レポート64:誘拐。逆説的、目的地の到着。
意識が覚醒した時、覚えたものは違和感。
目を閉じていてもわかる。まず、木の匂いがする。
先までいた、大自然的な湿気と土の香りではない。
加工された木材の香り。聞こえるのは誰かの陽気な鼻歌とグツグツというなにかが煮える音。
気取られぬように静かに目を開ける。
今いるのは、ベッドの上。幸い横向きで眠っていたため、部屋がある程度見渡せる。
間取りからおそらく僕がいるのは壁沿いのベッド、
向かいの壁には1枚のドア。煮える音や鼻歌はその向こうから聞こえてきている。
内装は…壁から家具まで全て木製。それも塗装のされていない素材そのまま。
ベッドから起き上がり、辺りを見回す。全体的にすこし、寸法というか…高さが高い。物が大きめに作られているのだろうか。エルフ族はそんなに大柄であったという記述はなかった記憶があるが…
その刹那、ドアノブをひねる音。咄嗟にベッドの下へと身を潜め、観察する。
「あれぇ…?どこか行っちゃったのかなー…?」
聞こえる声は、おっとりとした女性の声。まだ若い…人間年齢でいえば20代くらいだろうか。
髪は長い。白目の金色の長髪を編み込んだ髪型をしており、優しいお姉さん…といった印象を受ける。
幸い、ベッドの下には1人分くらいのスペースは存在していた。隠れるには十分。
「あ、見つけたー。」
地面の木材が自然と動き、ベッドの外へと出されるとそのまま抱き上げられる。
「もー、かくれんぼしてたのかな?でもダメだよー。
君がいなくなったってなったら大騒ぎなんだから。」
子供を軽く叱るような口調のままベッドに戻される。発言から察するに、目的は監禁…?少なくともこうして生きている以上殺意はないと考えていいのだろうか。
「おかゆ作ってきたけど…食べられそうかな?」
「何が入ってるか分からないものを素直に食べるやつがいたのか?」
「もー…君のことは少しは聞いてるから気持ちはわかるけど…食べないと体がもたないよ?」
「その方が好都合だよ。」
敵の思惑通りに行って溜まるか。…という反抗心故の行動。我ながら後先考えない短絡的な行動だと思う。
「んー…警戒されてるのかなぁ…?まあ無理もないけどー……よし!じゃあこうしよっか!」
木製のスプーンで救いあげたお粥を、自らの口へと運び、あつあつなどと言いながら食べるエルフ。
「これで、毒味はできたよ?」
…お前らに効かない毒なんだろ。や解毒剤を飲んでるんだろ。遅効性なんだろ…などと無限に言えるはずのその行為に、僕は何故か……不思議と信頼してしまったのだろうか。自然と口に運ばれるお粥を受け入れていた。
「どう?美味しい?」
「…薄味」
「あはは…そこはちょっと我慢して欲しいかな?
この森で取れるものに塩分が含まれるものは少ないから…」
「つまらない国。」
「それに関しては否定できないかも…?」
ほわほわとした喋り方をする女エルフ。身長は…僕と比較して頭2つ3つほど抜けている。200~230cmほどか?容姿は先に言った通りなので割愛。正しく…なんというべきか…そう。母性の塊のような…そんなエルフ。主な要因は…目のやり場に困る乳房の発達によるものだろうか。ちょうど目の高さに来るためとても、やりずらい。
「とりあえずシャワーでも浴びる?随分と…そのー…汚れてるみたいだし」
「…木都にもシャワーなんかあるの?」
「うん。あれ見て?」
抱っこされるような形で外を見せられれば、幾つものツリーハウス…否、木から直接掘り出したような部屋のようなものが見える空間の中央に位置する大木。
「世界樹様から、少しだけ私たちの生活にお水を貰ってるの。だからお水は充分使えるんだよ?」
「…そうなんだ。」
否定なし。つまるところここは…目的地であった木の都、エルイドで間違いはない。
「ほら行くよー?」
お姉さんエルフ(仮名称)に連れられて浴室につれてこられる。そこにあるのはシャワーもどき(強いて言うならば蓮の種がある状態に近いだろうか)から吹き出す水を浴び、そこに備え付けられた姿見によって初めて気がつき、そして愕然とした。
そこに居たのは、少年だった。左腕は植物由来の義手にすげ変わり、随分と痩せ干せた…少年の姿。
「はーい、体洗うから大人しくしてねー?」
お姉さんエルフに体を洗われているその少年に感覚が呼応してるのか、この体にもくすぐったさが襲ってくる。否、現実逃避はやめにしよう。
今、僕の身体は…記憶にない幼少期へと遡っていた。




