7話
放課後、上司である瑠璃男さんに呼び出された俺は、人目に付かないように魔術協会を訪れた。
支部長室で瑠璃男さんとキツネが俺を待っていた。
「よく来た、哲夫君。これから現場に向かってもらう訳だが、これを渡すから有効活用してくれ」
そう言って、瑠璃男さんが出したのは一見すると金槌だった。
しかし、手に取ってみると明らかな異物が埋め込まれていた。
「それが魔道具『万物の槌』だ、我々魔術師の唯一にして最大の武器。この世界の管理神が与えてくれた数多ある恩恵の中で最高傑作と言われる魔道具だよ」
なんでも使用者のイメージを読み取り、管理神の権能にアクセスして、この世界で再現可能な形に変形してくれるチート武器らしい。
ただ、神様自体を害する武器には変化してくれないと言うことだ。
「但しだ、いいかい? 哲夫君。あまりにも――」
えい!
おおーー! 本当に変形したよ!
「わー! 何いきなり使ってんねん!」
キツネが何やら騒ぎ立てるが、それよりも・・・・・・!
ほぉー! やっぱり潜入作戦なら、フックショットは必要だよねー!
射出と巻き取りの動力は、魔法があるから再現性も完璧だねっ!
「完璧だねっ! っちゃうわ! 何でキミは説明も聞かんと行動するんや!」
「使わないと理解できないじゃん?」
「そのセリフは、『説明聞いても分からないよー』って君が言った後こっちサイドが言うセリフ!」
そんなこと言ったって、最後に使うんだから一緒だと俺は思うんだよね。
「はぁ・・・・・・説明を続けるよ? あまりにもギミックが多いと摩耗するから気を付けてくれ。それだけだ、大事に使ってくれ」
えー! 消耗品なんだ・・・・・・。
まあ、使ってしまったものはしょうがない。
瑠璃男さんの顔は、少しだけ呆れたのもを見るような顔をしていた気がするけど。
何せ、空想科学の中でも再現が難しい道具がこの手の中にある。もう俺はこのフックショットを使いたくって仕方がない。
任務どうこうというより、この道具を使いたくってたまらない。
壁から壁へ、木から木へ。俺の心は既に縦横無尽に跳ね回っていた。
・・・・・・そう言えば、瑠璃男さん変なキャラ付けなかったな。飽きたのかな?
◇ ◇ ◇
「いや、確かに早く現場にって思ったよ? でも・・・・・・これ何?」
魔法教会に行って30分も立たない合間に、俺の知識で長野に当たる地方の山に来ていた。
俺の後ろには、さながら鉄のタケノコにも見えるミサイルを模した物体が頭から刺さっている。
これは、移動用魔道具『マッハホウキ』というらしい。
大雑把な説明の後、弾頭近くの座席に座り指令を聞いていたら、ここにいた。
掛かる圧も、着地の衝撃も周囲の被害も無く、俺はこの地に降り立った。
魔法って便利すぎやしませんかね?
あれ? 科学に似た何かがあるんじゃなかったっけ? 物理法則どうなってんの?
・・・・・・ま、まあ、これもオカルトの一種ってことで、深く考えるのはやめておこう。
第一、箒じゃないじゃん。なんて無粋すぎるしね。
この山、帰命山の中腹あたりに、今回の指令にあった遺跡があるらしい。
この山の名前の通り、失われた命が帰ってくる。そんな遺跡がこの山に眠っているらしいのだけど、それを魔術教会の関係者以外が、見つけてしまったらしい。
未だに使用の形跡は見られないけど、完全な蘇生が可能なこの遺跡を、俺は奪還、破壊しないといけないようだ。
しかも、できるだけ秘密裏に。
いやいやいや、こんな乗り物、地面に生やして秘密裏もないだろう?
大体、相手の人数は? 武器は? 正確な場所は?
俺何にも聞いてないけど? 探せってか? 山の中を? 夜中に?
もう、無茶言い過ぎ。
・・・・・・だけど、やるしかないんだよな。借金返済と、欲しい情報のためには。
初任務で失敗なんかしたら、仕事が回って来なくなるかもしれないしな。
こんな絶望的状況でも、やると言う選択肢しか俺は、持ち合わせてはいない。
幸い、山での夜間行軍はキツネの見せてくれた地獄で経験済みだし、気配の探り方なんかも少女の神様に身をもって享受させられている。暗闇の中無数に飛んでくる石つぶてを避ける訓練は、俺に野生の力の一部を引き出す恩恵を与えてくれた。
その力を持って中腹まで一気に・・・・・・とは行かず、小川や無数に張り巡らされた獣道の散策を優先させた。
俺がこの山でやらないといけないことは、二つある。
もちろん、任務の遺跡核の奪還が第一目標だ。
もう一つは、肉の確保だ。
魔術師の任務は極秘で超法的活動に当たる。任務中はあらゆる法律の外側にいることになる。
それは、例え任務中に命を落とすことになっても、魔法教会的にはなんら罰を受けることが無いように、また魔術師自身が敵を殺めたとしても、任務が優先されるようにするための措置である。
ならば、動物は? もちろん、なんら問題がない。
事案が事案なら、数日間現場にいなくてはならない。
ここで言うなら山の中に数日間、無装備で籠らなくてはならないかもしれない。
食料も武器も現地調達。これが魔術師の基本的なスタイルなのだから。
任務中は何も法的に問題がない。
そう、任務中は。
そして、俺は金がなく食費もまかなえないほど困窮している。
日ごろの食事は草だ、野草だ。動物的なものは何も口にできない。
この十代の身体が植物だけで満足できるだろうか?
否だ。健やかな成長を促すためには動物質も必須だ。
と言う訳で、山の恵み。いただきます。
遺跡核より、俺にとっては目の前に広がる山が何よりもお宝に見える。
遺跡核を奪還しても得られるのは、天引きされる給料だけ!
しかし、目の前に広がるのは今、俺の命を繋いでくれるお宝がまさに山とある。
お! 鹿かぁ~。あんまり大きいと持ち帰れないよなぁ~。
兎だな、タヌキも食べられるって聞いたな。少し貰おう。
ん? 水の臭い。魚! 魚もいいよね! 少し貰って・・・・・・。
よし! 結構獲れたぞ!
やっぱり、フックショットは便利だな!
おー! これなら2か月・・・・・・いや、3か月はかたいな。
さて、あんまり欲張っても仕方がないな、もう一つの使命に戻るか。
そうして魔術師の権限を悪よ・・・・・・有効活用しながら、人の反応がある洞穴に到着した。
ここに、蘇生を行える遺跡があるみたいだ。




