レポート57:独り立ちの試験。
【成果報告及び申請書】
弟子について。
まず過求。この国なら名前を聞いたことくらいあるだろう。救世主を弟子にした。
端的に言えば、こいつは物作りの天才。
技術を見て、乾いた土が水を吸うみたいにどんどんと己のものにしていく。数ヶ月程度しか経っていないが、職人として十分な技量と心構えを持っている。
そしてもう一人、クノム。
過求が天才ならこいつは秀才。弛まぬ努力で一流の技術を身につけた。教科書通りで面白みにかけるが、資格は十分。よってこの2名に職人認定試験を受けさせるものとする。
「…ってな訳で喜べ愛弟子×2。お前らに卒業試験をさせてやる。」
とある日の朝。朝食を咥える俺とサラダをもしゃもしゃと食べるクノムを見下ろすように椅子の上にたった師匠がそう宣言した。
「とりあえず椅子から降りろ。行儀悪い。」
「ん?ああ。すまんすまん。」
案外素直に降りると座り直して咳払いひとつ。
「さて、クノム。キュウ。2人の卒業試験を申請しておいた。」
「卒業試験…正式にはたしか職人認定試験…ですよね。」
「ああ。それをクリアして初めて職人として独り立ちすることになる。」
「へー。何するんだ?作ったものでも見せればいいのか?」
「それは、個人によって異なる。そして今回は…実用に耐えうる技術力を有しているか図るため、実戦形式の試験を行うらしい。」
「ほーん…」
「2人同時にですか?」
「ああ。その予定らしいぞ。日付は明後日。持ち込む制作物はひとつのみ。まあ、アタッチメントとか拡張武装とかはいいらしいが…それまでに準備しておけよー。」
「そんな唐突な事あるか??」
「準備期間が短い…」
どうにも怪しい…という訳でもないが、きな臭い。
まるで何か…別の狙いがあるような。
「まあ、キュウは今後も旅を続けるんだろ?常に準備時間がある訳でもあるまい。」
「…まあ、そうだな。」
「あの…僕は?」
「職人は、短期で成果を出すことも求められる。」
「絶対キュウのとばっちりだ。」
「ソンナコトナイヨー。」
「信じられねー。」
「同じく。」
「師匠の威厳…どこ…」
「職人としては…だけども。」
「尊敬はしてますよ?」
「ならいいや。」
泣き真似からケロッと立ち直るとすぐに朝食を食べ出す師匠。正直もっと内容を教えてくれだとか、なんだとか言いたいが…この師匠がそんなことまともに分かるわけもないので、出たとこ勝負しかない…と覚悟して。準備を始めたのが昨日のこと。
今日は当日。朝、工房の前でまっていると、後ろから迫る小さな影と大きめな足音ひとつ。
「クノムは…ハンマーか。」
小柄な体躯と同じくらいの大きさを持つ、無骨な鈍色のハンマー。なんだかいかにも炎を吹き出しそうな円錐台パーツが後方に付いているのはある種正統な強化と言うべきか。
「…キュウは義手?」
「ああ。持ち込むってなら大前提こいつだ。」
「そっか。それないと片腕だもんね。」
持ち込みひとつと言われたらもう縛りみたいなものだが…。装着した腕を撫でる。黒色の金属を主に耐熱耐冷に優れた様々な環境下での行動を可能としたこだわり設計。少し獣の爪のような形になってしまったが、単純に振るうことで攻撃ができるようになったため結果オーライ。
「師匠作の作業用の奴ほど精密動作には欠けるが…ま、見てからのお楽しみってね。」
「僕もいろいろ仕込んでるからね。楽しみにしといてよ?」
指定の場所は、土都。城の地下の、実験施設。
そこに居たのは黒光りするゴーレム。
全長10…15m程度か。
…いや…それだけで終わらせる訳には行かないか。なぜなら…胸部で駆動する。銅色の歯車。
「…土の…モノリスギア。」
「その通りです。救世主殿。そして…我が娘の弟子、クノム。」
その足元に立つのは組頭。ゴーレムの周りでは数々の職人が調整をしている。詰まるところあれは魔物ではなく、人工物としてのゴーレムということか。
ギアを利用した生物と聞くと、あのドラゴンが頭をよぎるがさすがに…いやどうなのだろう。
「これは?ただのゴーレムではないんだろ?」
「ええ。ギアを原動力として稼働する、ゴーレムです。まだ試作段階ですので、戦闘関連の能力しか基準値に達していませんが……」
「これを倒すことが、試験課題か?」
「はい。条件はゴーレムの機能の停止。以上です。」
「…2人1組でいいんですよね?」
「むしろそうでないと厳しいかと。」
互いに目配せをし、ただ1度。頷く。
もはや言葉すら不要。クノムのハンマーが駆動音を放ち、過求の義手が発光する。
「では、始めましょう。」
ゴーレムの全身を土のエレメントが駆け巡り、立ち上がると…咆哮。
職人認定試験の火蓋は切って落とされた。
なおゴーレムの起動により、地力が回復しその年の作物は豊作だったのは別の話。




