5話
あんぐりと口を開けたまま、キツネは遺跡核に触れた。
その瞬間、俺の手にあったヒビの入った遺跡核は音を立てて崩れ落ちた。
それはそれは見事な4等分になってしまった。
「~~~!!」
声にならないキツネの叫び声が響く。
・・・・・・やばいのか? これって、凄くやばい?
いやいやいや、俺手で持っただけだよ!?
あ! そうか! これって元々壊れてた・・・・・・とかはないよなぁ~。
瑠璃男さんの目も俺を捉えて離さない。
間違いなく、何かの罪が俺の身に降りかかるんだろうな・・・・・・。
意味も分からずこの世界に来て、自称神様たちにいい様に遊ばれて、揚句投獄かぁ~。
いや、待てよ・・・・・・投獄で済むのか?
完全に俺の身体の子は、違法行為してるんだよな?
まして国と交渉できる機関の中で、低ランクとは言え重要そうな怪しいもの壊して?
最悪・・・・・・死?
ヤバイ! どう考えてもヤバすぎるだろ!
今ならこの部屋には、キツネとオッサンだけだ。
逃げられるんじゃないか?
あんなオッサンなら、最悪人質に取ってでも・・・・・・いやいやいや。
逃げてどうなる? この世界の事学んだって言ってもそれは上辺だけだ。
生きていくのはまた違う知識が必要になるはず。
短気を興すな。今はまだ、様子を見るんだ。
俺は出口を視界に収めながら、この2人の出方を見守った。
オッサンが何やら行動を起こそうとした時、それは舞い降りてきた。
文字通り、何もない空間から突如それは俺達の前に降りて来た。
伸び放題の髪で顔は分からないが、この場の誰よりも力を持っていると確信できる女性が後光を伴って降りて来た。
そしてその女性は、俺の手ごと壊れた遺跡核を握り膝まづいてうんうんと頷いていた。
誰? ・・・・・・うん、誰?
オッサンの表情から、オッサンの知り合いじゃないみたいだ。
じゃぁ、キツネさん?
あ、頭抱えてる。芸達者なのね。
ああ、そうじゃなかった。キツネの知り合い? ・・・・・・って、もしかして。
「・・・・・・神様が・・・・・・ご降臨なされた?」
オッサンの口から答えがこぼれる。
やっぱり、そうなんだ。・・・・・・ほんとに後光がさしてら・・・・・・。
見惚れていると女神さまが、俺の手に口づけをする。
視界がまばゆい光に包まれていく。自分の手を見ると光が俺の身体を包み込んでいるのだと分かった。
「おお・・・・・・これが祝福の儀、この身が立ち会えるとは」
オッサンは俺に起きている現象に目を潤ませて膝まづく。
祝福とやらを終えた女神さまは、キツネを手に取り何やら耳打ちをしている。
正直置いてきぼり感がハンパない。
何されたの? 俺は何されたんですかね?
いい事? 悪い事・・・・・・ではなさそうだけど、何が起きてるの?
「はあ、分かりました・・・・・・合格にしてほしいんやって! 神様のお墨付きってことで」
「は、はい! もちろんであります!」
キツネの一言でオッサンが直立して敬礼する。
ん? 合格・・・・・・? え? え!
良いの? 俺何もしてないのに、合格で良いの? 壊したけど不問で良いの?
オッサンはすごい勢いで、部屋から出て行く。
そして部屋には俺と女神さまと、キツネだけが取り残されている。
「あ、あの、本当に合格?」
「そうやな、女神さまのお願いやし」
「壊したのに、本当にいいの?」
「いや、寧ろ壊したから合格にして欲しんやって。はぁ、この方のやつならワシが持ち帰ればよかった」
「え? なんで、もしかして有名な方?」
俺は女神さまを、よーく観察してみた。
だけど、まぁ、知ってるわけないよな。神様なんて初めて見たし。
・・・・・・あ、3柱目なのか? 一応。
「おいおい、ワシも一応神様やで」
え? キツネなのに? そう言えばそんな事言ってたような?
「まったく、いっちょ神様らしく罰でも当ててやろかな」
その言葉に女神さまが、大袈裟に顔を振り制止してくれる。
顔を振った拍子に覗く女神さまの顔は、見惚れてしまうぐらい可愛いお顔だった。
はぁー、神様ともなると気品が漂うお顔してるんだな。
そう言えば、さっき・・・・・・。
先ほど口づけされたてみ視線を落とす。
なぜか気恥ずかしい気持ちになってしまう。
「こらこら! 何考えてんねん! 神様は人間の考えてること分かるねんぞ!」
女神さまの顔を隠す様に持ち上げられたキツネは俺を睨みながらそう言ってきた。
え? 考えが分かる・・・・・・思考を読めるの?
「いや、さっきから散々心の声に答えてたやろが」
そう言えば、そうか・・・・・・あんまり自然に話が進んでたから気が付かなかった。
事実を知ったことで思わずフリーズしてしまい、沈黙が流れる。
オッサンは未だに戻らない。
気まずい・・・・・・いや、これもばれてるのか!
えーっと、あー。
「ち、因みにこの遺跡核って何が出来たんですかね?」
とにかく話題を変えようとしたんだけど、聞いてどうする、俺。
「はあ、はぁ、え! 何造ってるんですか!! ####様!」
耳打ちしていた女神様をしかり始めるキツネ。
え? 本当に何が出来たのこれ?
「哲也君! よく壊してくれた、ワシからもお礼言うわ」
キツネに頭を下げられる。何となくだけど、えらい事出来たんだろうな、これ。
今は只の残骸になった遺跡核に目を落とす。
そして髪で表情の読めない女神さまに視線を移す。
髪の上から両手で顔を覆っている。
いや、仕草は可愛いんだけど、それ意味ある?
「聞いてくれや。これ、火山操る遺跡やって」
え?
「か、火山? 噴火させるの?」
「そうや! しかも連鎖的に幾つも噴火させるヤツやって! 何造ってるんすか!」
キツネはまたも女神さまを批判的な目で睨む。
火山が連鎖的に噴火したら・・・・・・最悪国が亡びるよね?
「え? 低ランクの遺跡って言わなかったっけ!?」
おいおい、低ランクで国が亡んでたら上位ランクはどうなるんてんだ。
「こっちも驚きや! 何でそんなもんがあるんですか! え? ふんふん、で? はああ!」
再度耳打ちをし始めた女神さまとそれを聞いて悪魔のような表情に変化していくキツネ。
なんか、理由は知らなくって良いような気がして来た。
きっと、しょうもない感じだ、これ。
「妹に嫁選びで負けた腹いせでこんなもん造られたら、こちとら管理なんかできませんよ! 駄目です! お父さんには報告させてもらいます! 泣いても無駄です!」
男に振られたから・・・・・・神様の腹いせって怖ええええええ。
国ごと復讐かよ!
ん? 火山・・・・・・山、嫁選び、妹?
あれ? どっかで聞いたことがあるような? まさか、岩長・・・・・・まさかだよね。
古事記に登場した神様がこんなに危険な物作る訳無いよね。
うん! 気のせいだよ! 何せ美人だったし! 例え美人の基準が時代で変わるとしても俺にはこの女神さまの正体は分からないなぁ~。
未だにキツネにしかられている女神様。
それを見ながら現実逃避をしているとオッサンが走って戻ってきた。
オッサン。いや、瑠璃男さんのお陰で手に持ったキツネにしかられる女神様という構図は終わりを告げた。




