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44話

 遺跡が一日と判定する夜明けと共に、それは始まった。

 一番先頭を走る俺と、それを追う1,700人の追いかけっこ。

 配置に着いてすぐに、俺は後ろに控えていた魔法使いたちを盛大に煽った。

「神様を信仰する癖に、神様の意を忘れる愚か者」

「信仰とは死ぬここと見つけたり? 馬鹿の妄言ですか?」

 などなど。


 部隊長が、部下を鼓舞するために口にした言葉の全てに茶々を入れた。

 おかげで、全部の隊員が俺に殺意を向けてくる本気の鬼ごっこが始まった。

 その速度は、呪いの兵士たちが散らばり切る前に目標を捕捉するぐらい速く戦場を形成した。

 襲い掛かる虫の戦士たちを盾に使い、障害物として背中から放たれる魔法をかわす。

 結果として、人類はこの戦いで初めて攻勢に転じた。

 古来より言われている通り、防衛よりも侵攻の方が容易い。

 

 何より、密集していてくれる敵に当てる攻撃の方が断然楽だ。

 点での攻撃ではなく、面で攻撃の方が楽なのは、近代兵器も魔法も変わらないらしい。

 俺に目掛けて放たれる魔法は、虫の戦士たちを巻き込み様々な現象を巻き起こす。

 カマイタチのような竜巻や、ナパームのような火球、貫通力に優れた水の弾丸。

 いずれも歴戦の勇者が放つ、致死性の魔法。それを受けないように、虫の戦士たちの間をひた走る。

 俺が止まらない限り、歴戦の勇者たちは虫の戦士たちの異形におびえることなく攻撃を続けてくれる。


 正直言って、俺は賭けに勝利したと確信していた。

 多対一の経験が無くはないと言っても、これほどの大軍と称して差しさわりのない数とは戦ったことは無い。

 そして歴戦の勇者である彼らには申し訳ないが、神様を信仰する者が死を受け入れた状況には、良いイメージがない。

 少なくとも、異世界人の俺にはいい未来が想像できなかった。

 本格的に崩れ、あきらめが浸透すると人は案山子になりたがる。

 もしそうなったら、人類が本当に終わってしまう。

 何より、俺が任務を達成できなくなる。

 なんとか、俺を遺跡へ連れて行ってくれる人、もしくは道を作ってくれる人がいないことには、俺の人生すら閉じてしまう。

 神様のために死すら受け入れようとする彼らの信仰は、大変立派な事なんだろう。

 でも、俺自身は神様のために命を投げるつもりは毛頭ない。

 

 では、どうするか?

 今は死ぬことを受け入れがたい状況を作るしかない。

 自分が死ぬ前に、どうしても殺さないといけない俺という存在を創ることで、怒りが信仰を、恐怖を打ち消してくれる状況を、彼らは受け入れてくれた。

 罵声を浴びながら、前から後ろから繰り出される攻撃を回避することに専念する。

 俺から攻撃する時は、どうしても避けられない時以外はしていない。

 そのお陰で、至近弾はほんの数回に留まっている。まあ、直撃が一回だけあったけど、耐魔法が効力を発揮してくれているようだ。

 

 俺の予測通り、人が持つ凶暴性を存分に発揮した戦場がそこにはあった。

 一対多であれば、そこに入り込む理性が軽減される戦場が。

 巻き込まれた虫の戦士たちは、本来の意味で戦ってすらいない。

 本当に巻き込まれただけの哀れな事故の被害者に過ぎない。

 

 キツネが現状を知ったら笑うだろうか? 呆れるだろうか?

 散々世界を維持するために、信仰もしていない神様の意を汲んで仕事をして来た俺が、世界の終焉が見えたとたんに進んで世界を敵に回す姿を彼らはどう思うんだろう。

 神様のために命を投げ出さないと公言している俺が、神様の世界を守るために人からも狙われる状況をどう見ているんだろうか?

 それでも、目を見張るような聡明な頭を持ってい無い俺には、こうするしか方法がない。

 自分の命を惜しんでいるのに、自分の命を賭けないといけない。

 ・・・・・・ニンゲン狩りでも変わらなかったなぁ~。


 程よく現実逃避を行いながら、決まったパターンを繰り返す。

 段々と、受ける攻撃が単調になってきている。

 虫の戦士たちと相打ちになったか、それとも疲弊して攻撃することすら出来なくなったか?

 どちらにしても、この戦いも終盤が近くなってきたようだ。

 単調になった攻撃を見て、数的優位のある人側の攻撃が少なくなってきたと、虫側も理解しているようだ。

 ここに来て、彼らは人に絶望を与えようと思ったのか、ひと際デカい個体を前に出してきた。

 身の丈、10メートルはあろうかと思えるその巨体。

 なるほど、デカさは強さという考え方か。

 

 ふと思い出す、小さな神様たちが常々言っていた。

『速さこそ力だ』

 今はそれを信じるしかないだろう。


 大きな顎から滴り落ちるよだれ。

 これ見よがしに打ち鳴らす腕。

 見るからに力を連想するその姿。

 

 恐怖に混じって、小さな憐れみが沸き起こる。

 自分の優位を諭すようにその力を見せつけたいと起こす行動が、どこか滑稽に見える。

 でも、その姿に恐怖し脚を止めざるを得ない自分もいる。

 そして、自分を鼓舞したいと願う自分もいる。

 入り乱れる感情の波が、思考を削り恐怖を研ぎ澄ます。

 

 怖い。怖い、けど身体のどこかでその恐怖を飲みこもうとする熱を感じる。

 その熱は次第に大きくなり、身体を駆け巡る。

 自分の体が燃えるように熱い。そんな幻覚にも思える熱が身体を覆う。

 何故だろう、今初めて自分の全てを出し切れる気がする。

 抑圧されていた、何かが解放されるような感覚が舞い込む。

 

 この世界に来て初めて知った感覚。

 初めて自分の体のエンジンに火を入れたような感覚が、俺の感情を支配する。

 それを、俺は感じるままに形にする。

 熱は手を通し、空気に混じり炎を作り、炎は手に収まり一振りの刀を象る。

 

 今までのイチモクレンとは、まるで違う。

 見た目こそ変わらないが、確かに違う。

 そこにあった武器ではなく、そこに創り上げた武器。

 それを手にすると、渦巻いていた感情の波が引いていくように感じる。

 そして、何かの歯車がきっちりとハマった気がした。

次回投稿は11/26を予定しております。

では、次回投稿で。

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