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第8章 新しいものが読みたい。でも、いつもの味がいい

前章では、


「安心できる型」を選んで読むようになった。


そんな話をした。


主人公最強。


スローライフ。


低ストレス。


周囲から好かれる。


見慣れた設定。


見慣れた展開。


そのあたりを見ると、


「ああ、これはたぶん大丈夫そうだ」


と思える。


では。


そこまで安心できる型が好きなら。


ずっと同じような作品だけ読んでいればいい。


……はずなのだが。


実際は、そうでもない。


私は新しい作品を探す。


新しい設定を見る。


新しい流行にも手を出す。


そして、


「お、これはちょっと違うな」


と思うと、やっぱり気になる。


結局。


新しいものは読みたい。


でも。


いつもの味も捨てたくない。


かなり面倒な読者である。


考えてみれば、私は完全な未知を求めているわけではない。


例えば。


世界観から何から全部独自。


用語も全部独自。


能力体系も独自。


社会制度も独自。


読む側が一から全部理解しないといけない。


そういう作品に出会うと。


以前なら、今よりもう少し、


「まず読んでみよう」


と入っていけた気がする。


今はまず、


「これ、覚えること多そうだな……」


と思ってしまうことがある。


駄目である。


読む前から楽をしようとしている。


その点。


なろう系のテンプレは非常に読みやすい。


異世界転生。


冒険者。


スキル。


ステータス。


ダンジョン。


ギルド。


追放。


ざまぁ。


悪役令嬢。


この辺の単語が出れば。


こちらはすぐに基本形を理解できる。


前にも書いたが、


作者と読者の間に、


共通の取扱説明書


みたいなものができている。


だから。


全部を一から覚えなくていい。


その上で、


「この作品は、ここが違うのか」


だけを楽しめる。


今の私には、このくらいがちょうどいい。


例えば。


主人公最強。


これだけなら、もう珍しくない。


だが。


主人公最強+配信。


主人公最強+現代ダンジョン。


主人公最強+子役。


主人公最強+料理。


主人公最強+男女比がおかしい世界。


一つ何かが加わるだけで、


急に気になる。


「最強主人公ね。知ってる」


で終わるはずが。


「で、配信するの?」


となる。


そして読む。


この、


「知っているもの+一つ知らないもの」


という組み合わせ。


たぶん私は、かなり好きなのだと思う。


全部知っていると飽きる。


全部知らないと疲れる。


その中間。


土台は知っている。


でも、その上に一つ新しい要素が乗っている。


そこに引かれる。


これは、長年なろうを読んできたことで。


私の中に、


「ここまでは説明されなくても分かる」


という領域が増えたからこそ起きているのかもしれない。


十年以上前なら。


異世界転生。


それだけで新しかった。


今では。


異世界転生は、もはや前提である。


「で、何をするの?」


となる。


追放ものもそう。


追放されました。


「はいはい」


では終わらない。


「その後どうなるの?」


「何が他と違うの?」


そこを見る。


悪役令嬢も。


ダンジョン配信も。


現代転生も。


基本形を知っているからこそ。


二つ目の要素が重要になる。


そして。


この流れは、作品側にも当然影響する。


ある型が当たる。


似た作品が増える。


最初の頃は、その型だけで新鮮だった。


でも。


読者が慣れる。


今度は、


「同じだな」


と言われる。


そこで後発作品は、


何かを足す。


設定をひねる。


別ジャンルを混ぜる。


主人公の立場を変える。


視点を変える。


世界を変える。


そうやって差別化する。


そして。


その一工夫が当たると。


今度は、それが新しい型になる。


私は以前から。


なろう系の流行は、


一つの型が流行る。

似た作品が増える。

その中から、何か一つ足した作品が出る。

それが当たる。

今度は、その組み合わせが増える。


この繰り返しなのではないか。


と思っていた。


そして今。


読者側から考えると。


その仕組みが続く理由も、少し分かる気がする。


私たち読者自身が。


「知っているものの中に、少しだけ新しいものが欲しい」


と思っているからだ。


完全に新しいジャンルが突然生まれる。


もちろん、そんなこともある。


でも実際には。


既存のものと既存のものが組み合わさって。


結果として新しく見える。


そんな作品も多い。


異世界+料理。


追放+ざまぁ。


現代+ダンジョン。


ダンジョン+配信。


転生+芸能。


転生+配信。


悪役令嬢+何か。


どんどん足される。


そして。


その組み合わせに読者が慣れれば。


また次の何かが必要になる。


なろうが長く続いている理由の一つは。


この、


ジャンル同士を混ぜ続けられる柔らかさ


にあるのかもしれない。


さらに面白いのは。


私は新しい要素が好きなのに。


新しすぎると、今度は困ることである。


例えば。


聞いたことのない専門用語が大量に出てくる。


設定説明が何ページも続く。


独自の階級。


独自の魔法体系。


独自の国家制度。


独自の神話。


登場人物の名前も覚えにくい。


そうなると。


「いや、世界観はすごいんだけど……」


となる。


そして私は。


そっと閉じることがある。


本当に面倒な読者だ。


一方で。


冒険者ギルド。


ステータス。


スキル。


アイテムボックス。


そのあたりが出てくる。


すると。


「はいはい、分かります」


となる。


さらに。


主人公だけ特殊な能力を持っている。


「なるほど、今回はそこが売りね」


となる。


読みやすい。


だから続く。


これは。


作品を読むために必要なエネルギーが、


昔より少なく済むからなのかもしれない。


考えてみれば。


私は最近。


面白さだけで作品を選んでいるのではなく。


「入りやすさ」


もかなり重視している気がする。


あらすじを読んで。


「あ、だいたい分かった」


となる。


一話を読んで。


「この作品はこういう感じね」


となる。


その上で。


「ちょっと面白そう」


がある。


この流れが速い作品ほど。


私はそのまま読み続けやすい。


逆に。


十話くらい読まないと。


何の話なのか。


主人公が何をしたいのか。


どんな作品なのか。


分からない。


そうなると。


今の私は。


そこまで待てないことが増えた。


これも。


以前なら。


もう少し粘った気がする。


「まだ序盤だから」


「そのうち面白くなるだろう」


と読む。


今は。


一話。


数話。


あらすじ。


そこで、


「ちょっと違うかな」


と思ったら。


割とすぐ離れる。


読む作品が多すぎるから。


一つに粘らなくても。


次がいくらでもある。


そういう環境に慣れてしまったこともあるのかもしれない。


そして。


それは作者側にも厳しい。


読者が。


「最初の数話で面白さを見せて」


と思う。


作者は。


早い段階で。


主人公の特徴。


作品の方向性。


売り。


気持ちよさ。


何かを見せなければならない。


だから。


最初から最強。


最初から追放。


最初から転生。


最初からダンジョン。


最初から配信。


物語の核を。


序盤にかなり早く出す作品が増えていく。


そう考えると。


前に書いた、


「最強がゴールからスタート地点になった」


という話ともつながる。


つまり。


作品側が短気になったのではなく。


読者である私が短気になったから。


作品も最初から見せ場を出すようになった。


……という部分も、少しはあるのかもしれない。


もちろん。


業界全体がそうだと断定するつもりはない。


ただ。


少なくとも。


私は。


「後で面白くなります」


より。


「最初から面白いです」


の方を選びやすくなった。


かなり分かりやすい。


そして。


私は。


新しいものを探している。


でも。


本当に欲しいのは。


完全な未知ではない。


見慣れた型の中にある、少しだけ知らない何か。


なのだと思う。


これは。


食べ物で言えば。


ずっと同じ店に行きながら。


季節限定メニューを注文する感じに近い。


いつもの味は知っている。


店も知っている。


外れにくい。


でも。


今日は少しだけ違うものを食べる。


それで満足する。


なろうも。


そんな読み方になっている。


だから私は。


「最近似たような作品ばかりだな」


と言いながら。


似たような作品を読む。


だが。


本当に全く同じなら。


途中でやめる。


少し違えば。


「これは面白い」


となる。


結局。


私が求めているのは。


安心できる型と、新鮮さの両立


なのだろう。


知らないものだけでは疲れる。


知っているものだけでは飽きる。


その中間。


かなりわがままだが。


今の私には。


そこが一番読みやすい。


そして。


このことを考えると。


もう一つ。


自分の読書の変化が見えてくる。


私は。


面白い作品を探す能力だけではなく。


自分に合わない作品を早く見抜く能力


まで。


長年の読書で身につけてしまったのではないか。


タイトル。


あらすじ。


タグ。


一話目。


そこを見るだけで。


「これは好きそう」


「これは重そう」


「これは途中でしんどくなりそう」


と。


かなり早い段階で判断するようになった。


つまり。


十数年読んだ結果。


私は。


作品の読み方だけではなく。


作品を読む前の選び方まで変わった。


次は。


その辺について考えてみたい。


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