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第十四話 近すぎて見えないもの

 私が死んで、もしも地獄か天国かを選べるなら。

 きっと、必ず、絶対に、私は地獄を選ぶ。


 自分のしたことが、どれだけ酷いことか知っているから。

 私の思う通りになったとて、私は地獄を選んだと思う。




 少し前を歩く小さな背中を見下ろし、震える心臓を収めようとする。

 あまりにも鼓動が速く、まるで刃が落ちてくるのを待ちながら暴れている処刑人のようだ。



 どうして、何も言わないんだろう。

 どうして彩葉は、黙って歩いているのだろう。

 電車に乗っている間も、そうだった。

 ただいつものようににこやかに、私の隣に座っていた。


 ふと、あのカフェを離れた時のことを思い出す。



『すみません、花月さん。後、任せてもいいですか?』


『はい、もちろんです! ほら、行こ? 栞。』



 髙木君は少し申し訳なさそうだった。

 彩葉はいつものように明るかった。


 不自然だ。

 あんなに明るかったのに、店を出てから彩葉は本当に一言も発しない。


 それがすごく、怖い。


 できることなら早く、できる限りハッキリと。


 ……私を、蔑んで欲しいのに。



 けれどもやっぱり、この子は何も言ってくれない。



「……彩葉。…………なんで、何も言わないの。」


 耐えきれず、そう尋ねてしまった。

 自分で言っておきながら信じられない。こんなことを言ったなんて。


 分かっている。察している。

 どうして彩葉が何も言わないのか、なんて。


 呆れたからだ、嫌いになったからだ、がっかりしたからだ、見損なったからだ、幻滅したからだ、虫唾が走ったからだ、顔も見たくないからだ、愛想を尽かしたからだ、裏切られたから、信じられなくなったから、見限ったから、失望したから、許せないから、軽蔑したから、辟易しているから──


 ──諦めたから、だ。



 分かっている。分かってるんだよ。

 でも、お願いだから……せめて最後に、何か言って。



「え?」


「……………………え?」


 思わず、今までの悪感情を全て掻き消すような間抜けな声を出してしまった。


「え?」


「え?」


 何だこれ。

 振り返った彼女の顔は少しぽかんとしているように見える。

 私自身もすごく困惑していて、今何が起こっているのかわからなかった。


「てっきり、栞が何か話してくれると思ったんだけど……違った?」


 ああ、そりゃそうだ。

 私が悪いんだから、私から話さないと。


「だってわたし、髙木くんから栞が話があるって言われたから来たんだよ?」


「……え?」


「うん、そうだよ? それで、何を話せばいいの?」


 彼女はニコニコとしている。

 もしも、仮に、ひょっとして──


「……彩葉って……その話の内容は、聞いてないの?」


「え? うん。何にも聞いてないよ。髙木くんは栞から話があるってことしか教えてくれなかったもん。」


 彩葉は小さな手でスマホを取り出し、そこに書かれた文章を見せてきた。


『すみません、花月さん。もし迷惑じゃなかったら、今日うちのカフェに来てもらえませんか。愛染さんから話したいことがあるそうです。』



 本当に、これだけだった。

 私のしたこと、話の内容については何も語っていない。


 そんなことがあり得る?

 だって、私がここでちゃんとあの話をしなかったら、彩葉を呼んだ意味も無くなるのに。



 彩葉の顔を見て、少しだけ目を瞑る。


 そうしないと泣いてしまいそうだった。

 あの人の、髙木君の優しさに。


 彼は、私から話すようにと願ったんだ。

 告げ口とか、そんなんじゃなくて……ちゃんと、私が彩葉と向き合う機会を作ってくれた。


 どこまで、優しい人なんだろう。

 彩葉が惹かれたのもよく分かる。

 だって似ているから。綺麗な心が、凄くよく似ている。


「……彩葉……私は……」


「待って! 今日、うち来てよ! 久しぶりに。うちで話そう?」


「え、あ……うん。いいよ。」


 気圧されて、思わず了承してしまった。


 彩葉の家。

 一年くらい行ってないかもしれない。

 高校に入ってからは、私たちは外で遊ぶことが多くなったから。

 緊張はしない。既に人生で何度も訪れている。


 けれど何だろう。やっぱり怖い。

 髙木君にここまで場を用意してもらったのだから、逃げたりはしない。でも、どうしても、彩葉の反応が怖かった。



  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  



「ただいまー! ほら、上がって! お母さーん、栞来てるからー!」


「お、お邪魔します……」


 彩葉は家の中に入るなり、リビングに入って行ってしまった。

 扉の向こう側では複数人の声が聞こえてくる。


 まだ大して間が空いたわけでもないのに、何だか懐かしく感じる。

 前はよくこの家に来ていた。お互い遠くまで行くのは少し怖かったし、お金とかも今より無かったから。


 ……私は呑気に何を考えているんだろう。

 気を抜いちゃいけないのに。

 ドアの向こうの話し声を聞いていると、少しだけ心が緩んでしまう。


「あれ、まだそこにいたの? ふふっ、先に部屋行っててよかったのに。」


 彩葉は戻ってきて、笑いながらそう言った。


 ……少しだけ。緩んだ心のまま、少しだけ、聞いてもいいだろうか。


 階段を登りながら、そんなことを考えていた。



「お邪魔します。」


「なんかよそよそしいね。栞、何回も来てるでしょ?」


 約一年ぶりに彩葉の部屋に入った。

 相変わらず可愛らしい、女子の部屋といった感じ。私の部屋とは違う。


「それで、話ってなぁに?」


 まだ座ってもいないのに、彩葉はニコニコとそう尋ねてきた。

 私は、悪気があったわけじゃない。本当に、本当に、逃げようとしたとかじゃない。

 なのに、少し魔が差した、みたいな感じだ。


「…………彩葉は……髙木君のこと、好きなの?」


「………………え、ええぇぇーーーーっ!!??」


 そう、尋ねてしまった。


 こんなに驚いた彩葉はなかなか見れない。

 思わず私もビックリしてしまった。

 二人して目を見開き、束の間の静寂が訪れた。


「……な、なんで?」


 そんな彩葉の一言が平らな水面に波紋を広がらせる。


「なんでって……なんか、そう、見えたから……? 髙木君と話してる時の彩葉……凄く、楽しそうだったから……」


「…………えっと、その……あー……えっと……」


 顔を真っ赤にして視線が泳いでいる。

 答えなんてなくとも分かる。


 こんな彩葉は初めて見た。

 どれだけ慌てていることだろう。

 ……可愛らしい。こう見ると、やはりそう思ってしまう。

 けれど今だけは……自分のしたことを思うと、そんなに単純にはなれない。



「……………………うん。」



 小さな、彼女の答えが響いた。


 ああ。耐えられなかった。

 涙が、目元に溢れ出てきてしまう。

 少なくとも、頬を伝わせるわけにはいかない。


 私は、なんてことをしてしまったのだろう。

 どれだけ自分を責めたら、私は私を許せるようになるのだろう。


「……ごめん。」


「……えっ?」


 彩葉はまだ赤いままの顔を少し傾けた。


「ごめん、なさい。私……私、彩葉を……彩葉を守りたくて……ごめんなさい……! 私、髙木君に、もう彩葉に会わないでって、言っちゃった……! 分かってたのに、彩葉が、髙木君のこと特別に思ってるって……。でも、もし彩葉が皆んなに嫌われちゃったりしたら、嫌だからって……勝手に、全部、身勝手に……!」



 なんと長い言い訳だろう。

 こんなことをいくら言ったとしても、私の悪行は許されない。

 本当に、どこまでいっても保身ばかりだ。



「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 どれだけ謝っても心が浮くことはない。彩葉は何も言わずにただ立ち尽くしていた。


 私は、こんな時でもこの子の目を見ていられない。

 謝る時なんて、一番相手を見るべきだ。なのに、ただ泣いて、反省しているフリをしている。


「……な……」


 彩葉は小さな口を開いた。私は軽く顔を上げ、彼女の口元を視界の端に捉える。

 やはり、目は見れなかった。


 彩葉は少しずつ後退りして、ベッドに勢いよく腰掛ける。

 もしかしたら、ショックで立っていられなかったのかもしれない。


「………………な、なんだぁ……よかったぁー……」


「…………えっ?」


 彩葉は胸を撫で下ろし、ベッドの上で安心したような笑顔を浮かべていた。

 私には分からなかった。

 なんでそんな顔をしていられるのか。何が『よかった』のか。


「な、何がよかったの? 良いことなんて全然無いよ!」


 思わず、声が荒くなってしまった。

 自分を責める気持ちが消せず、彩葉の態度もよく分からない。あまりにも混乱して、頭が物理的に回っているようだった。


「……わたし、栞から話があるらしいって髙木くんに言われた時……てっきり、栞が髙木くんと付き合ったのかなって、思っちゃったんだ。そうじゃ無かったとしても最大のライバル登場!?とか思ってたから。だから、よかったなって。」


 私の顔が記録されていなくて本当に良かった。もし私の人生が『トゥルーマン・ショー』か何かだったら、酷く間抜けなこの顔が全世界に配信されるところだった。


「な、ち、違うよ! 私は、別に髙木君のことなんて……!」


「えー、本当? 良いんだよ? 本当のこと言っても。親友でしょ?」


「ほ、本当に違うから……私はまだ男の子のことなんて好きになれないよ。」


 つい慌ててしまったが、本当に違うから困る。

 いや、そんなことよりも今はもっと大事なことがある。


「い、いやちょっと待って。私が彩葉の恋敵じゃないことがよかったのは分かったけど……それで私のしたことが消えるわけじゃない。……やっぱり、私のしたことは許されないよ。」


 再び俯いて、そう言った。

 彩葉のペースに持って行かれて、危うく場が和んでしまいそうになる。


「……うーん、どうだろうね。わたし、まだ栞のしたこと、よく分かってないから。もっと教えて? 話そうよ。」


 彩葉は首を傾げながらポンポンとベッドを叩いた。

 横に座れということだろう。私はそっと彼女の隣に腰掛ける。


「……彩葉は……私が髙木君に、彩葉と会わないよう言ったのを嫌だって思わないの?」


「うーん……嫌、とは思うよ。勝手にそんなことして!って怒ると思う。」


 嫌と思うのならば、やっぱり私がしたことは許されない。というか、この子がどんな答えを出したとしても許されることではないのだ。

 ならば私は今、言い訳なんてしている場合ではない。

 けれども、何を話せば良いのか分からない。許しを乞うわけでも、慰めて欲しいわけでもないんだから。


「…………でも、栞が髙木くんに何を言ったって、髙木くんがそれにどんな答えを出したって……わたしはきっと、髙木くんにまた会いにいくよ。髙木くんが私を避けたら、学校でも会いにいく。それでもダメなら、待ち伏せしたりとか。」


「い、彩葉……それは、ストーカーなんじゃ……」


「えっ!? あ、確かに……でも、最後にちょっとでいいから、話したい。それに、栞がそうしたってことは何か意味があるって知ってるから。それで、ちゃんとお別れを言うと思う。」



 本当に、どこまで真っ直ぐなのだろうか。

 私なんかが、この子を守ろうだなんて。


「……なんで、怒らないの。」


「だって、栞から話してくれたでしょ?」


「……関係ないよ。」


「関係あるよ。」


 分からない。

 もっと激怒されても、私は理解できた。


「……彩葉。……私、今までも同じようなこと、何回もしてきたんだよ。今回だけじゃない。」


 そうだ。きっと今回はこちらから打ち明けたから怒っていないんだ。

 今までの、隠してきた罪を聞けば……きっと、彩葉だって……


「そうなんだ。わたし、全然気づかなかった。」


「……な、なんで、怒らないの?」


「……だって、わたし今まで好きになった人、いないし……」



 そういう問題か?

 いや、そういう問題ではない。


「で、でも、例えば……ま、将暉(まさき)とか、海斗(かいと)とか……仲良かったでしょ……?」


 忘れるはずもない、その名前たちを思い出す。

 彩葉に優しくして、彩葉もきっと、少しくらいは意識していたであろう男たちを。


「ああ〜……懐かしいね!」


「懐かしいね、じゃないよ……もしかしたら、私が彩葉から引き離してきた人たちの中には……彩葉をちゃんと、大切にしてくれる人もいたかもしれないのに……。私は身勝手に、そんな可能性は無いって、勝手に……」


 目元から、再び熱いものが流れそうになる。

 いっそ、このままあらゆる体温を奪い去ってくれれば楽なのに。

 でも、楽になることは許されない。私自身が、許さない。


「……栞。……そんなに自分を責めないで。わたしは別に、将暉とか海斗のこと好きだったわけじゃな──」


「いつか、好きになってたかもしれないでしょ! ……いつか、ちゃんと付き合ってたかもしれないでしょ……」


 声を荒げる。

 その行動が終わってから一秒ほど経って、私は慌てて口を塞いだ。


「……ごめん。」


「栞。……皆んな、今どうしてるか知ってる?」


「え? ……あんまり、知らないかも。」


 彼女はまだ、怒りを露わにしない。

 ここまできたら、何をすれば怒るのか分からない。


「将暉ね、高校で彼女できたらしいんだけど……なんと、浮気して二人にボコボコにされたらしいよ……!」


 彩葉はわざとらしく囁き声で、まるで噂話をする主婦のようにそう言った。


「う、浮気? ……そ、そうなんだ……」


 私は正直反応に困った。

 中学時代の同級生が浮気をするようなクズになっていたという情報を聞かされても、怒ればいいのか笑えばいいのか分からない。


「あとね、海斗は部活の先輩たちのせいでタバコとか吸ってるらしいよ。やだねー。」


「う、うん。まぁ……嫌、かも?」


 急に何を聞かされているのだろうと、首を傾げたくなってしまう。


「……栞、もしかしてわたしが何を言いたいか分かってない?」


「えっ? ……あ、ちょっと、分かってないかも……」


 彩葉はニコッと笑って、私の手を包んだ。

 小さな手なのに、大きな優しさを感じられる。


「どっちも、好きにならなくてよかったって話! まぁ、栞が何もしなかった世界線でもこうなったかは分からないけど……少なくとも、今はよかったって思う。」


「……でも、そんなの、あの時は分からなかったから……別に善意からあんなことをしたわけじゃないよ……」


「いいの、そんなの!」


 彩葉は強く手を引っ張って、ギュッと私を抱きしめた。

 私よりずっと短い腕なのに、私を優しく包み込む。


「大丈夫。栞は悪いことなんてしてない。……だから、謝らないで?」


 彼女に優しく頭を撫でられ、私はまたもや目元に涙を浮かべてしまった。

 まるで子供のようだ、こんなの。恥ずかしい。


「……彩葉……でも……」


「わたしね、多分、チョロいんだと思う。優しくされたら直ぐに、ちょっといいなって、思っちゃうの。……だから、ありがとう。」


「……ありがとうって……何が……?」



 一層強く、彼女の腕が私の首を抱きしめた。



「……私の初恋を、守ってくれて。おかげで、とってもいい初恋になったよ。」



 嗚呼。

 ……ああ、本当に、こんな言葉を欲していたわけじゃないのに。

 決して、こんなものを求めていたわけではないのに……だのに、すごく……



「ダメ……! 私は、そんな……いいことなんて、何もしてなくて……! 彩葉の、邪魔ばっかりで……! ごめん、ごめん……私は、最低なの……」


「……私の、大切な親友の悪口言わないで。」



 温かい。


 私は、決して許しを欲していたわけじゃない。

 けれど、優しい声音がその心を嘘だと言っているようだ。


 でも、本当に許して欲しかったんじゃない。

 謝りたかったんだ。ただ、今までの罪悪感の全てを、吐き出したかった。

 どんな罵声を浴びせられても、全てを隠して生きていくよりはマシだと思ったから。



「……いろは……いろはぁ……ごめん……!」


「悪くないのに、謝らないでってば。」


 優しい声音が、耳の奥まで入ってくる。


 止めたくても、涙は止まってはくれない。

 この雫に込もっているのは何だろうか。


 後悔? 安堵? もしかしたら、感動かもしれない。


 でもきっと、これは後悔だ。

 彼女は悪くないと言うが、そんなわけない。その意識は変わらない。

 だから、これは後悔だと、そう思うことにした。


「……栞。……今まで、守ってくれてありがとう。もう大丈夫だよ。わたしも、ちゃんと信頼できる人を見つけたから。」


「………………うん……」


「髙木くん、いい人でしょ?」


「……うん。」


 頷くことしかできない。

 それ以外の行動は、流れる涙が許さない。


「……わたしを、助けてくれたの。二回も。」


「……そうなんだ。……優しいね。」


「うん、そうなの。」



 まるで子供の会話だ。

 こんなんじゃ、小学生の頃から何も変わらない。


 いや、それでいいのかもしれない。

 私はずっと、今までずっと、小学生のあの時の志のままだったのだから。



「……彩葉。……本当にごめんなさい。今まで、ずっと。」


「……だから。悪くないんだから謝──」


「ううん、謝らせて。……私が、私を許さないために。」


 彩葉は目を丸くしたが、理解し、納得したように頷いた。


「……うん、いいよ。でも、わたしは全然、気にしてないからね!」



 本当に、甘すぎる。

 こういうところはまだまだ子供らしい。


 けれど、彩葉は成長していた。

 私が口出しするのが烏滸がましいくらい、いい人を見つけた。


 私はただ、気づいていなかったのだ。

 あまりに近い存在であった彩葉が、ここまで大きく、またしっかりと育っていることに。


 ずっと彩葉の周りを見ていた。

 変な奴が来ないように、変な奴と接さないように。


 私は、彩葉を見ているわけではなかったんだ。ずっと、身勝手に背中に隠していただけだ。

 そりゃ見えないに決まってる。背中に目なんて付いている訳がない。


 私は傲慢だ。

 本当に、心からそう思う。


 彩葉を守りたい?

 あの日から一度だって、私が直接彩葉を守れたことはない。

 当たり前だ。守る相手を見ていないのだから。


 これからは、もっとよく見よう。

 ずっと、この子を見て生きていこう。


 そうして、今度こそ私は、真に…………



 あなたの、友達になりたい。



  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  



 それからしばらく、私たちの間に大した会話は無かった。

 本心では、彩葉が髙木君に助けられたときのことを聞いてみたかったが、私にそんな資格はないだろう。


 だから、ようやく涙が流れなくなった頃に、今日一番気になったことを尋ねてみた。


「……彩葉は…………えっと……ううん、やっぱり何でもない。」


「一番気になるやつ! ちゃんと最後まで教えてよ!」


「…………彩葉は……た、髙木君に、こ、ここ……告白とか、するの?」


「…………あ、ああ〜……なるほど……」


 彼女を不快にさせてしまわないかと不安だったが、そっちは大丈夫そうだった。

 では、何がそんなにバツの悪いような顔をさせるなだろうか。



「……告白は……するつもりは無いかな。」


「えっ……なんで?」


 せっかくの初恋だ。しかもこんなに仲がいい。

 勿体無いと思った。


「栞って、髙木くんの夢とか聞いた?」


「……いや? 全然聞いてないけど……」


「だよね。……髙木くん、ヒーローになりたいんだってさ。皆んなを助ける……皆んなのためのヒーローに。」


「…………………………え?」



 もしかしたら、今日一番理解不能だったかもしれない。

 彩葉が怒らないことより、何より意味がわからなかった。


「……だから、わたしは髙木くんの特別にはなりたくないの。優しいから、きっとわたしが告白したら……自分の夢とか、全部忘れてOKしてくれると思うんだ。だから……髙木くんは好きだけど、だからこそ邪魔はしたくない。……だから、いいの。」




 何を、言うつもりもなかった。

 だって、彩葉は笑っていたから。

 本当に心からそうしたいんだなって、思ったから。


 けれど、少し。ほんの少しだけ、私は心配になってしまった。

 無理、してるんじゃないかって。

 どうせなら、彩葉には最高の初恋を経験して欲しい。もしかしたら、それはもう叶っているかもしれないけれど。


 ……どうせなら、実って欲しい。



 でも私は、何も言えなかった。

 言えるはずも無かった。

 もしかしたら私の言葉はまた邪魔になってしまうかもしれない。


 彩葉は悪いことじゃない、なんて言ったけど、私はそんなこと思えないから。

 きっと一生、このことを責めながら生きていく。



 だから、どうか、彩葉の恋が、何とか……



 何とか、実りますように。

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