レポート67:姉と弟。敵と味方。
監禁されてからから2日が経った。
「はいあーん」
「……」
「あーん」
あーんとはなんだったのか。そっぽを向くが半ば無理やりに口の中に食事を押し込まれる。相変わらず味が薄いことを除けば、丁寧に作られて美味しい料理。
「よし。今日もちゃんと食べられたねー?偉い偉い」
「不本意だ。」
「もーまたそんなこと言ってー。ほらお口ふきふきするよー?」
ずっと、この調子だから、こちらも調子が狂う。
はっきり言うと…こいつからは一切の敵意を感じなかった。朝になれば起こされ…ご飯を食べさせられ…着替えさせられ…外には出られないが一緒にトランプやらオセロやら…旧時代の娯楽を用いて遊んだりした。
それはまあ…そこそこ…それなりに楽しかったからまあ、良しとするのだが、困ったことが1つ。
「お姉ちゃんに他にしてほしいことあるー?」
これだ。
「お前は僕の姉じゃない。」
「えー?そんな冷たいこと言わないでよー。お世話してあげてるんだしー…ここには私と君しか居ないんだしー?君可愛いしー…お願いっ…!お姉ちゃんって呼んで!」
「エルフ。」
「もーっ」
ずっと、この調子なのだ。ことある事に姉をアピールしてくる。理由を尋ねどはぐらかしてくる辺り、何か企んでいるのだろうとはおもうが…その企は分からない。しかし、その立場を利用できることもある。
「入るぞ。」
しゃがれた声が、ドア越しに響く。
入ってきたのは、老…と言うには少しばかり若いエルフ。ヒューマンでいえば40代くらい。プラチナのブロンドに、少しばかり白色の毛の混じった髪模様。
顔は眉間に皺が寄り、威圧を放っている。
「出来損ないでも、ガキとなった悪魔の世話位は問題なくできるようだな。」
「長老……」
「…こいつが……」
怯えてるように演じて、ネイティーンの背後に身を隠す。…まさか、見方ごと打ち抜きはしないだろうが…今の発言。出来損ない。もしかしたら…肉壁としての役割はもう無いかもしれない。信じるべくは同族の情。最悪の場合…盾に…
「まあいい。その悪魔を、抑えておけるのならば、それでいい。」
「…ふん。悪魔…ね。どっちが悪魔だか。」
「…なに?」
「黒いローブの存在を知っているはずだ。各国で暗躍していた…悪魔を。」
「よく回る口だ。その魔力がなければ今すぐにでも、物言わぬ屍にしていたところだ。」
その刹那、顎を捕まれ壁に叩きつけられる。
脳が揺れる、肺が押されて空気が、吐きでる。
「かはっ…」
「…どちらが悪魔だ。神の子。…世界の、破滅者め。」
「なん…の…こと…」
「…生きてさえいればいい。利用価値さえ残れば…貴様の意識など。」
長老の魔力が流れ込む。記憶の蓋をこじ開けられる。忘れていた、忘れようとしていた。モノリスと出会うよりも前の、独りの記憶。
「…意識など、不要か。」
「やめてくださいッ!」
長老の魔力の高まりに死を覚悟した時、それを突き飛ばす存在あり。
「ネイ…ティーン…?」
「…なんの真似だ。出来損ない。」
「お世話は私に一任されてたはずですよね。」
「……そうであったな。…ああ、それでいい。…明後日、儀式を結構する。それまで、管理しておけ。」
「はぁーい」
汚物を捨て去るように地面に落とされた僕をネイティーンが抱き上げる。
暖かい。…ミルクのような…あまい香りが、する…
「あ、起きた?」
目を覚ませば、そこは膝の上。
「…ねい…?」
「…ん、なぁに?」
「…ネイティーン…だったっけ?…いま…何日目…」
「まだ二日目の夜だよー?」
「…そう…か…」
体を起こそうとするが、窘めるように撫でられ自然と力を抜く。
「怖かったね…大丈夫?」
「…問題ない。」
そうは言いつつ、抵抗しないこの子がとても可愛らしい。私のところに来た時にはもう小さい子供の姿で、お世話するように申し付けられた子。
ずっと生意気だけどそれも反抗期みたいでまた可愛らしい。撫でれば、嬉しそうに喉を鳴らす。
落ちこぼれとしてずっと…独りだったわたしが、初めて役に立てる子。誰かのためにできること。
「大丈夫だよ…もう、夜だから。ゆっくり休んで…?」
「……」
素直に認めたくないのか、何も答えはしないけど素直に膝に顔を埋める…カキュウくんだっけ。その身体を抱き上げて、抱き寄せ、その背中をとんとんと叩くと微睡み始めれば、すぐに眠りについた。
明後日の儀式を終えればこの子は…生きた魔力タンクにされてしまう。わたしはその時この子を手放せるかなぁ。




