6話
女神様とキツネのやり取りが終了しても尚、キツネの怒りは収まりそうはなかった。
口には出さないが、キツネの批判的な眼差しは未だに女神さまの姿を捉えている。
仕方がないので、キツネを抱きかかえて瑠璃男さんの方を向き話題を変えてみる。
「あの~、それで俺はこれからどうなるんですかね?」
「無問題さ! 何せ神様の祝福を得たんだからね、この件で君を罰することのできる人間はいなくなった」
今度は中国語かよ! 英語圏じゃねーのかよ!
? 祝福を得たから? 罰せられない?
「どういう・・・・・・?」
「この世界では何においても神様の意志が尊重されるんだ、だから君の身の安全も無問題だね!」
へー、ってかこっちはそれしか知らねーのな。
この人無理にキャラ付けしてんじゃねーのかな? ま、いいけど。
そんな事より、取りあえずの安全は手に入れたわけだ。
後は、仕事・・・・・・は、確保できてる。
そうなると残るは・・・・・・住処だけだな。
正直この世界の自宅は使いたくはない。
親と言うのは子供の事には敏感な生き物だ、何かの拍子に俺が他人であることに気が付かれてしまうかもしれない。
そして何より、俺は親に対して嘘は付きたくはない。
申し訳ないけど、息子さんは死んだと思ってもらうしかないよな。
親を残してまで独占したい女ってどんな魅力を持っているんだろう?
知りたいような、知りたくないような。
ま、殴ることには変わりがないけどな。
そんな事を考えながら、俺の新しい生活が始まった。
◇ ◇ ◇
俺の魔術教会の新米魔術師としての生活は、先ず高校入学から始まった。
魔術師という職業の素性がばれるのは、大変よろしくないことを招く。
敵対勢力である自称神の遣い達に万が一バレでもしたら、昼となく夜となく襲撃を受けるようになると言う。
実際数名の魔術師が、自宅で襲撃を受けて命を落としていると言う。
なので魔術教会は、率先して俺の隠れ蓑を用意してくれた。
教会支部からほど近い、俺の知らない県立高校。
そこの生徒と言うのが、俺の表向きの身分となる。
住処は教会が借り上げている一般のアパートをあてがわれて、一応の生活基盤は出来上がった。
生活費? ふ、前借さ。この世界のお金なんて持ってる訳無いからな。
通貨自体は日本円なんだけどなぁ。俺の持ち物何にも無いから仕方がないよね。
ハイ、キタコレ。異世界で借金生活。
しかも敷金礼金の制度は元の世界と同じ、それも借金。生活魔道具っていう家電と似たような物も必要だし、まぁ値段も似たような感じで一式を前借分に加えて、他には移動用の魔道具『ホウキ』っていう原付モドキも購入してしまって、現在総額200万の借金からの異世界生活開始です。
借金って、あはは。借金って・・・・・・あは、はぁ。
どれ位無収入で過ごすんだろうか? そう考えるとキツネにサバイバルも習っておいて助かった。
当分は野草でもカジって過ごすとするか。
野草大好き男子高校生! ・・・・・・ひどいキャラ付けだよな。
そうして道草をかじる生活にも慣れてくると、この高校もやはり高校なんだと思えてくる。
この世界には神様がいて、偶像っていう言葉は無いはずなのに校内のアイドルと言うのは確かに存在している。
数人の顔のよろしい男どもとそれを取り巻く女子生徒。女子は女子でイケてるおねーさん達が集まって男の視線を奪い合っている。
世界は違っても男と女の思考、行動は大きな差がないのかもしれない。
何となくそんな安心感を得ながら過ごしていると、ふとある女子生徒に目が留まる。
イケてるおねーさんグループの末席にいながら、伏目がちな少女。
ヒエラルキーが高い所にいながらも自分を隠したい。埋もれたいと主張するかのような行動。
俺と同じクラスの一人。
名前は桐山さくら。窓際の席が似合う大人しいイメージ。
同じ大人しい男には好かれそうな感じだな。
かく言う俺も嫌いじゃない。だって視線で追ってしまうもの。
声をかけないのかって? 馬鹿言うな!
誰が休日野原で野草採集している男に声かけられてうれしいか。
俺は、日々の糧を得るのに精一杯だし、それにばれてはいけない秘密がある。
違う世界から訪れた人間で、しかもこの世界で魔術師と言う身分を隠して生きていかないといけない。
まして、人目をはばからず道草を食っているような奇怪な行動をする人間は高校でも集団には属せないし、誰かと共に行動することも控えている。
何から身分がバレるか分からない。そんな危険も犯したくはないんだ。
目的があるから。
しかし、そんないいように解釈してワイルドな生活をしていても、ある不満が出てくる。
この世界には娯楽が少ない。むしろないと言ってもいい。
いや、俺にとっては娯楽にならないものしかないと言うべきだな。
この世界には創作物といった類のものが極端に少ない。
漫画、アニメ、小説、ドラマといったものが全く無いといって良いほど少ない。
音楽は溢れてる。神様がもたらした文化の一端らしいけど、音楽の聴き方が俺にはよくわからない。
聴きながら何かできるほど何もないし、かと言ってそれだけ聞くには手持ちぶたさになってしまう。
そして何より、俺の愛するオカルト文化は一切ない。
比喩ではなく一切合切何にもない。
それはなぜか? 答えは神様がいるからだ。
全ての不思議は人が思考する前に、神様によって答えが示される。
人が空想することを、神様は許してくれなかったらしい。
神様に悪意がある訳ではなく、疑問を抱いた人に対して答えていただけなのだけれど、それが何世紀も続き、それが一般的になると人は創造することをやめた。
結果としてこの世界には、人の想像すらしなくなった。何せ答えが明確なんだから、それを知ってる者がそこに存在しているんだから、人は疑問を疑問と思うことすらしなくなった。
それでも、文化らしきものがある事は奇跡と言って良いだろう。
下手をすれば、この世界は本当の意味で神様の箱庭に成り下がっていただろうから。
数少ない文化的なものの一つ。スポーツが存在している。
以前は全く興味のない分野ではあったが、他に興味を引くものが無いのであれば自然と観戦するしかなくなる。
中でもこの世界で初めて見たスポーツ、魔法による格闘技は何より派手だし、見ていて興奮する。
まあ、格闘技に分類されてはいるが、早い話サバゲーの様なものががプロ化した競技になる。
広野で、山中で、市街を模したセットで魔法戦を繰り広げ、勝敗を競う。
魔法が一般的ではなかった俺にとっては、この競技が魔法戦の教材となる。
ただし、教材はあくまで教材であって、のめり込むほどの娯楽にはならなかった。
そんな鬱屈とした毎日を繰り返していると、本業の招集が掛かった。
危険と隣り合わせの、初任務が始まる。




