヴァロだった。

「グラシエラ嬢、せっかくだからこれを一緒に食べようと思って」

 アルヴァロが持っていたバスケットには、グラシエラの好物である桃がたくさん入っていた。

「まあ……! ありがとうございます!」

 グラシエラはヘーゼルの目を輝かせた。

 そんなグラシエラの表情を見たアルヴァロは、サファイアの目を優しく細める。


 グラシエラは早速桃を一口食べた。

 瑞々しくジューシーな果肉で、柔らかな甘さが口の中いっぱいに広がる。

 グラシエラは表情を綻ばせた。

「グラシエラ嬢がこの屋敷にいる。何だかそれだけで僕は嬉しい」

 アルヴァロは嬉しそうに微笑んでいる。

「アルヴァロ様……」

 グラシエラはほんのりと頬を赤く染めながら微笑んだ。

 窓からは、太陽の柔らかな日差しが入って来る。

 グラシエラは桃をもう一口食べた。

 甘さが更に増しているような気がした。

 グラシエラとアルヴァロの間には、穏やかな時間が流れていた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 そこから更に数日が経過した。

 マリャル侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)に、エンリケがやって来た。

 何やら明るく興奮気味な様子のエンリケである。

「エンリケ殿、一体どうしたのですか?」

 アルヴァロはエンリケの様子に首を傾げながらそう聞いた。

「アルヴァロ殿、グラシエラ嬢……ついに五年前の『王宮殺人事件』の目撃者が見つかった」

「え……!?」

 突然のことだったので、グラシエラはエンリケからの言葉を理解するのに数秒かかった。

「それって……『王宮殺人事件』の真犯人を知っている方が現れたということですよね?」

 グラシエラの呼吸が浅くなる。

 ようやく姉マファルダの無実を証明出来るかもしれないのだ。

 エンリケはグラシエラに対して「ああ」とゆっくり頷いた。

「他国筋からの情報だ。当時事件を目撃した者は、ナルフェック王国まで逃げていたらしい。ナルフェック王国王室も、その者を保護しているからアヴィス王家は簡単に手出し出来ない。つまり、揉み消されることはない」

 エンリケの言葉に、グラシエラは目の前がパッと明るくなったような感覚になった。

「つまり、五年前に何があったかようやく分かるということですね」

 アルヴァロの表情も明るくなっていた。

 アルヴァロも殺された兄ペドロに何があったのか、ずっと独自に探っていたのだ。

「その通りだ。今ナルフェック王国にいる目撃者と連絡を取っている。近々、グロートロップ王国に来てもらえることになった。もちろん、アヴィス王家に手出しされないよう、ナルフェック王国からの護衛付きだ」

「確かに、ナルフェック王国からの護衛がいる状態で手出しをしたら、国際問題に発展しますわね。それに、ナルフェック王国は近隣諸国の中でも一番力を持っている。流石にアヴィス王家もナルフェック王国を敵に回すようなことは出来ないでしょう」

 グラシエラはやや興奮気味で前のめりになっていた。

 そんなグラシエラに、アルヴァロは少し苦笑していた。しかし、サファイアの目は優しくグラシエラを見守るかのようだった。

「果たしてどんな真実が聞けるのだろうか」

 アルヴァロはポツリと呟くのであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 そして数日後。

 エンリケが言っていたナルフェック王国に逃げた『王宮殺人事件』の目撃者がグロートロップ王国にやって来た。

「マルシオと申します」

 マルシオと名乗ったその男は、エンリケが言っていた通りナルフェック王国から護衛を付けていた。

 この日、ブラガンサ公爵家の王都の屋敷(タウンハウス)で、マルシオが五年前の『王宮殺人事件』の真相を話してくれるのだ。

 グラシエラとアルヴァロだけでなく、エンリケが呼んだ新聞社の記者もブラガンサ公爵家の王都の屋敷(タウンハウス)に集まっていた。

(いよいよ……真相が聞けるのね……!)

 グラシエラはヘーゼルの目をじっとマルシオに向けている。

「……では私が見たことを全てお話しいたします」

 マルシオは緊張した面持ちでポツリポツリと話し始めた。

「五年前、ペドロ様とフロール様を殺したのは、マファルダ様ではありません。彼らを殺したのは……ベルナルド王太子殿下です」

 マルシオから、そう語られるのであった。

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