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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
冒険
37/86

36.『ニャ』

 テスはノーザの横に座って、彼がパーティーに加わった経緯をざっと説明した。テスが話し終わると、かわってノーザが話を始める。アレスとヤラッサは二人と向かい合うように座って、話を聞いていた。


 イオンは家具の残骸の中から分厚い本を拾い上げ、読むでもなくパラパラとページをめくり、ロンサムへのお土産にでもしようかと考えてインベントリにしまいこんだ。ガラクタの中を漁るのも飽きると四人の話し合いを眺めはじめる。


 巨漢の獅子人ヤラッサは、車座に座る四人の中で頭一つ飛び出して見える。ときどき相づちをうちながら、ノーザの話を静かに聞くヤラッサの表情には、さっきのやや乱暴で喜怒哀楽の極端な振る舞いとはずいぶん違った印象を覚える。――こっちが地の性格ね。イオンは、眼を細めて自分を見た彼の顔も思い出して、このライオンの『中の人』を『現実』では眼鏡をかけてスーツ姿、商談や会議に慣れた大人の社会人、線の細い生真面目そうなビジネスマンの顔で想像した。


 ヤラッサだけでなく、チャカや、マジューレの店の客、先程から壁に寄りかかり、立ったまま話を聞いているナニワも。獣人達の立ち振る舞いや喋り方は極端なものが多い。――たぶんそれは『ロールプレイ』じゃないかな。イオンは以前から考えていた。


 『豹』のモノマネをしろ。と云われてもよくわからないが、『猫』のモノマネなら『ニャ』。『ライオン』ならきっと胸を張って豪胆に振る舞いながら、どこか優しげ。ナニワはよくわからないが、一言も話さずに無言を通しているのも彼の持つイメージのためだと思える。一年以上この世界に閉じ込められて、一番戸惑い、ショックを受けているのは獣人達かもしれない。自分の身体さえ大きく変わって、もとに戻すことはもちろん出来ない。もしかしたら見え方や聴こえ方までも、獣人の身体的構造に合わせて変化しているのかもしれない。彼らには気持ちのバランスをとる為に何かが必要だったのではないか。状況に戸惑わずに動く為、考える為、生きる為に『○○なら××するだろう』というシンプルでわかりやすい行動の基準、礎。そしてコミュニケーションの為、他種族に比べて分かりにくい表情の代用品として、伝わりやすい基本的な行動や大袈裟に誇張気味の表現。もしかしたら、最初に誰かが始めた『猫ごっこ』や『ライオンごっこ』が仲間内に広まり、極端な『ロールプレイ』になっていったのかも知れない。人間族のノーザでさえ、その振る舞いは『現実』の『透くん』とは大きく違って見える。彼の振る舞いもまた、獣人に比べれば控え目な『ロールプレイ』だとイオンは思っていた。そして獣人達の心の中の苦しみもその折り合いの付け方も、彼らの口から直接聞くことはないのか知れない。それは彼らが外見と同じ様に強靭だからではなく、口に出す事は具体的に考えてしまう事で、認めてしまう事と同じ事だから。それが『ロールプレイ』、云ってしまえば『演技』で『嘘』だと認めてしまったら、彼らはどうなるのだろう。


 イオンが考え事をしている間に、四人の話し合いは別の内容になっていた。今説明をしているのはアレスで、今度はテスとノーザが聞く側にまわっていた。いつの間にかチャカも座に加わって話を聞いていた。


「ダンジョンの外の巨石群、どうやらあれを起動させる方法らしい。」


「あれか! 転移魔法が発見されたのか?」


「いや、魔法じゃないんだ。《スキル》もいらない。起動させる事が出来たら誰でも使える。」


 アレス達はテス達のパーティーと合流するまでの間、この前室を拠点に周辺の調査を行っていたらしい。この部屋に入るときに見た金属製の大扉の向こうに、転移装置を起動させるスイッチのようなものがあるとの事だった。


「これを見てくれ……先の部屋にあった碑文を写したものだ。」


 アレスが床に紙片を置いて指し示した。ナニワがそっとアレスの横に座り別の紙片を置いた。碑文の内容は転移装置の起動方法で、ナニワが置いたものはこのダンジョンの地図だった。


「俺たちは今、外の巨石群の真下にいるんだ。」


 アレスは地図を指し示しながら説明を続ける。


「装置の起動方法はちょっとした『クエスト』になってるようだ。ただ、俺達には受けることが出来なかった。」


「ステラは今魔法職なのか?」


 ヤラッサが云いながらイオンをみる。彼はクエストの内容も知っているようだ。イオンは考え事を止めてヤラッサ達の方を見た。アレスはイオンを見てから立ち上がった。彼の立ち上がる姿は、決断に迷いがあって、それを払拭する為のもののように見えた。


「イオンちゃん、頼みがある。『クエスト』を受けてほしい。これは危険な事かも知れないが、お願いしたい。」

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