レポート65:詰み。
状況を整理しよう。今僕の所在は、木都エルイド。
監禁状態にあり、見張り役としてエルフが1人。
そして身体は、幼少期程度まで逆行していた。
「これは…どういうこと。」
「ん…えーとね。私にもよく分からないんだけどー…その腕をつけたら勝手に…」
「これ?」
左腕の義手に置き換わるようにして装着されている、木の根が絡み合ってできたような義手。
「こんな事になる心当たりは?」
「うーん…それが君の力を抑えるって言うのは長老達から聞いてるけどーちっちゃくなる原因は、分からないかなー?ごめんね。」
面白いように情報が落ちるエルフだ。
長老と呼ばれる上位階級がいる。そいつらの意向で監禁されてると見た。そして効果は本物のようで、解析を使用するが反応がない。
なるほど、厄介だ。この義手の解除と元の義手の回収。及びこの監禁部屋からの脱出。差し当たってはこのくらいか。あわよくばギアの回収まで出来ればいいが…
「えっと…あっ、自己紹介がまだだったね!私はネイティーン。気軽にネイって呼んでもいいよ?」
「…まあこちらの事は調べてそうですし。態々こちらから名乗る必要はないかな?それにしてもなぜ僕を監禁しているのやら…」
「なんでなんだろうねー?とりあえず君が死なないように保護しておけって言われてはいるけど…」
「何か聞いてないんです?」
「んー…私そんなに優秀じゃないっていうか…下っ端みたいなものだから。」
「…なるほど。それはー、まあ情報共有されてなくても不思議じゃないですね。」
「酷くない?ねえ酷くない?」
「自分で言ったことでしょうに。」
翌日。依然として目が冷めた場所は素朴な監禁部屋。昨日と異なることといえば、エルフ…ネイティーンと言ったか。その姿も気配もないことだ。早々に訪れた脱出のチャンス。まず、窓は目の細かい格子状になっており、抜け出すのは不可能だが…頑張れば折れるかもしれない。そう読んで、昨日置いていった食事に残された、木製のスプーンを使って壁を殴りつけてみる。乾燥した木材と生木では乾燥している方が固い。叩き続ける度に少しばかり表皮が削れ、中が露出。…しかし、無駄であった。周りから皮が伸びるようにして自己修復。残ったのはそこそこの疲労感と、叩きつけられ続けて先端の潰れたスプーンのみ。術式を刻めば多少変わるだろうか。そう思い、スープを捨てて器にスプーンを使って術式を刻む。…そして、気づく。魔力を流せない。左腕につけられた植物義手に、魔力が流れて吸収されているのがわかる。
…万に一つの可能性にかけて、ドアに手をかけるがピクリとも動かない。…そもそも、ドアの取っ手はあるが区切りがない。恐らく、握り手の魔力を検知して変形するのだろう。なれば残る手段はあとひとつ。
「一応魔力が練れるなら…無理やり魔力を流して義手の許容限界を超えるっ」
吸収する相手に対しての稀に行われる脳筋戦法。
空気を入れすぎた風船が破裂するように、魔力を過剰に流し込んで義手を破壊する。
体の芯から活力が持っていかれるような虚脱感。
そして体の隅々から左手の義手へと流し込まれる魔力の奔流。貧血にも高い立ちくらみの中、少しばかり膨張したのを認識し……
「あ、起きた!大丈夫!?」
気が付けば僕はベッドに寝かされていた。
体がだるい。腕が、足が、鉛のように重たい。
義手は、2回り…いや3周りほど大きくなって依然として左腕に顕在。
「帰ってきたから倒れてたからびっくりしたんだよ!?ただの魔力切れだから良かったけど…すっごいびっくりしたんだから!」
「義手は、壊れてないか。」
「…え?うん…自己成長して容量増やしてるから大丈夫みたいだけど……ってもしかして、壊そうとしてたの?」
「…だとしたら?」
「…もう。めっ!」
襲ってきたのは、拳…と呼ぶにはあまりにも軽いが、そこそこに痛い、額への攻撃。俗に言う…デコピンと言うやつである。
「それが嫌なのもわかるし、壊したくなるのもわかるけど…そんな魔力切れになるようなことしたらダメでしょ!!」
「…は?」
理解不能。予測不能な言葉。破壊しようとしたことそのものでは無く、その手段に対して、怒っている?
「なんで…?」
口をついて出た問をどう解釈したか、腰に手を当て、前屈みになりながら、怒った口調で続ける。
「いいっ!?魔力っていうのは、生命エネルギーみたいなものなの!使い切れば1日なーんにもできなくなるし、それ以上に無理に使えば命だって危ないんだよ!だから…そんな危険な真似はダメ!!絶対禁止しますっ!」
「…分かったよ。もうしない。」
「本当に?」
「ああ。どうせやっても無駄だってわかったしな。」
「ならお姉さんとのお約束。」
小指を立てるネイティーン、万国共通。文明崩壊後も残った、約束の儀式。指を絡ませ、何度か腕を振る。
「…はいはい。約束ね。」
敵との、ほぼ強制的約束。…だがそれは何故か…嫌な気はしなかった。




