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70話

 俺の投げた槍は、真っ直ぐに女に向かって飛んでいく。

 槍越しに俺と女の目線が合う。

 女は驚いた表情を一瞬見せると、次の瞬間にこやかな笑みを浮かべる。

 そして飛んでくる槍に対して、ただ無防備に立ち尽くしていた。

 当たった。

 確実に女の顔を捉えた、そう思える投擲だった。

 

 しかし、女には一切の衝撃は起きず、ただ先ほどと同じにこやかな笑みのままだ。

 槍に加わった力が、何かに阻まれ前進を止めている。

 槍の推進力と阻む何かのせめぎ合いが起きたかと思うと、槍は音を立てて崩れていく。

 人の攻撃の一切を阻む力。それは神であれば誰しもが備えている力。

 人には神は害せない。

 それを見せつけるように、女は一切の身じろぎもせずに、俺の攻撃を受けた。

 

 やはり、この女は神様だった。

 俺は何となく納得してしまった。

 人の存在に干渉できる力を持っていて、俺の知る神様よりも強い圧力を発する存在。

 蛇の女神様に対する態度。キツネへの対応の軽さ。

 どれをとっても神様でなくては説明が出来ない。

 恐らくキツネよりも古い神様なんだろう。

 

 だけど、それがどうしたというのか。

 なにに怒っているのか、今一理解が追いついていないが俺はこの神様を許す事が出来ない。

 それだけは理解できている。

 身体に熱を伝えようと、何度か達也に呼び掛けてみたが未だに返事がない。

 俺一人でやれということなんだろう。

 じゃあ、好きにやらせてもらうしかない。


 無理やり魔力をたぎらせ、思いつく限りの武器を鍛造し、投擲を繰り返す。

 その一つたりとも届くことはないが、それでもひたすらに投げ続ける。

 女を覆う膜のような何かに弾き飛ばされ、女の後ろで武器が床を打つ音だけが響く。

 頭では無駄な行動だと理解できている。

 それでもやめることが出来ず、ただただ疲労感だけが残る。

 

 女の顔から笑みが消え、呆れた顔に変るのも見えていた。

 それでも全力で、武器をその顔目掛けて投げつける。

 ただ立つことに飽きて来たのか、女は俺の投げた刀をつかみ取ると後続の武器を撃ち落としていく。

 状況が変わったことで、俺も投擲を止め女の様子を確認する。

 女はため息を一つ漏らすと、俺に改めて顔を向けて言葉を発する。


「ふぅ~、そういうのも悪くはないけど。これじゃね」

 そう言うと、手にした刀を手で握りつぶしていく。

 折るでも割るでもなく、刀の刀身をただの握力で握りつぶす。

「これじゃ何年経っても、傷一つつかないの。ごめんね」

 どこか申し訳なさそうな物言い。

「久しぶりに熱い想い(殺気)をぶつけられて心地よかったのだけど、これじゃ貧弱過ぎて燃えないの」

 物憂げな表情を浮かべながら、そんな軽口までたたき出す。

 

 あり得ないと言われていた、神殺し。

 何かの間違いでできないかと思ったけど、そんな間違いも今は起きないらしい。

 

 女は何かを思いついたような仕草をすると、俺に提案を投げかけて来た。

「私に傷をつけたいなら、私と一緒にいかない?」

 そんな事を、さも、いい提案であるかのように俺に投げかける。

 鼓動が一つ大きく打たれる。

 女の提案がどこか、甘美なのもに聞こえる。

 未だに俺は怒りを孕んでいるというのに、魔力という熱が身体から溢れそうになる。

 達夫、お前はこの女に何を求めているんだ?

 

 俺はそのふざけた提案を蹴るために、ナイフの鍛造を試みる。

 上手くいかない。

 達夫に反応して迸っている魔力の制御が、上手くできない。

 そんな達夫も達夫をこんなにした、女の言葉も許せる気がしない。

 より強い怒りが心に湧いてくる。

 今までの怒りとは違い、この世界に来た当初の様な全方位に向けてしまいそうな怒りが湧いてくる。

 

 俺の意志とは関係なく迸る魔力を、俺の怒りで封じ込める。

 目の前に達夫がいれば、間違いなく殴っているであろうシチュエーション。

 でも、それは出来ない。

 だから、せめてもの嫌がらせのつもりで放出させようとしていた魔力を身体の内にもどし、身体に流れる魔力の流れをかき乱す。

 俺の意志で流れる魔力と、達夫の意志で流れる魔力が幾度となくぶつかり合い、混じり合う。

 

 その混じり合った魔力を使い、再びナイフの鍛造を試みる。

 その刀身の色は、黒と白が混じり合うようにマーブルの模様が入っていた。

 俺はそれを間髪入れず、女に投げつける。

 それが俺の答えだというつもりで。


 女はそれを躱して、俺に詰め寄る。

「それじゃ、仕方ないわね。また会いましょう」

 そう言い、俺の額に口を付けて姿を消していく。

 消えていくその顔は、悔しいが綺麗だと思ってしまう。

 これもきっと達夫のせいに違いない。

 俺はあの女が大っ嫌いだ!

 到底許せるような奴じゃない!!

 なにせ、あんなことをしたんだ!!!!

 ・・・・・・あんなことって、なんだっけ?

 

 冷静になってみると、何をあんなに怒っていたのか?

 何か明確な理由があったようにも感じるけど・・・・・・?

 まあ、そんなのどうでも良い!

 アイツは俺の敵なんだ。

 そう、だって俺をこの世界に連れ込んだ原因なんだから! そうだ、まずそれが大前提じゃないか!

 俺は黒幕を殴る! そのためにこの仕事もして来たんだし!

 それ以外の理由なんて、有ってないようなものじゃないか!


 心に感じる違和感に、必死に弁明する。

 額に感じる熱も、どこかバツの悪さを感じてしまう。

 そのせいだろうか?

 キツネと蛇の女神さまの方を向くことにためらいを感じていた。

次回投稿は01/17を予定しております。

では、次回投稿で。

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