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真相解明までの偽婚約  作者: 宝月 蓮
本編

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16/20

グラシエラとエンリケ

 グラシエラがアルヴァロへの恋心を自覚して数日が経過した。

 この日は夜会があるのだが、その前にグラシエラは『王宮殺人事件』について調べたことをアルヴァロとエンリケに報告する為にマリャル侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)にやって来ていた。

「グラシエラ嬢、この前集めた情報に関してだけど」

「まとめたメモをそちらに置きましたわ。それをご覧ください」

 アルヴァロの言葉を遮り、早口になるグラシエラ。

(どうしよう……!? アルヴァロ様とどう接したら良いの……!?)

 アルヴァロから目をそらすグラシエラ。

 アルヴァロへの恋心を自覚して以降、グラシエラはアルヴァロとまともに接することが出来なくなっていた。

「そうか……」

 アルヴァロは怪訝そうな表情でグラシエラがまとめたメモを手に取る。

「まあ、決定打になる情報はまだないか」

「……ええ」

 グラシエラはアルヴァロと目を合わせずに頷いた。

(マファルダお姉様の無実を証明したい。その気持ちは確かよ。でも……)

 グラシエラはチラリとアルヴァロを見る。

 アルヴァロは、腕を組み考える素振りをしながらグラシエラのメモを読んでいた。

 アルヴァロがメモを再びテーブルに置くと、燭台の蝋燭の炎がゆらりと揺れた。それと同時に、炎により生み出された影も揺れている。

(五年前の『王宮殺人事件』の真相が解明して、マファルダお姉様の無実が証明されたら……アルヴァロ様との関係も……終わってしまうのよね……)

 慕っている姉マファルダの無実の証明と、アルヴァロへの恋心で揺れるグラシエラだった。

(どちらも諦めたくないと思うのは……虫が良すぎるわよね……)

 グラシエラは内心ため息をついた。

「グラシエラ嬢、そろそろ会場へ向かおうか。馬車も待っていることだし」

「ええ、そうですわね」

 アルヴァロの言葉に頷き、グラシエラは夜会に向かうのであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






「グラシエラ嬢」

 会場に到着したグラシエラは、アルヴァロから手を差し出される。

(そうよね。アルヴァロ様は、私をエスコートしてくださるのよね)

 グラシエラの鼓動が速くなる。

 アルヴァロの手を取ることを意識してしまうグラシエラだ。

 グラシエラは緊張しながらアルヴァロの手を取った。

 一方、アルヴァロはいつも通り全く変わりはない。

 グラシエラはアルヴァロにエスコートされ、夜会会場に入る。

「あれは……エンリケ様ですわね」

 グラシエラは会場にエンリケの姿を発見した。


 星の光に染まったようなアッシュブロンドの髪に、アメジストの目。

 第二の王家とも呼ばれるブラガンサ筆頭公爵家長男のエンリケは、かなり目立っていた。


「ああ。彼もこの夜会に参加すると言っていた。情報交換も兼ねて挨拶に行こうか」

「ええ」

 グラシエラは頷き、アルヴァロにエスコートされたままエンリケの元へ向かう。

 エンリケはグラシエラとアルヴァロの姿に気付き、ニッと白い歯を見せて笑った。

 グラシエラはカーテシーで、エンリケはボウ・アンド・スクレープでエンリケに礼を()る。

「ハハハッ。良い夜だね、二人共。楽にすると良い。俺達の仲だろう」

 凛々しく高らかな声が頭上から降って来た。

 グラシエラとアルヴァロはゆっくりと体勢を戻す。

「こんばんは、エンリケ殿」

「ご機嫌よう、エンリケ様」

 エンリケも加わったことにより、グラシエラの緊張は少しだけ解れた。

 バルコニーの窓から風が入り、グラシエラ達の髪をそっと撫でる。

 ほんのりと熱が込められた風である。

「まだ春の気分だったが、そろそろ夏の気配がするようになった」

 バルコニーの方に視線を向け、明るい表情のエンリケだ。

「確かに。気温が高くなっていますね日も長くなっていますし」

 アルヴァロもバルコニーに目を向けた。

「街を見ても、ジャカランダの花が咲き始めていて、夏を感じますわ」

 グラシエラはふとアルヴァロと王都を回った時のことを思い出した。

 グロートロップ王国の王都ソビラを華やかな薄紫色に染め上げたジャカランダ。

 グロートロップ王国の初夏に咲き誇る花である。

「確かに。グラシエラ嬢の言う通り、あの薄紫色を見ると、いよいよ夏がやって来ると感じる」

 エンリケはバルコニーからグラシエラに視線を向け、ハハッと高らかに笑った。

「それに、桃も出回り始めましたわ」

「グラシエラ嬢は桃が好物だったね」

「ええ」

 アルヴァロの言葉に、少しだけ頬を赤く染めながら頷くグラシエラ。

 好物を覚えてくれているのが嬉しくて、自然と口角が上がった。

「おお、桃か。ジューシーで美味しいから、俺も好んで食べるぞ。お、グラシエラ嬢、今日出されている飲み物は桃のソーダらしい」

 エンリケは給仕が運んでいる飲み物に気付き、三人分取ってくれた。

 グラシエラは一言「ありがとうございます」とお礼を言い、エンリエから飲み物を受け取って一口飲む。

 芳醇な甘い香りが鼻を掠める。そして、トロッとした濃厚な甘さが、口の中いっぱいに広がった。更に、シュワシュワと炭酸が弾けて喉をすっきりと潤す。

 グラシエラは桃のソーダを飲みながら、口角を上げて表情を和らげた。

「グラシエラ嬢、美味しそうに飲むね」

 アルヴァロの優しげなサファイアの眼差しが向けられる。

 少しミステリアスだが、甘い表情のアルヴァロだ。

 そんな表情で見つめられ、グラシエラの体温が一気に上がる。

「まあ……桃は私の好物ですから……」

 グラシエラは上手く言葉が出ず、アルヴァロから目をそらしてしまった。

 ふと視線の先には、イキシアの花が飾られていた。

 イキシアは星型の花がカラフルで、明るく咲き誇っているのであった。

「ところでエンリケ殿、『王宮殺人事件』の方はいかがですか?」

 アルヴァロは声を潜めてエンリケに聞いた。

 するとエンリケは真面目な表情になる。

「ああ、その件だな。俺も独自に調べてみた。だがやはり二年前と同じで、情報が何者かに遮られてしまう」

 エンリケは腕を組み、「どうしたことか」と難しい顔をした。

「そうですか」

 アルヴァロも腕を組み、考え込むような素振りをする。

「レアル伯爵の件と言い、気になることが多いですわね」

 グラシエラはポツリと呟いた。

 レアル伯爵が王宮図書館にある『王宮殺人事件』に関する資料を破いていた情報は、エンリケと共有しているのだ。

「俺は他にも他国筋の情報を当たってみる。話によると、もしかしたら『王宮殺人事件』目撃者が他国へ逃げた可能性も出て来たんだ」

「まあ……!」

 エンリケからの情報にグラシエラはヘーゼルの目を見開いた。

 マファルダの無実の証明に一歩近付いたかもしれないのだ。

「グラシエラ嬢、あくまでまだ可能性の段階だ。確実ではないぞ」

 エンリケは若干苦笑する。

「確実ではないとしても、僕達にとっては大きな希望ですよ」

 アルヴァロのサファイアの目が、少し輝いたような気がした。

 五年前の『王宮殺人事件』に関しては、このまま調査を続ける方向で決まった。


「これはこれは、アルヴァロ殿」

 事件に関する話が終わってしばらくすると、アルヴァロに声をかける者がいた。

「何でしょうか?」

 アルヴァロはやや怪訝そうな表情だ。

「我が伯爵家とマリャル侯爵家の取り引きに関してお話が」

 やや伯爵と名乗る男はやや不遜な態度であった。

「分かった。じゃあ向こうで話を。エンリケ殿、グラシエラ嬢、僕は一旦外すよ」

「分かりましたわ」

 恐らく良い話ではなさそうなことは、グラシエラも分かった。

 グラシエラのヘーゼルの目は、少しだけ心配の色に染まっていた。


 こうして、グラシエラはエンリケと二人になる。

(そういえば、エンリケ様と二人になることは初めてね。……正直な話、あまり話題がないわ)

 チラリとエンリケを見て、グラシエラは少しだけ気まずくなってしまう。

 しかし、エンリケは特に気にした様子はなく明るい笑みをグラシエラに向けた。

「そう言えばグラシエラ嬢、先程桃が好物だと言っていたな」

「ええ」

「ならば、隣国ニサップ王国に珍しい桃があることは知っているか?」

「いえ、初めてお聞きしました。どのような桃なのです?」

 グラシエラはヘーゼル目を丸くした。

「形は平べったく、幻の桃と呼ばれている。きめ細かい果肉だが、しっかりと歯応えがあって、濃厚な甘味と適度な酸味がある」

「まあ……! 食べてみたいです」

 グラシエラはヘーゼルの目を輝かせる。

 いつの間にか、エンリケとの会話を楽しんでいた。


 しかし、楽しいひと時に水を差す者が現れた。

「まあ、グラシエラ様じゃない。『王宮殺人事件』の犯人、マファルダの妹の」

「アルヴァロ様と婚約したのに、筆頭公爵令息のエンリケ様と一緒だなんて」

「やっぱりレアル伯爵閣下が言ったみたいに、もっと身分の高い方との結婚を目論んでいるのかしら? 何て恥知らずな」

 令嬢達がそうグラシエラに絡む。

(……感情的になっては、この前の王家主催の夜会のようになるわ)

 グラシエラは軽くため息をついた。

「あら、私ってそんな風に見えているのですね。面白い」

 グラシエラは品のある笑みを浮かべた。

 隣にいるエンリケは、アメジストの目を丸くする。

「それにしても、貴女達は随分と暇なのね。羨ましいわ。私にもそんな暇な時間を分けて欲しいくらい。ねえ、貴女達の時間、くださらない?」

 上品な笑みのまま、グラシエラは令嬢達に迫った。

 グラシエラは感情をコントロールする術を身に付けたのだ。

「はあ? 貴女何言ってるの?」

 令嬢の中の一人が、露骨に不機嫌そうな表情になる。

「ねえ、時間、早く私にくださらない? ねえ、早く」

 ふふっと笑いながらグラシエラは更に令嬢達に迫った。

「……もう良いわ。行きましょう」

 令嬢の中の一人がそう言い立ち去る。他の令嬢達もその令嬢について行き、グラシエラの元を離れるのであった。


「俺が出る幕はなかったようだな」

 エンリケは意外そうな表情だった。

 グラシエラはフッと笑い、肩をすくめた。

「……君は、凄いな。あんな風に言われても笑顔で返せるだなんて」

「凄くはありませんわ。以前感情的になってしまって、アルヴァロ様を大変なことに巻き込んでしまいましたから」

 王家主催の夜会で、レアル伯爵との出来事を思い出しながら苦笑するグラシエラ。

 あの時のことはしっかりと反省して次に生かしたのだ。

 ふと、イキシアの花が目に入る。

 少しだけ口角を上げるグラシエラ。

 カラフルな花は、グラシエラに少しだけ元気を与えてくれた。

 エンリケはグラシエラを真っ直ぐ見つめていた。


 その時、ダンスの曲が流れ始める。

「グラシエラ嬢、せっかくだから一曲どうだい?」

「分かりましたわ。よろしくお願いします」

 グラシエラはエンリケから差し出された手を取り、ダンスを始めた。

 筆頭公爵令息らしく、エンリケのリードは堂々たるものだった。

 グラシエラはエンリケに恥をかかせないよう、やや必死に舞う。

 エンリケの明るい笑みが向けられ、グラシエラは思わず笑った。

 明るく溌剌とした笑みである。

(アルヴァロ様とはまた違った感じだわ)

 グラシエラはそう思いながらステップを踏む。


 その様子をアルヴァロがじっと見ていたことには全く気付かないグラシエラであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






(やはり(ろく)でもない話だった)

 伯爵と話を終えたアルヴァロは呆れたようにため息をついた。

 マリャル侯爵家に圧倒的な不利な条件での取り引きを持ちかけられたのだ。

 当然断ったアルヴァロである。

 アルヴァロは会場に戻ろうとした。

 しかし、入り口で足を止める。

(グラシエラ嬢……!)

 グラシエラがエンリケとダンスをしていたのだ。

 グラシエラは明るく溌剌とした表情である。

「……あんな表情、初めて見たな」

 アルヴァロは複雑な表情である。

 更に、グラシエラを見つめるエンリケのアメジストの目は、どこか熱が込もっているように感じた。

「グラシエラ嬢には……僕なんかよりもエンリケ殿の方がお似合いかもしれない……」

 ポツリと呟いたその言葉は、夜会の空気に吸い込まれて消えるのであった。

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