84話
不意に意識が引き上げられるような感覚。機能不全に陥っていた脳が、急速に動き始める。
目覚めの時間か・・・・・・。
自由になるまぶたを押し上げると、見知らぬ・・・・・・いや、記憶にある天幕の天井が目に映る。
失う前の記憶を呼び起こす。そして感じる違和感。
眠りにつく前は、たしか敵の拠点を攻撃中で天幕の外で色々な情報が飛び交っていたが、・・・・・・今は静かなものだ。
処置を如何こう言っている。きっと負傷者の治療の手配をしているのかもしれない。
ということは、作戦自体終了しているのかも。
どうせ幹部である裸族は取り逃がしているだろうし、拠点が壊滅出来ているのは確実。
後は後日どれくらいの情報を入手できたかということに焦点があてられることだろう。
俺のこうして五体満足・・・・・・ん? あれ? また・・・・・・光ってるな、俺。
「ようやく起きたか、寝坊助さん」
「ああ、キツネか・・・・・・あれ? あの人は?」
キツネが俺の傍らについていてくれたようだ。
けど、俺が寝る直前まで話していたであろう老人の神様の姿が見当たらない。
帰ったんだろうか? それにこの光はいったい?
「あの人も随分哲也君には感謝しとったで? 熱烈な感謝をしていったしね」
ああ、祝福か・・・・・・そう言えば、そうだな。
・・・・・・はぁ? 熱烈!?
「そやで? ぶっちゅーっとな」
あの老人の神様が・・・・・・ぶちゅー? ・・・・・・おぇぇぇぇ!!!
「ホンマに罰当たりな子供やね、キミ」
キツネの非難も分からんでもない。でも、生理的に・・・・・・あるじゃん?
まあ、神様だから性別とか・・・・・・いや、あるな。
男の神様と女の神様いるな。・・・・・・関係なくなるのかな、そういうの。
一先ず、落ち着いたところを見計らいキツネが作戦の終了と成果を教えてくれた。
予想通り、裸族は行方不明。薬杯は破壊を確認。拠点自体は壊滅し確保した下部構成員は多数と、戦果は上々。
後から入ってきた瑠璃男さんも、一先ず納得のいく戦果となった。
「因みに、彼らってどうなるんですか?」
今回相手にした下部構成員たち、彼らはもうこの世界から逸脱した存在になっている。
殺しても死なない文字通りの化け物に成り下がった彼ら。
聞いても仕方がない事だとは理解している。
唆されたにしろ、騙されたにしろ自分で選んだ選択の末の結末。
俺が下した幕の先。何がどうなるのか知っておかないといけない。そんな気がして聞いてみた。
「ま、彼らはこの世界ではもう生きてはいけないだろうからね。後は神様の裁量にお任せするしかないだろうね」
俺と瑠璃男さんの視線がキツネに集まる。
キツネは難しそうな表情を作り、口を開いた。
「言ったかも忘れたけど、この世界の人の魂は総量が決まってるから無駄には出来んのよね。だから、死ねないなんて呪いみたいなものは必ず取り去って元に戻すよ」
なんだ、良かった。元通りになるんだ。
「けど! 彼らはもう一つの魂であることはありえん。細かく裁断して動植物の一生を過ごして他の端切れになった魂と融合、分離を繰り返しようやく人として戻って来れる。そんな長旅が待ってるんや」
それを口にするキツネは少し寂しそうだった。
有っては欲しくなかったかのような口ぶり。
神として人を見届ける存在ならではの悲しみがそこにはあったように思う。
このキツネの顔を忘れないようにしよう。甘言に惑わされないように、この顔を心に焼き付ける。
敵拠点の襲撃を終えて、数日が経った。
幸いにも俺のクラスには欠員は無かったが、学校全体を見れば幾人かが作戦の日を境に姿が見えなくなっていた。
この学校にも数人、あの組織に属していた者がいたのだろう。
もしくは別組織ではあったが、手を引くために姿を消してしまったか。
出来れば後者であってほしいと思うのは、偽善だろうか?
あの神様が悲しい顔をする回数が少しでも少なければいい、そんな願いを込めて後者が多いと思い込むことにした。
しかし、クラスには少しだけ暗い空気が流れているのも事実だ。
友達が、彼氏彼女が突如としていなくなったというクラスメイトがちらほらいる。
交流のなかったクラスメイトではあるが、何となく申し訳ないような気がしてくる。
少なくとも俺が関わった事件のせいで、日常が崩れてしまった人がいるのだと知ってしまった。
そして、俺はそのクラスメイトに何も言ってやれない。
俺自身のことを秘匿するため、係わりを絶ってきたのだから。
そんなやるせない気持ちで食べる昼食。今日のスープは特別うまくはない。
何故だろうか? もそもそとしてやけに匂いが気になるし、そもそも食欲がわかない。
人に空気が必要不可欠とはよく言ったものだ。
どんなに関係が希薄であっても、集団に身を置くというのはその空気にさらさられると言う事。
人が集団の意識の中で生きているということを思い知らされる。
陰鬱としたまま、冷めていくスープを眺めていると空き教室の扉が開かれる。
「いる? って、まだ食べてたの!? やめてよ、時間みて来たっていうのに!!」
その人物は入ってくるなり、文句を言いながら窓を全開にしていく。
桐山さくら、彼女はいつもと変わりない様子で俺の前に立っている。
この娘は今、学校を支配している空気が気にならないんだろうか?
少しの意地悪と苛立ちを彼女に向ける。
今回の顛末と、神様下す処置について話してしまった。
桐山は黙って俺の話を聞いている。途中、スープに蓋をするように促されもしたけど、概ね俺だけが一方的に喋っていた。
俺の話が止まると、桐山は口を開く。
「はぁ、随分とナイーブなのね。でも、殉教者ってそんな物でしょ? 一々気にしてなんていられないし、気にしてる方が馬鹿を見ることになるわ」
あっけにとられたとは、こう言う事を言うのだろうか?
桐山はいつもと変わらない様子で、事もなげにそう言い放った。
悩んでいる俺が馬鹿だと。
「いい? 覚えておきなさい。多かれ少なかれ神様に係わるっていうのはそういうことの積み重ねでしかない。この世界はそうやって出来て来たの、だからこんな話世間には掃いて捨てるほど転がってるわ」
見え隠れする桐山の神様に対する怒り、この娘に何があったというのだろうか?
でも、好奇心で聴いていい話ではない。それだけは分かっている。
桐山は、俯く俺に何も言わず一枚の紙きれを差し出し教室を後にする。
桐山の姿がないと分かっていても、その開け放たれた扉を眺めているしかなかった。
何故、彼女はここに来たのだろうか?
俺を励ましに来てくれたのだろうか?
窓からはまだ冷たい風が流れ込んでいる。
次回投稿は02/14を予定しております。
では、次回投稿で。




