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『好きな人がいるので、幼馴染に恋愛相談していたら、なんだか様子がおかしくなりました』   作者: 伊佐波瑞樹


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40/52

第40話 初デート前日、彼氏と一日会えないだけなのに明日が待ちきれなくなりました


 金曜日の朝、午前五時十九分。


 目を覚ました私は、まだ薄暗い部屋の中でしばらく天井を見つめていた。


 学校へ行って、授業を受けて、春斗と一緒に帰る。いつもと同じ平日の一日になるはずなのに、胸の奥だけが朝から落ち着かない。


 理由は、考えるまでもなかった。


 明日。


 春斗とデートする。


 恋人になってから、最初から「デート」として約束した初めての休日だ。


 木下書房へ行って、そのあと水戸へ出る。


 服も決めた。


 白いブラウスに、水色のカーディガン。紺色の膝下スカートへ白いスニーカーを合わせ、髪にはまだ一度も使っていない小さな白いヘアピンをつける。


 春斗へ写真も送った。


『かなり可愛い』


『笑ってる顔が一番可愛い』


 昨日のメッセージを思い出した瞬間、私は布団の中で両手を顔へ押し当てた。


「……朝から思い出すことじゃない」


 小さく呟いても、記憶は消えてくれない。


 明日は写真ではない。


 目の前で春斗に見られる。


 もしかしたら、直接「可愛い」と言われるかもしれない。


 そう考えるだけでも恥ずかしいのに、さらに手を繋いで一日歩く。帰り道の短い時間ではなく、最初から最後まで恋人として一緒に過ごすのだ。


 そこまで考えたところで、私は一度思考を止めようとした。


 最近、どうしてもその先へ一つの言葉が続いてしまう。


 キス。


 昨日の夜は、前より怖くないかもしれないと思った。


 でも、実際にその瞬間が来たらどうなるのかは分からない。春斗が聞いてくるかもしれないし、明日は何も言わないかもしれない。


 だから、今から答えを決めない。


 愛ちゃんにも言われた。


 その瞬間に春斗としたいと思ったなら、そのとき答えればいい。


 私は枕元のスマートフォンへ手を伸ばした。


 画面には一件の通知。


 午前五時五分。


『あと一日』


 春斗だった。


 思わず笑う。


『何が』


 分かっているくせに、わざと聞いてみる。


 すぐに既読。


『デート』


『分かってる』


『忘れたかと思った』


『忘れるわけない』


 送った瞬間、自分で少し恥ずかしくなる。


 でも春斗は、ほとんど間を空けずに返した。


『俺も』


 胸が温かくなる。


『今日学校』


『うん』


『会える』


『うん』


『でも明日』


『今日の春斗はいらないみたい』


 少し意地悪に返してみる。


 すぐ既読。


『それは嫌』


『冗談』


『今日も会いたい』


 素直。


 最近の春斗は、本当にそこを隠さない。


『私も』


 私も返した。


 少し間が空く。


『真理』


『何』


『明日』


『うん』


『楽しみにしてて』


 胸が少し強く鳴った。


『何するの』


『秘密』


『嫌』


『少しだけ』


『何』


『言わない』


『春斗』


『楽しみにして』


 何か考えている。


 私へ。


 でも、聞いても教えてくれない。


『変なこと?』


『しない』


『本当?』


 少しして。


『真理が嫌がることはしない』


 その一文を見た瞬間、胸の奥が静かに温かくなった。


 付き合った日。


 春斗はキスしていいか聞いた。


 私は「まだ」と答えた。


 春斗はそこで止まった。


 今も、その答えを勝手に変えようとはしていない。


『分かった』


 私は送った。


『楽しみにする』


『うん』


 少しして。


『おはよう』


 今さらだった。


 私は声を出して笑いそうになる。


『おはよう』


 やっと、普通の朝の挨拶を返した。


     ◇


 朝。


 今日は私の家が送迎当番だった。


 春斗の家の前へ車が停まり、後部座席のドアが開く。


 制服姿の春斗が乗り込んできた瞬間、私は昨日までより少しだけ強く胸が鳴るのを感じた。


 明日も。


 ほぼ同じ時間。


 同じように春斗を見る。


 でも、明日は制服ではない。


 学校へ向かうためでもない。


 恋人として会う。


「おはよう」


「おはよう」


 春斗が私の隣へ座る。


 いつもと同じ距離なのに、今日は明日の予行練習でもしているような気分になる。


「真理」


「何」


「顔」


「何」


「ニヤけてる」


「春斗がいるからじゃない」


「じゃあ何」


「明日のこと考えた」


 言ってから、自分で少し恥ずかしくなった。


 でも春斗の目が柔らかくなる。


「俺も」


 その会話を聞いていた母が、バックミラー越しにこちらを見る。


「明日?」


 私は一瞬固まった。


「デート?」


「お母さん!」


 直球すぎる。


 でも春斗は普通に答えた。


「デートです」


 私は思わず春斗を見る。


「普通に言うんだ」


「付き合ってるから」


「最近それで全部押し切るよね」


「便利だから」


 まただ。


 母が楽しそうに笑う。


「どこ行くの?」


「木下書房と、そのあと水戸」


 今度は私が答えた。


「へえ。初デートっぽくないね」


「本屋だから?」


「春斗くんらしいという意味」


「真理も本好きだから」


 春斗が横から言う。


 母は少し笑った。


「ならいいけど、ちゃんとご飯食べるのよ」


「子どもじゃない」


「デートで緊張して食べられなくなるかもしれないでしょう」


「そこまで緊張しないよ」


 私が言うと、春斗が少し笑った。


「昨日、服の写真何回撮り直した?」


 私は固まる。


「何で知ってるの」


「送るまで時間かかった」


「それだけで?」


「真理だから」


 また。


 最近、春斗は何でも「真理だから」で説明する。


「何枚?」


 母まで参加する。


「言わない」


「三枚?」


 春斗。


 私は黙る。


「当たり?」


「知らない」


「当たりか」


「春斗!」


 母が笑う。


 私は窓の外へ顔を向けた。


 恥ずかしい。


 でも。


 頬が少し緩んでしまうのは止められなかった。


     ◇


 岩瀬駅。


 いつものベンチ。


 春斗と並んで座る。


 今日もホームには学生や会社員が多く、私たちと同じ学校の制服も見える。


 人前では、まだ手を繋がない。


 それでも。


 距離は自然と以前より近くなっている。


「春斗」


「何」


「明日」


「うん」


「九時」


「うん」


「ここ?」


「ここ」


「どっちが先に来ると思う?」


「俺」


「私」


「勝負する?」


「何それ」


 私は笑った。


「遅刻した方が何か奢るとか」


「俺、遅刻しない」


「私も」


「じゃあ成立しない」


「本当に」


 二人で少し笑う。


 そのあと春斗が少し真面目な顔になった。


「真理」


「何」


「明日」


「うん」


「一日、俺といて」


 胸が鳴る。


「デートでしょ」


「うん」


「いるよ」


「途中で」


 春斗は一度言葉を止めた。


 名前は出さない。


 でも、誰のことを考えているのかは分かった。


「他の奴のこと考えても?」


 私は少し黙った。


 竹下くん。


 前より、ちゃんと距離はできた。


 少しずつ普通に話せるようにもなってきた。


 でも、だからといって何も感じなくなったわけではない。


「考えることはあるかもしれない」


 正直に答える。


 春斗の表情が少し硬くなる。


「でも」


 私は続けた。


「明日は春斗との日」


 春斗がこちらを見る。


「だから、春斗を一番見る」


 言った瞬間。


 顔が熱くなった。


 でも。


 取り消さない。


 春斗はしばらく何も言わなかった。


「春斗?」


「今、かなり嬉しい」


「知ってる」


「何で」


「最近そればっかり言うから」


 春斗が笑う。


 そしてベンチの上で、私たちの手が少しだけ近づいた。


 人が多いから握らない。


 でも。


 小指同士がほんの少し触れる。


「明日」


 春斗が言う。


「何」


「最初から手繋ぐ」


 私は少し驚いた。


「駅から?」


「うん」


「人多いよ」


「デートだから」


「また便利にしてる」


「でも繋ぎたい」


 その言い方がずるい。


 私は少し迷い。


「……うん」


 小さく答える。


「繋ぐ」


 春斗の小指が、少しだけ私の指へ絡んだ。


     ◇


 学校。


 教室へ入ると、愛ちゃんはすぐ私の顔を見た。


「おはよう」


「おはよう」


 そして。


「明日」


「何」


「顔」


「もう嫌」


 私は席へ座る。


「そんなに出てる?」


「かなり」


「何が」


「初デート前日の女子」


「普通でしょ」


「普通だけど、真理は特に分かりやすい」


「春斗にも言われた」


「彼氏に?」


「言わないで」


「まだ恥ずかしい?」


「まだ」


「何日目?」


「数えないで」


 愛ちゃんが笑う。


 私は前を見る。


 竹下くん。


 今日も席にいる。


 少し安心する。


 目が合う。


 竹下くんは一瞬だけ止まったあと。


「おはよう」


 昨日と同じように言った。


「おはよう」


 私も返す。


 少しずつ。


 本当に。


 普通へ戻っている。


 完全に以前と同じではない。


 でも、それでいい。


 竹下くんは小野寺くんと何かを話し、少しだけ笑った。


 その顔を見て。


 胸の奥が少し軽くなる。


「真理」


 愛ちゃんが小声で呼ぶ。


「何」


「見すぎ」


「心配なんだもん」


「分かるけど」


 愛ちゃんは少しだけ声を落とした。


「明日は春くん」


「うん」


 私はすぐ答える。


「分かってる」


     ◇


 午前中。


 金曜日の授業は、いつもより進みが遅いように感じた。


 実際に時計が遅いわけではない。


 私の中で、早く明日になってほしい気持ちが強すぎるだけだ。


 三時間目。


 先生が黒板へ数式を書いている。


 私はノートを取っている。


 でも、頭の半分は明日のことを考えていた。


 隣から。


 愛ちゃんのノートが少し寄ってくる。


『集中』


 昨日と同じ。


 私は自分のノートの端へ書く。


『してる』


 すぐ返る。


『嘘』


『してる』


 そして。


『明日』


『知ってる』


 続けて。


『キス』


 私のペンが完全に止まった。


 愛ちゃんが横で肩を震わせている。


 私は睨む。


『授業中!』


『真理が止まった』


『愛ちゃん!』


「久保」


「はい!」


 突然先生に呼ばれ、私は勢いよく顔を上げた。


 声が少し大きすぎて、教室から小さな笑いが起きる。


「ここ、答えて」


「はい」


 黒板を見る。


 幸い。


 分かる問題。


 答える。


「正解」


「はい」


 座る。


 愛ちゃんの肩がさらに震えている。


「あとで覚えてて」


 私は小声で言う。


「春くんみたい」


「嫌」


 でも。


 私も少し笑った。


     ◇


 昼休み。


 私は愛ちゃんと食堂へ向かった。


 竹下くんは小野寺くんたちと少し離れた席へ座っている。


 昨日よりさらに普通に話している。


 サッカー部の友達も何人かいて、笑い声も聞こえる。


 それだけで。


 少し安心する。


「真理」


 愛ちゃんが箸を持ちながら言う。


「何」


「明日の準備」


「服は決まった」


「髪も?」


「白いピン」


「バッグ」


 私は止まった。


「まだ」


「そこ忘れる?」


「昨日服で頭いっぱいだった」


 愛ちゃんがため息を吐く。


「茶色の小さいやつでいいじゃん」


「前にも使った」


「じゃあ白のショルダー」


「持ってる」


「それでいい」


 私は少し考える。


「春斗、どっち好きかな」


 愛ちゃんがじっと私を見る。


「何」


「全部春くん基準」


 言われて。


 少し止まった。


「……駄目?」


「駄目じゃない」


 愛ちゃんは少し笑う。


「むしろ恋人っぽい」


 胸が少し温かくなる。


「前さ」


 愛ちゃんが続ける。


「竹下くんとのデートの服、春くんにも可愛いって言われたかったでしょ」


「うん」


「でも今は」


 愛ちゃんが私を見る。


「春くんにだけ見てもらいたいんじゃない?」


 その言葉が。


 胸へゆっくり落ちる。


 私は少し考える。


 明日。


 春斗に見てもらう。


 春斗に可愛いと言ってもらう。


 それを楽しみにしている。


「……うん」


 私は答えた。


「そうかも」


「変わったね」


「うん」


 竹下くんを好きだったことは嘘ではない。


 でも。


 今。


 可愛いと思ってほしい人は。


 春斗だ。


     ◇


 少しして。


 竹下くんが席を立ち、こちらへ歩いてきた。


 私は少しだけ緊張する。


「久保さん」


「うん」


「明日」


 胸が少し動く。


「うん」


「デート」


「うん」


 竹下くんは少しだけ笑う。


「楽しみ?」


 聞かれる。


 私は迷った。


 でも。


 もう曖昧にはしない。


「うん」


 はっきり答えた。


「すごく楽しみ」


 竹下くんの表情が一瞬だけ硬くなる。


 それでも。


 すぐに頷いた。


「そっか」


「うん」


「それなら、よかった」


 胸が少し痛む。


 でも。


 以前とは違う。


「竹下くん」


「何」


「明日、本当に連絡しない?」


 聞いてから。


 自分でも少し変な質問だと思った。


 竹下くんが少し笑う。


「してほしい?」


「違う!」


 すぐに否定した。


「分かってる」


 竹下くんが少し笑う。


 その笑い方。


 前より。


 少しだけ自然。


「しないよ」


「うん」


「明日、俺部活だし」


「そっか」


「だから考える暇ない」


「嘘」


「少しはある」


 竹下くんが苦笑した。


「でも」


 少しだけ真面目な顔になる。


「久保さんが楽しみなら、それでいい」


 胸が痛い。


 でも。


 今は。


 ちゃんと受け取る。


「ありがとう」


 竹下くんは頷いた。


「うん」


 それだけ言い。


 自分の席へ戻っていった。


 愛ちゃんが横で少しだけ息を吐く。


「すごいね」


「何が」


「ちゃんと前進してる」


「うん」


「竹下くんも」


「うん」


「真理も」


 私は少しだけ笑った。


「うん」


 もう振り返らない。


 なんて。


 言うつもりはない。


 竹下くんは大事な人。


 でも。


 明日は。


 春斗との日。


     ◇


 放課後。


 昇降口。


 春斗はいつもの場所で待っていた。


 私を見ると。


「おかえり」


 言う。


 今日は。


 私は。


 少しだけ迷ってから。


「ただいま」


 返した。


 春斗の目が少し大きくなる。


「今」


「何」


「ただいまって」


「言った」


「うん」


「何」


「かなり嬉しい」


「また」


「だって」


 春斗は少し笑う。


 私も笑った。


 学校を出る。


 少し歩く。


 生徒の数が減ってくる。


 いつもの角。


 春斗が右手を差し出す。


 私は迷わず取る。


 最近は。


 ここで手を繋ぐことが。


 本当に自然になってきた。


「春斗」


「何」


「明日」


「うん」


「楽しみ」


 自分から言った。


 春斗がこちらを見る。


「俺も」


 繋いだ手を少し強く握られる。


「かなり」


「知ってる」


「何で」


「天気三回」


「母さん」


 春斗が少しむっとする。


 私は笑った。


「あと」


「何」


「服」


「うん」


「明日」


 少し恥ずかしい。


 でも。


 言いたい。


「ちゃんと可愛いって言って」


 春斗の歩く速度が少しだけ遅くなる。


「言う」


「本当に?」


「うん」


「写真より変でも?」


「変じゃない」


「まだ直接見てない」


「写真で見た」


「直接だよ」


 春斗は少しだけ私を見る。


「直接の方が絶対可愛い」


 顔が一気に熱くなる。


「春斗」


「何」


「最近ずるい」


「何が」


「全部」


 春斗は笑う。


「真理も」


「何が」


「朝」


「うん」


「明日、俺を一番見るって言った」


 思い出し。


 また顔が熱い。


「本当だよ」


「うん」


「だから」


 春斗が少し立ち止まり。


 私を見る。


「俺も明日、真理だけ見る」


 胸が強く鳴った。


 周囲には。


 ほとんど人がいない。


 手は繋いだまま。


 春斗が近い。


 明日。


 一日。


 もっと近くにいる。


「……うん」


 私は。


 それしか。


 言えなかった。


     ◇


 帰り道。


 春斗は少し話題を変えた。


「木下書房」


「うん」


「店主、絶対ニヤニヤする」


「春斗の相談知ってるから?」


「うん」


「私、何て言えばいいかな」


「普通でいい」


「付き合いました?」


「俺が言う」


「春斗が?」


「うん」


「恥ずかしい」


「俺も」


「見えない」


「かなり」


 でも。


 春斗は。


 自分で言いたい。


 その気持ちは。


 分かる。


「じゃあ春斗から言って」


「うん」


「私は」


 少し考える。


「ありがとうって言う」


「何で」


「春斗の相談、聞いてくれたから」


 春斗の顔が少し柔らかくなる。


「それ言ったら喜ぶ」


「本当?」


「うん」


「じゃあ言う」


 木下書房。


 私にとって。


 少しずつ。


 特別な場所になっている。


 春斗が。


 私の知らなかった自分を。


 話していた場所。


 明日。


 そこへ。


 恋人として一緒に行く。


 それも。


 楽しみだった。


     ◇


 夜、午後七時三十一分。


 私は明日持っていくバッグを選んでいた。


 床には、昨日決めた服がきれいに並べてある。


 その横へ。


 白い小さなショルダーバッグを置く。


 鏡を見る。


 まだ着替えていない。


 それでも。


 明日の自分。


 想像。


 する。


 春斗。


 見る。


 何て言う。


『かなり可愛い』


 昨日。


 写真。


 言った。


 直接言われたら。


 きっと。


 普通ではいられない。


「……普通にしよう」


 自分へ言い聞かせる。


 たぶん無理だ。


 そのとき。


 スマートフォンが震える。


 春斗。


『準備できた?』


『まだ』


『何してる』


『バッグ』


『写真』


『バッグだけ?』


『うん』


 白いショルダーバッグを撮って送る。


 すぐ既読。


『いい』


『本当?』


『服合う』


『春斗、分かるの?』


『昨日の写真覚えてる』


 胸が少し鳴る。


『保存した?』


 送る。


 既読。


 少し長い。


『した』


 私は固まった。


『何で』


『彼女』


『理由になってない』


『可愛かった』


 顔が熱い。


『消して』


『嫌』


『春斗』


『俺だけ持ってる』


 胸が大きく鳴った。


 少し。


 独占欲。


 ある言葉。


 でも。


 嫌じゃない。


『変なのに使わないで』


『使わない』


『本当?』


『見るだけ』


 それはそれで恥ずかしい。


『もう寝る』


『早い』


『逃げる』


『明日』


 春斗はすぐ返す。


『逃がさない』


 心臓が跳ねた。


『何それ』


『デート』


『怖い』


 すぐに。


『嫌がることしない』


 ちゃんと。


 戻る。


 春斗。


 分かってる。


『うん』


『でも』


『何』


『手は繋ぐ』


『うん』


『いっぱい』


 胸が温かくなる。


『うん』


 私は返した。


     ◇


 午後九時四十七分。


 布団へ入る。


 明日。


 九時。


 岩瀬駅。


 春斗と待ち合わせ。


 服。


 用意。


 バッグ。


 用意。


 財布。


 ある。


 スマートフォン。


 充電。


 折り畳み傘。


 一応入れる。


 天気。


 晴れ。


 準備は。


 大丈夫。


 でも。


 心は。


 全然大丈夫じゃない。


 楽しみ。


 緊張。


 嬉しい。


 恥ずかしい。


 そして。


 キス。


 少し。


 期待。


 全部。


 一緒にある。


 私は枕を抱いた。


 でも。


 一瞬。


 春斗に抱き締められる方がいい。


 そんなことを思ってしまい。


 また顔が熱くなる。


「……明日」


 小さく呟く。


 春斗。


 会える。


 一日。


 恋人として。


 過ごす。


 幼馴染としてではなく。


 彼氏と彼女として。


 それを。


 ちゃんと。


 楽しみたい。


 スマートフォン。


 最後。


 通知。


『おやすみ』


 春斗。


『おやすみ』


 返す。


 そして。


 少しだけ迷う。


『明日、早く会いたい』


 送信。


 すぐ既読。


『俺も』


 続けて。


『かなり』


 私は少し笑う。


『知ってる』


『何で』


『大事だから』


 また。


 春斗の言葉。


 使う。


『それ俺の』


『私のにもする』


 少し間。


『ならいい』


 会話が終わる。


 私は画面を消し。


 暗い部屋で目を閉じる。


 明日。


 春斗に会う。


 たった一晩。


 それだけなのに。


 今の私には。


 少し長すぎる。


 布団の中で何度か寝返りを打ちながら。


 私は。


 もう。


 明日が待ちきれなくなっていた。

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