46話
巨体の虫が俺に向かって走ってくる。
先ほどまでは、そんな生物もいるのか程度に考えていたけど、こうして二足歩行してくる虫をまじまじと見つめると、どこか違和感を感じて言いようのない気持ち悪さを感じる。
例えるなら筋骨隆々な蜂や蟻。
二足歩行に加えて、人のような関節の可動域を持っているため、肩に該当する部位が腹部にも存在する。
そして何より股関節は、虫のソレである。
もうちょっとデザイン的にどうにかできる要素があるように思える。
なるほど、これが正視に耐えられないという感情か。
手に持った刀を腰だめに構えて、脚に力を入れる。
蓄えた力を虫に向かって、一気に開放する。
先ほどよりも流れの激しい視界の中で、急速に巨大化する虫。
交錯する少し手前で瞬きを感じると、目の前には虫の姿はなく別の小型の虫が目の前にいた。
驚き、思わず刀を振り上げると虫は体液を後方にまき散らしながら、崩れ落ちる。
・・・・・・あれ?
目標にしていた巨大な虫の姿を見失い、辺りを見回す。
いた。
はるか後方に、その姿を確認できた。
元いた場所から、30メートルくらいだろうか。
一足でこの位置まで飛び出していた。
魔力とはこれほどまでに、凄い力だとは思ってもみなかった。
いや、凄いとは思っていたけど、体験してみるとその威力は想像を絶するものが有る。
しかも今日初めて使った力なもんで、加減のしようがない。
もっと、小さく。柔らかく地面を蹴らないといけないのか?
実践の中での試行錯誤。
普通に考えたら、自殺行為も甚だしい行為である。
しかし、まともに動くことすら難しい現状で、やらない訳にはいかない。
距離の調整をしていると、新しい問題に気が付く。
視界が動きに付いて来ていない。
動きが早すぎて、視界が常にローラーコースターに乗っているかのような視界になっている。
遠くのものなら辛うじて見えるが、近距離では流れが激しく認識する間もなく到達してしまう。
幾度か木々にぶつかりながらも、距離感を確かめる。
もちろん、周囲にいる虫たちが俺を放っておいてくれるはずもなく、移動した先で待ち構えるように俺を狙ってくる。
幸い、速さは俺の方が速いようで後出しでも、十分に避けることが出来る。
でも、避けた先で木に当たったり、途中で倒木につまづいたり、虫にそのまま体当たりしたりと、明らかに戦い慣れていない姿を見せてしまった。
「あたたた、まいったな」
「あ! 貴様っ! こんなところに!!」
あれ? 話しが出来る虫もいたのか?
声のする方を見ると、見覚えのある人たちが集団でいた。
忘れてた。
魔法使いの集団が、そこにはいた。
虫と共に倒れ込んでいる俺を取り囲むように動き出す集団。
彼らは一斉に魔法の詠唱を始める。
「やばっ!」
慌てて、その場から飛びのき遥先で、木の枝に頭をぶつける。
頭が割れるかという衝撃を受けるが、魔法を受けるよりはマシだろう。
一緒に倒れていた虫は、魔法の連携によっておきた炎の竜巻に巻かれ、のたうちながら消し炭になるまで焼かれていた。
神様の敬虔な信徒の前で、信仰を嘲るのはやめよう。
完全に狂気の集団になってやがる。
俺の死体がないことに気が付くと、集団は俺の捜索を優先して山狩りを始める。
途中出くわした哀れな虫は、見つからない俺への怒りを向けられてそのことごとくが無残な姿になっていく。
・・・・・・うん、彼らは大丈夫だな。
ちょっと、ハッパが効き過ぎた感はあるけど・・・・・・全滅よりはいいよね?
さて、高い位置からならあの巨体が見つかると思うんだけどな。
色々と試していて、あんな巨体を見失う俺もどうかしてるな。
太い枝や幹を掴みながら、身を乗り出して周囲を索敵する。
・・・・・・いた。
これまでにない人の動きに混乱している虫の中で、自分より後ろに行こうとする小さな虫を捕まえては前方に投げるという、どんな世界の軍隊でもやらなそうなことを平気でやっている姿を見つける。
ちょっと離れてるけど、ここからなら一飛びでいけそうだな。
俺と巨体な虫の間には出っ張っている枝はないし、地面と違って障害物になりそうなものも少ない。
枝から身を乗り出して、落ちる瞬間に枝を蹴る。
一条の矢のように空をかける。
そのまま刀を突きだし、体ごと目標に突っ込む。
大した手ごたえもないまま、刀は俺の腕ごと巨体の胴に突き刺さる。
今まさに投げようとしていた小さな虫を、その手から落とす。
一応、中で腕をねじってから引き抜くと巨体はゆっくりと地面に倒れる。
倒れた巨体はけいれんするように、ビクビクと手足を震わせている。
・・・・・・虫って、これだけで死ぬのかな?
前の世界で聞きかじっていた知識で、まだ絶命には遠いと判断して、俺は巨体の四肢(?)と頭を切り落とす。
まあ、これで死んでなくても動けないだろ。
一通りの処理が済むと、周囲にいた虫たちが一斉に後方に向かって走りだした。
・・・・・・ちょっと残酷に見えたのかな? まあ、やってることは小さな子供のやる悪戯そのものだよな。
もしかしたら、あの虫たちも違う世界からの生まれ変わりで、子供に蹂躙された記憶があるのかもしれない。
何にせよ、取りあえずの安全は確保できた。
あとは・・・・・・遺跡の正確な位置が分かれば・・・・・・。
視界に入る虫たちが、一様に同じ方角に移動しているのが見える。
まさか、あの先に千曳の岩が?
行ってみるか。
虫たちを追うように、歩き出す。
最後方の虫が、俺を見て何やら口を大きく開けている。
叫んでいるのだろうか?
俺には聞き取れない声を感じたのか、虫たちは速度を上げて走り出す。
それを見ながら、俺は極力ゆっくりと歩みを進めていく。
次回投稿は11/30を予定しております。
では、次回投稿で。




