レポート59:郷愁。
無事、卒業試験は終わった。
「これで晴れて2人とも職人を名乗れるな。」
「見習いから駆け出しに変わっただけな気もするがな。」
「でも、職人になれたのは事実だからね。よろこぼ?」
「そうだぞー?キュウはそういうとこ可愛げがないからな?」
「可愛げの担当はクノムに頼むわ。」
「まったく…まあいい。何はともあれ…祝いだ!呑むぞ!」
「絶対自分が飲みたいだけだろ。」
「その前にキュウは義手の修理だもんね。」
「頑丈に作りはしたが…それでもあんな一撃貰えばな。」
思い出されるはトドメの一撃。
クノムの巨大ハンマーの楔の役割を果たした義手は、再生しようとするゴーレムの肉体の圧力と、後方からかけられた超威力により、見過ごせないレベルで歪んでおり、内部術式も発動しない。
「まー…前使ってたのは残してあるから今日はそれ使って明日以降時間かけて直すか新しく作るよ。」
「そっか。ならまずは買い物?」
「案ずるな弟子たちよ!既に買い物は済んでる。」
「…明日は落石かな?」
「崩落かもしれん。」
「お前ら。」
冗談もそこそこに、祝勝会…であってるのかはまあ置いておくとしてパーティを始める。
普段、情報量の多いものはあまり好まないが…
まあこんなのも悪くない。
しかしまあ、楽しさには代償も伴うわけで。
翌朝、食卓周辺の掃除をするクノムを眺めながら、大量に出た食器も洗う。こびりついた汚れに昨日のうちに水につけて置けばよかった等と思いつつ洗い終え、
洗濯した衣服を庭に出て干す。天日など出ていないが室内よりかは乾きやすいのである。
そしてその後は師匠の部屋に行き、揺すって起こす。
…起きない。
「おーい朝だぞー」
豪快ないびきで返事をされる。
「起きんとどうなっても知らんぞ。」
寝返りでの返事。まあ予想通り。紙に書いた術式を発動させると冷水が降り注ぎ飛び起きる。
「つめっ…ったぁ!?」
「はいおはよう。」
「あー…おはようおはよう。なあ、起こし方雑じゃね?」
「そんなもんだろ。起きんほうが悪い。」
「ぐうの音も出ないな」
あー寒々…などと言いながら風呂に向かう師匠を横目に布団を乾かし、リビングにいくとちょうど掃除を終えたクノムが持ってきたお茶を受け取る。
「いやー…思いの方、悪くないもんだな。」
「そんなノスタルジックになること?」
「…ん……まあ、な。」
「…あ、そっか。職人になったから…また、旅に出るんだっけ。」
「正直言えばこのまんまここに残留したいくらいだけどな。」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。」
ソファに座る僕に、師匠が後ろから垂れかかってくる。水滴が体を濡らす。長い髪が視界を多い、逆さまの師匠の顔だけが見える。
「髪も拭け馬鹿。」
「長いから乾かしにくいんだよ。」
「切れば?」
「キュウ??女の命だよ?」
「そうだぞ。そんなんじゃお前モテないぞ。」
「そんなんどうでもいいわ…」
こんな会話がどこか心地いい。離れることを意識すると、少し寂しくなるほどに。
「しかしキュウもまた行っちまうのかー…寂しくなるな。」
「ほんとにそうですよね…」
「なあ。ここでずっと居たりできねえの?」
「…まあ、使命感云々は置いとくとしても……
ウィーネとかフレイドもモノリスも居るからな。ここで俺が離脱は出来んさ。」
「そうか。背負うものがあるやつは大変だな?」
「…俺が背負ってるわけじゃねえよ。あいつらがそれぞれ自分のもん背負ってるだけだ。」
「そういうもんかね。ま、他の子らのことは知らないが…弟子の負担くらい少しは背負うのが師匠ってねなもんだ。」
投げ渡された包みを受け取ると中に入っていたのは、元通りになった義手。
「…いいのか?自分で作ってこそ、なんだろ?」
「作ったのはお前だ。直すのも自分だけ…だなんて言った記憶はないな。」
「…ありがたく貰っておく。」
受け取った義手を接続すると、修理前よりもスムーズに動くあたり、まだまだ技量の差を感じる。
「いつ出るんだ?」
「…明日、荷物をまとめて仲間の所に行くかな。」
「そうか。クノムもまとめておけよー。」
「へ?なんで僕も?」
「お前の作るものは実用的だが遊びが少ない。キュウの奴はロマン砲で実用に難アリ。2人とも、旅しながら影響し合えばもっといい職人になれるだろうよ。」
「そんな…っ…師匠が死んじまうぞ!」
「僕たち無しでどうやって生きてくんですか!?」
「失礼だなお前ら…まあ、そう言われるのも無理ないけどさ。2ヶ月…いや3ヶ月くらいなら問題ない。」
「あ、そこ問題ないって言いきらないんですね。」
「3ヶ月かー…もうちょっと頑張って欲しいがまあ…何とかなるだろ。」
3ヶ月。目的意識を持って進めば行ける…と思いたい期間。そう言ったのは、ただ単に情けないだけか。それとも…
「まあとりあえず今日は準備の日ってことだ。キュウは、ともかく…クノムは外に出るの初めてだろう?色々教えて貰って準備しな。」
「はいっ!行こう、キュウ!」
「…ついでに時々顔だしてはいたが…数ヶ月放置してた仲間への詫びの品も見繕ってくれ。」
「…大人しく怒られれば?」
「やーだー…」




