24.旅路
「なんで透くんが一緒に?」
「ヒーラーがいないんだ。んでコイツが名乗り出て、シェリルがOKしちゃったんだ。」
テスは後ろを親指で指して、並んで歩くイオンに答えた。イオンは、わざとらしいジト目で後ろを見ていた。
「寝首を掻かれないように気をつけてよ、テス。」
「わかってるさ、PKなんて信用しないよ。」
イオンは前を向くと愉しそうに笑う。『現実』の世界では無口で大人びた印象の『透くん』。この世界での饒舌に、年相応の少年らしさを覚えて面白がっているらしい。弟か年下の男の子のつもりでからかっているようだ。テスは逆に前を向いたまま笑っているが、イオンに云われる迄もなく警戒を怠っていない。イオンの前で下手な真似はしないとは思うが。
「ねぇテス? 先生? そーいう会話って本人に聴こえない所でしない?」
後ろを歩くノーザが二人に声をかけてきた。こっちはいつも通りの軽い印象だ。
「だって、お店には最近ずっと入り浸りだし。出発が急で確認する暇なんて無かったし。」
「旅の途中じゃ離れて内緒話も無理だろ。イオンと同じくらい耳もいいんだろうし。」
「僕はただ、アレス氏との話し合いを急ぎたいだけさ。『システム』のお膳立てとは云えあの話があそこでまとまってれば、こんな所まで来ないさ。」
「シェリルさんにも、そう云ったのね。」
「テスはともかく、先生まで酷いなぁ。」
「一回死んでますから。それにPK辞めた訳じゃないでしょ?」
「正直云うと……あれから何人かは殺したよ。家まで押し掛けて来た賞金稼ぎは。」
――これだ。強さ自慢ウザイ、餓鬼か。まあ賞金稼ぎの方も好きじゃない奴が多いな。同じくらいウザイのが多い。
そういえば、ノーザがまた誰かを殺したことをイオンはどう思うだろう?テスはそう思って、横を歩くイオンの様子をうかがった。何も云わずに前を向いたままの顔からは、何を考えているのかわからない。ただ、彼女はもう笑っていなかった。
「賞金稼ぎなら前歩いてるぜ。」
「ニャ。」
チャカは振り向かず、尻尾をふって返事をした。たとえ振り向いて顔を見ても、表情はよくわからないが。
「ヒーラーは大事ニャ。殺るのは、街に戻る直前ニャ。」
コイツの場合、思ったことと喋ってる事が完全に一致してる気がする。コイツは死んだらどうなるなんて考えたこと無いだろうな。コイツも賞金稼ぎだったけど、殺して自慢するような奴じゃない。
「殺る気だったの! 参ったなぁ、賞金首の取り消しも交渉しなきゃ。」
「生きて帰れたらな。」
四人が街を出発して四日経った。誰もメインメニューのマップを見ることが出来なかったが、テスはすでに詳しい調査が終ったエリアを記した地図を貰っている。アクティブモンスターの生息地を極力避けて進む事ができ、この範囲内の旅は比較的安全だった。だがそのエリアももうすぐ終わる。今日は最後の安全地帯まで進んで野宿の予定だった。
フィールドの安全地帯には特徴的なオブジェクトが置かれていて、それは灯台の様なシンプルな塔や廃屋、巨石を円形に並べたストーンサークルの様な巨石群など、人が中に入れるほど巨大なオブジェクトやオブジェクト群で、遠目にも目立って見えるものが多い。ストーンサークルは『転移魔法』用のオブジェクトらしいが、今現在『転移魔法』が使えるほど《スキル》の高い《プレイヤー》は居ないらしく、詳しい事もわかっていない。今目指しているのもその巨石群の一つだった。
実のところ、イオンはテスが思うほどノーザに気を許して居なかった。この世界で生きていく為に《ギルド》との間の協定を急ぐのは本当だろう。でも透くんは何か企んでいる。このパーティーへの参加もその為の様な気がする。気が付かれない様に彼を観察する事は難しい。自分と同じ五感を持っていて、使い方は彼の方が熟知しているだろう。しかし目を離すべきじゃない。『現実』でも、何を考えているかわからない所ある少年だった。それはこの世界でも変わらない。
チャカも、テスが考えるほど単純に考えてはいなかった。可能なら今すぐにでも殺す。すぐに殺る気がない事を明言したのは油断を誘うためだ。口には出さないがノーザを一番警戒してるのは実は彼女だった。彼女にとってノーザは友の仇だった。その友が、自分の後ろを歩いて仇をからかっている事は彼女を戸惑わせたが。だが、剣を握れば自分が迷わない事を彼女は知っていた。
ノーザは何か隠しているし、一度はイオンを殺している。理由はそれだけで充分だ、自分はその時迷わない。チャカは前を見ながら考えていた。
ノーザが、アレスとの話し合いを急ぎたいと云った事は本心だった。この世界に閉じ込められて一年、《プレイヤー》達の中にも希望的にログアウトの事を思うより、この世界で生きていく事を意識し出した者も多い。彼等にとってPK達は最も身近な危険だろう。彼らにスラムのPK達に既に争う意志は無く、ただ生きていく為に必要な助力を求めているとの宣伝は必要だ。実際に今スラムで生活している者の多くは、スラムを出て安全地帯での生活を望んでいる。現状を飲み込めない馬鹿者はノーザが殺してしまった。
ただ、ノーザがこのパーティーに加わったのはそれだけでは無かった。ノーザは前を歩く少女を見ていた。どんな《スキル》を、アイテムを持っているのか。弱点のある種族なのか、状態異常に耐性は無いか、まずは確かめる。初めて彼女に会ったときからか、この世界で少女の中の彼女を見つけた時からか、ノーザは自分の中の身を焦がす黒い欲望を微塵も素振りに出したことはない。今もそうだ。ただ軽口の駆け引きを楽しみながら、静かに熱のこもった眼で彼女を見ていた。




