表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/57

54 増えた住人

 ルシオの異空間には今、大地溝から避難してきたトカゲたちがいる。

 水の精霊がいた洞窟が崩壊し始め、慌ててルシオの異空間へ避難させた。

 精霊が消えたせいで洞窟を支えていた結界が崩れ、ルシオに施されていた魔法も解けた。

 テセロに対する彼らの行いには、許せないものがあったが見捨てるわけにもいかない。


 ”トカゲ”と面と向かって言えないので、彼らを水の民と呼ぶことにする。


 水の民は疲れ切って、ルシオの住んでいる島でうずくまっていた。

一晩寝ただけでは疲れが取れないようだ。


 住処が崩壊し、信じて守ってきた存在が消えた。

 自らの存在意義があやふやになり、行く当てがなくなった空虚と喪失感は、いかばかりだろう。


 屋敷には三百人を超える人を受け入れられない。

 そのため、めいめいが寝場所を見つけ昨日は野宿してもらった。

 森で休む者、海辺の木陰へ行く者それぞれだ。


「住む場所を確保しないと、このままでは可哀想だな」


 食べ物は、獣人達がふんだんに運んできてくれるので困らないが、住む家が無ければ落ち着かないだろう。


 目の前には、使われていない島々が浮かんでいる。

 あの中で彼らが住みたいと思える場所があれば、そこに住んでもらう。


「気に入らないというなら、もうお手上げだけど……」


 クリステルが仕事終わりに、シュバリスの神殿からきた。

 ルシオから話を聞いて、目を剥いていたが、彼らの無気力な姿を見て、同情したようだ。


「住む家なら私が作ればいいだけだが、彼らが住みたいと感じる島は私には分からない。水の民を連れて見てもらった方がいい」

「確かにそうだね……少し気持ちを整理して、落ち着いてからにする」


 水の民に話しかけるのは、暫く気を張らなければ普通にはできそうにないルシオだ。

 


 次の日の午後、水の民の長老らが休んでいた森へルシオは赴く。

 足取りは重い。

 できれば暫くは、顔も見たくないし口も聞きたくないのだが、このままここにいて貰うのもいやなのだ。


 テセロがいるこの島から、水の民を早く追い出したいルシオだった。

彼らを見る度に、あの日、台座に横たえられたテセロの姿が脳裏に浮かぶ。

すると、ルシオはあの時の”手も足も出ない”という焦燥感がぶり返す。


 胸が締め付けられ、手が震える。

 今まで、魔法でなんでも簡単に解決してきた自分の傲慢さも感じられて、思わず顔を背けたくなるのだ。


 魔法は力だ。

 その力は与えられたものにすぎない。決して自分のものではなかった。

 その事実を、あの日まざまざと突きつけられた。



 水の民の長老らは、さらに老け込んでいた。

歩くこともできそうにないほどだ。ぼんやりと宙を見つめ、焦点も定まっていない。


「皆が、これから住む島に案内したいのだが……長老は無理なようだな。誰か僕と一緒に島を廻ってくれないだろうか」


 水の民の一人がゆっくりと立ち上がった。

「われが行こう。御じじ様はもう心を閉ざしておる。水の民を住まわしてくれて、礼を言う」


 ルシオが目をやると、その者は目を反らさずに真っ直ぐこちらを見ている。

「君、名前は?」

「名前は……ない」


 水の民は名をつける習慣がないのだろうか。

だが、このままでは不便極まりない。ルシオは少し考え、彼に名を与えることにした。


「君をミナリスと呼んでもいいかい?」

「! は、ありがたい。名をもらえるとは……」


 ミナリスは、水の民の中でも中堅に当る。長老は百歳を超える年齢で、ミナリスは五十代のようだ。彼らには名前もなく、年齢も数えない不思議な種族だ。


 以前、エルフを愛でた精霊たちの愛は、水の民には降り注がなかった。

 何とも嫌な、依怙贔屓で自分勝手な精霊だ。


 ミナリスと二人、フライトモービルに乗って島々を回る。

 その途中、ミナリスが静かに口を開いた。水の民に伝わる古い言い伝えだという。


「昔、精霊は四柱おった。

 北に住む美しい妖精たちを愛で、桃源郷に住まわせていた。


 あるとき、神は嫉妬し、彼らを滅ぼそうとなさった。

 火の精霊と風の精霊は神に戦いを挑み、燃え尽きた。


 土の精霊は砕かれ、地に埋められた。

 水の精霊も同じく砕かれたが……ひとつの欠片だけが逃げ延びた」


 その話を聞き、ルシオは

 ――テセロに宿ったのは土の精霊だったのか?

 とぼんやり考えた。


 島を廻るが、中々気に入る島はないようだ。

 島の殆どは緑に溢れ小川が流れている。一つの島は火山があり、ここは地の民の住む島だ。


「きみたちが望む条件はなんだい?」

「水がふんだんにある洞窟……あまり光が降り注げば……我らは干からびてしまう」


 ――ずいぶん地底人たちと似ているな。元は同じ種族かも知れない……

【ルシオ、神に祈ってみればどうだ? また迷宮島のように作ってもらえるのではないか】


 ご先祖様はこう言ったが、とんでもない! 

 神が勝手に作れば大がかりになるし、問題が起きる予感しかしない。

「僕が何とかする」


 そうは言ったが、何処をどうすればいいのか……。

 ミナリスを送り届けた後、ルシオは再び一人で島々を巡った。

 その中で、一番小さな島がふと目に留まった。


 先ほどもここを見たが、降り立つことなく通り過ぎた島だった。

 岩場から少し離れた平地に降り立ち、隈なく見て回る。

「すごく小さい島だけど……岩場が多い」

 ここには獣人達も滅多に来ない。植生が疎らで、旨みがない島だからだろう。だが、獣が少なく危険は最小限だ。


 島の中心に小さな洞窟があるのに気づいた。

 洞窟に入ると、中は意外に広く、まるで誂えたように泉が湧き出している。


 暗い洞窟の中では水は暗く沈んで見えた。

 

――以前からあったのだろうか?


 不審には思ったが、これ以上の物件は見つからないだろう。

 早速屋敷がある島へとって返し、ミナリスを連れてもう一度見てもらう。

「ここは素晴らしい場所だ。ここがいい!」


 彼らは自分達で住居を整えるから、このまま移住したいと言ってきた。

「こんな処でいいの? まあ、気に入ったのなら……いいけど」


 洞窟は広く涼しく、静けさに満ちていた。

 順次彼らをフライトモービルで送り届けるのには手間がかかりすぎる。


 ここに転位陣を敷き、一気に彼らを運び入れた。


 彼ら水の民は新住居に落ち着いた。

 ルシオは時々彼らの島を訪れ、生活の様子をつぶさに覗う。


 彼らは、魔法が使えなくなっていた。

 魔力はある。エルフや妖精たちと同じで、魔法を習うということがない彼ら。初めからいつの間にか使えるようになるのだそうだが……。

 精霊が消え、魔法を発現する力が消えてしまったようだ。


 ルシオが教え込めば、もしかすると魔法が使えるようになるかも知れないが、あえてルシオは教えない。

 彼らが、また、理から外れた魔法を使うようになれば――

それは脅威以外の何物でもない。


 彼らは、泳ぎが得意で、海へ出て魚を捕って食べているようだ。

 それだけでなく、海から海藻も採ってくる。

 岩場には、昆布に似た海藻が敷き詰められ、天日干しされていた。


「これ……出汁昆布か?」


 思わず叫んでしまったルシオだ。

 ルシオの異空間には米も採れる。陸稲だが確かに米だ。

 そして今度は昆布か……。

 ――神様は僕の機嫌を取っている? まさかな……

【そうかな、本当に機嫌取りをしているかもしれんぞ。お前には世話になりっぱなしだからな。この神は】

「ええーーっ!!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ