23.輝き
ロンサムが住んでいる教会は、街の中央広場に面してその北側にある。レンガ状の白い石のブロックを積み重ねた建物の広場に面した正面中央に四本の円柱の柱が並んでいて、奥に入り口のアーチが設置されていた。この建造物の白い屋根と鐘楼は街の何処からも見ることが出来る。街で一番高い建物だと聞いていた。
二重に設置されたアーチのトンネルを抜けると、奥はドーム状のホールになっている。その広い空間の中央にドラゴンと女神の像が置かれ、高い天井の付近の窓と数多くの燭台に照らし出されている。
イオンは店まで迎えにきたダルジュロスという若い僧の後に続いて、ホールの扉を抜けて裏庭に続く廊下に入る。この廊下の並びの部屋は僧達の私室らしい。ここ数日毎日のようにここを通るので案内の必要はないのだが、若い女性が一人で入って良い場所ではないらしく、イオンは案内を遠慮しようとしてダルジュロスに困られてしまった。
さらに廊下を進んで、裏口から教会の裏庭に出る。小さな庭には泉があり、その側に一本の樹木が赤い実を付けていた。その木陰に半分入り込んで、小さな木造の建物が建てられているのが亀の住居だった。ドアは亀の為に下半分が上の半分に蝶番でぶら下げられ、窓の位置も通常より低い場所にある。簡素な造りだが住人の事を考えて造り上げられた工夫が伺える。
亀は泉の側でイオンを待っていた。
ダルジュロスが亀とイオンに頭を下げ、茶を入れるために本堂の建物に戻っていく。それを見届けた亀がイオンに合図をした。
「今だ、もう見えない。」
イオンが亀の背中に乗って手を伸ばし、樹から赤い実を二つもいだ。亀の背中から降りると前に座り、一つを亀の目の前に持っていって食べさせる。自分も一つ食べる。リンゴの様な味のその果物は二人のお気に入りだが、食べている所を見つかると何故かダルジュロスに叱られた。教会内で食べるのは行儀が悪いらしい。二人が食べ終えるとイオンは残ったヘタを泉に投げ込んで証拠を隠滅した。
イオンはあれから毎日ロンサムを訪ね、彼の注文の品を作っていた。説明が難しい物は亀を『先生』と呼ぶダルジュロスが、簡単な設計図を描いてくれる。彼は《NPC》の若い僧で、ロンサムの身の回りの世話をしながら彼に師事し、実験の手伝いをしていた。金髪のハンサムな人間族の若者だが、この世界の僧は頭頂部を剃り上げたトンスラ、いわゆる『ザビエルカット』で気の弱そうな表情と相俟って、なんだか残念な感じに見える。
「今日は今まで依頼と別件なんだがね。」
「ん?」
指先を舐めながらイオンが返事をした。
「あのランタンを細くしたものを作って欲しいんだ。大雑把にいうと蝋燭のような寸法で。」
あのランタンは、店でも鳥人や人間族に人気があってよく売れていた。『リチャージ』が使えない者には、店に持ってくればイオンが充電している。マジューレに材料費を相談して売り上げの半分を渡していたが、マジューレはなかなか受け取らなかった。
「五〇〇個ほど頼めるだろうか?」
「ぶっ」
クリスタルはマジューレが集めてくれているが、とても五〇〇個分の材料はない。すぐには用意できないと伝える。
「いや急ぎではないんだが。今、ダルジュロスと一緒に来る人物に詳しい話を聞いて欲しい。」
イオンが本堂の方に振り向くと、お茶の盆を持ったダルジュロスと年配の僧が一緒に歩いてこちらに向かってきた。ダルジュロスよりも高価そうなローブ姿、頭頂部の輝きは天然モノだ。この人物は、この教会の司祭だと亀に教えられた。
四人でお茶を飲みながら話を聞くと、教会の建物の総ての照明を、マジックランタンに交換したいとの事だった。ロンサムの小屋の中にあるランタン見た司祭が、一目で気に入ってしまったらしい。今までは聖堂の照明は膨大な数の燭台の蝋燭で、火事の心配もあった。このランタンなら心配もないし、一度取り付けてしまえば『リチャージ』をかけるだけでコストもかからない。イオンが材料が足りなくて、とても一度には用意できないと伝えると、優先度の高い場所の物からお願いしたい。細かい寸法や数をダルジュロスに聞いて何種類かの形を作って欲しいとの事だった。期日についても特に指定もないらしい。正直どのくらいの時間がかかるかわからなかったが、提示された報酬は魅力的だった。時間がかかることに念を押してイオンは引き受けた。
マジューレの店に戻ると、テスとチャカがイオンを待っていた。成り行きで出入り禁止が解除されたまま、最近ちょくちょく顔を見せるノーザもカウンターに座っている。
「イオンちゃん待ってたニャ。」
「イオン、急な話だけど一緒に来て欲しい。」
「《ギルド》? アレスさん帰ってきたの?」
「遠出だ。アレスのパーティーが予定を過ぎても戻って来ないんだ。捜索隊に参加して欲しい。」
『開拓団』の他のメンバーが別方面の探索中の為人手が足りず、《ギルド》からテスに指名依頼が出されたらしい。『遠出』と云われて街から殆ど出たことがないイオンは驚いたが、テスとチャカが真剣な顔をして自分を見ているのに気が付いた。自分にしか出来ない役割が有るのかも知れない。
「コイツの見張りで。」
テスがノーザを指差した。ノーザはいつも通り笑っていた。




