第40話 初デート前日、彼氏と一日会えないだけなのに明日が待ちきれなくなりました
金曜日の朝、午前五時十九分。
目を覚ました私は、まだ薄暗い部屋の中でしばらく天井を見つめていた。
学校へ行って、授業を受けて、春斗と一緒に帰る。いつもと同じ平日の一日になるはずなのに、胸の奥だけが朝から落ち着かない。
理由は、考えるまでもなかった。
明日。
春斗とデートする。
恋人になってから、最初から「デート」として約束した初めての休日だ。
木下書房へ行って、そのあと水戸へ出る。
服も決めた。
白いブラウスに、水色のカーディガン。紺色の膝下スカートへ白いスニーカーを合わせ、髪にはまだ一度も使っていない小さな白いヘアピンをつける。
春斗へ写真も送った。
『かなり可愛い』
『笑ってる顔が一番可愛い』
昨日のメッセージを思い出した瞬間、私は布団の中で両手を顔へ押し当てた。
「……朝から思い出すことじゃない」
小さく呟いても、記憶は消えてくれない。
明日は写真ではない。
目の前で春斗に見られる。
もしかしたら、直接「可愛い」と言われるかもしれない。
そう考えるだけでも恥ずかしいのに、さらに手を繋いで一日歩く。帰り道の短い時間ではなく、最初から最後まで恋人として一緒に過ごすのだ。
そこまで考えたところで、私は一度思考を止めようとした。
最近、どうしてもその先へ一つの言葉が続いてしまう。
キス。
昨日の夜は、前より怖くないかもしれないと思った。
でも、実際にその瞬間が来たらどうなるのかは分からない。春斗が聞いてくるかもしれないし、明日は何も言わないかもしれない。
だから、今から答えを決めない。
愛ちゃんにも言われた。
その瞬間に春斗としたいと思ったなら、そのとき答えればいい。
私は枕元のスマートフォンへ手を伸ばした。
画面には一件の通知。
午前五時五分。
『あと一日』
春斗だった。
思わず笑う。
『何が』
分かっているくせに、わざと聞いてみる。
すぐに既読。
『デート』
『分かってる』
『忘れたかと思った』
『忘れるわけない』
送った瞬間、自分で少し恥ずかしくなる。
でも春斗は、ほとんど間を空けずに返した。
『俺も』
胸が温かくなる。
『今日学校』
『うん』
『会える』
『うん』
『でも明日』
『今日の春斗はいらないみたい』
少し意地悪に返してみる。
すぐ既読。
『それは嫌』
『冗談』
『今日も会いたい』
素直。
最近の春斗は、本当にそこを隠さない。
『私も』
私も返した。
少し間が空く。
『真理』
『何』
『明日』
『うん』
『楽しみにしてて』
胸が少し強く鳴った。
『何するの』
『秘密』
『嫌』
『少しだけ』
『何』
『言わない』
『春斗』
『楽しみにして』
何か考えている。
私へ。
でも、聞いても教えてくれない。
『変なこと?』
『しない』
『本当?』
少しして。
『真理が嫌がることはしない』
その一文を見た瞬間、胸の奥が静かに温かくなった。
付き合った日。
春斗はキスしていいか聞いた。
私は「まだ」と答えた。
春斗はそこで止まった。
今も、その答えを勝手に変えようとはしていない。
『分かった』
私は送った。
『楽しみにする』
『うん』
少しして。
『おはよう』
今さらだった。
私は声を出して笑いそうになる。
『おはよう』
やっと、普通の朝の挨拶を返した。
◇
朝。
今日は私の家が送迎当番だった。
春斗の家の前へ車が停まり、後部座席のドアが開く。
制服姿の春斗が乗り込んできた瞬間、私は昨日までより少しだけ強く胸が鳴るのを感じた。
明日も。
ほぼ同じ時間。
同じように春斗を見る。
でも、明日は制服ではない。
学校へ向かうためでもない。
恋人として会う。
「おはよう」
「おはよう」
春斗が私の隣へ座る。
いつもと同じ距離なのに、今日は明日の予行練習でもしているような気分になる。
「真理」
「何」
「顔」
「何」
「ニヤけてる」
「春斗がいるからじゃない」
「じゃあ何」
「明日のこと考えた」
言ってから、自分で少し恥ずかしくなった。
でも春斗の目が柔らかくなる。
「俺も」
その会話を聞いていた母が、バックミラー越しにこちらを見る。
「明日?」
私は一瞬固まった。
「デート?」
「お母さん!」
直球すぎる。
でも春斗は普通に答えた。
「デートです」
私は思わず春斗を見る。
「普通に言うんだ」
「付き合ってるから」
「最近それで全部押し切るよね」
「便利だから」
まただ。
母が楽しそうに笑う。
「どこ行くの?」
「木下書房と、そのあと水戸」
今度は私が答えた。
「へえ。初デートっぽくないね」
「本屋だから?」
「春斗くんらしいという意味」
「真理も本好きだから」
春斗が横から言う。
母は少し笑った。
「ならいいけど、ちゃんとご飯食べるのよ」
「子どもじゃない」
「デートで緊張して食べられなくなるかもしれないでしょう」
「そこまで緊張しないよ」
私が言うと、春斗が少し笑った。
「昨日、服の写真何回撮り直した?」
私は固まる。
「何で知ってるの」
「送るまで時間かかった」
「それだけで?」
「真理だから」
また。
最近、春斗は何でも「真理だから」で説明する。
「何枚?」
母まで参加する。
「言わない」
「三枚?」
春斗。
私は黙る。
「当たり?」
「知らない」
「当たりか」
「春斗!」
母が笑う。
私は窓の外へ顔を向けた。
恥ずかしい。
でも。
頬が少し緩んでしまうのは止められなかった。
◇
岩瀬駅。
いつものベンチ。
春斗と並んで座る。
今日もホームには学生や会社員が多く、私たちと同じ学校の制服も見える。
人前では、まだ手を繋がない。
それでも。
距離は自然と以前より近くなっている。
「春斗」
「何」
「明日」
「うん」
「九時」
「うん」
「ここ?」
「ここ」
「どっちが先に来ると思う?」
「俺」
「私」
「勝負する?」
「何それ」
私は笑った。
「遅刻した方が何か奢るとか」
「俺、遅刻しない」
「私も」
「じゃあ成立しない」
「本当に」
二人で少し笑う。
そのあと春斗が少し真面目な顔になった。
「真理」
「何」
「明日」
「うん」
「一日、俺といて」
胸が鳴る。
「デートでしょ」
「うん」
「いるよ」
「途中で」
春斗は一度言葉を止めた。
名前は出さない。
でも、誰のことを考えているのかは分かった。
「他の奴のこと考えても?」
私は少し黙った。
竹下くん。
前より、ちゃんと距離はできた。
少しずつ普通に話せるようにもなってきた。
でも、だからといって何も感じなくなったわけではない。
「考えることはあるかもしれない」
正直に答える。
春斗の表情が少し硬くなる。
「でも」
私は続けた。
「明日は春斗との日」
春斗がこちらを見る。
「だから、春斗を一番見る」
言った瞬間。
顔が熱くなった。
でも。
取り消さない。
春斗はしばらく何も言わなかった。
「春斗?」
「今、かなり嬉しい」
「知ってる」
「何で」
「最近そればっかり言うから」
春斗が笑う。
そしてベンチの上で、私たちの手が少しだけ近づいた。
人が多いから握らない。
でも。
小指同士がほんの少し触れる。
「明日」
春斗が言う。
「何」
「最初から手繋ぐ」
私は少し驚いた。
「駅から?」
「うん」
「人多いよ」
「デートだから」
「また便利にしてる」
「でも繋ぎたい」
その言い方がずるい。
私は少し迷い。
「……うん」
小さく答える。
「繋ぐ」
春斗の小指が、少しだけ私の指へ絡んだ。
◇
学校。
教室へ入ると、愛ちゃんはすぐ私の顔を見た。
「おはよう」
「おはよう」
そして。
「明日」
「何」
「顔」
「もう嫌」
私は席へ座る。
「そんなに出てる?」
「かなり」
「何が」
「初デート前日の女子」
「普通でしょ」
「普通だけど、真理は特に分かりやすい」
「春斗にも言われた」
「彼氏に?」
「言わないで」
「まだ恥ずかしい?」
「まだ」
「何日目?」
「数えないで」
愛ちゃんが笑う。
私は前を見る。
竹下くん。
今日も席にいる。
少し安心する。
目が合う。
竹下くんは一瞬だけ止まったあと。
「おはよう」
昨日と同じように言った。
「おはよう」
私も返す。
少しずつ。
本当に。
普通へ戻っている。
完全に以前と同じではない。
でも、それでいい。
竹下くんは小野寺くんと何かを話し、少しだけ笑った。
その顔を見て。
胸の奥が少し軽くなる。
「真理」
愛ちゃんが小声で呼ぶ。
「何」
「見すぎ」
「心配なんだもん」
「分かるけど」
愛ちゃんは少しだけ声を落とした。
「明日は春くん」
「うん」
私はすぐ答える。
「分かってる」
◇
午前中。
金曜日の授業は、いつもより進みが遅いように感じた。
実際に時計が遅いわけではない。
私の中で、早く明日になってほしい気持ちが強すぎるだけだ。
三時間目。
先生が黒板へ数式を書いている。
私はノートを取っている。
でも、頭の半分は明日のことを考えていた。
隣から。
愛ちゃんのノートが少し寄ってくる。
『集中』
昨日と同じ。
私は自分のノートの端へ書く。
『してる』
すぐ返る。
『嘘』
『してる』
そして。
『明日』
『知ってる』
続けて。
『キス』
私のペンが完全に止まった。
愛ちゃんが横で肩を震わせている。
私は睨む。
『授業中!』
『真理が止まった』
『愛ちゃん!』
「久保」
「はい!」
突然先生に呼ばれ、私は勢いよく顔を上げた。
声が少し大きすぎて、教室から小さな笑いが起きる。
「ここ、答えて」
「はい」
黒板を見る。
幸い。
分かる問題。
答える。
「正解」
「はい」
座る。
愛ちゃんの肩がさらに震えている。
「あとで覚えてて」
私は小声で言う。
「春くんみたい」
「嫌」
でも。
私も少し笑った。
◇
昼休み。
私は愛ちゃんと食堂へ向かった。
竹下くんは小野寺くんたちと少し離れた席へ座っている。
昨日よりさらに普通に話している。
サッカー部の友達も何人かいて、笑い声も聞こえる。
それだけで。
少し安心する。
「真理」
愛ちゃんが箸を持ちながら言う。
「何」
「明日の準備」
「服は決まった」
「髪も?」
「白いピン」
「バッグ」
私は止まった。
「まだ」
「そこ忘れる?」
「昨日服で頭いっぱいだった」
愛ちゃんがため息を吐く。
「茶色の小さいやつでいいじゃん」
「前にも使った」
「じゃあ白のショルダー」
「持ってる」
「それでいい」
私は少し考える。
「春斗、どっち好きかな」
愛ちゃんがじっと私を見る。
「何」
「全部春くん基準」
言われて。
少し止まった。
「……駄目?」
「駄目じゃない」
愛ちゃんは少し笑う。
「むしろ恋人っぽい」
胸が少し温かくなる。
「前さ」
愛ちゃんが続ける。
「竹下くんとのデートの服、春くんにも可愛いって言われたかったでしょ」
「うん」
「でも今は」
愛ちゃんが私を見る。
「春くんにだけ見てもらいたいんじゃない?」
その言葉が。
胸へゆっくり落ちる。
私は少し考える。
明日。
春斗に見てもらう。
春斗に可愛いと言ってもらう。
それを楽しみにしている。
「……うん」
私は答えた。
「そうかも」
「変わったね」
「うん」
竹下くんを好きだったことは嘘ではない。
でも。
今。
可愛いと思ってほしい人は。
春斗だ。
◇
少しして。
竹下くんが席を立ち、こちらへ歩いてきた。
私は少しだけ緊張する。
「久保さん」
「うん」
「明日」
胸が少し動く。
「うん」
「デート」
「うん」
竹下くんは少しだけ笑う。
「楽しみ?」
聞かれる。
私は迷った。
でも。
もう曖昧にはしない。
「うん」
はっきり答えた。
「すごく楽しみ」
竹下くんの表情が一瞬だけ硬くなる。
それでも。
すぐに頷いた。
「そっか」
「うん」
「それなら、よかった」
胸が少し痛む。
でも。
以前とは違う。
「竹下くん」
「何」
「明日、本当に連絡しない?」
聞いてから。
自分でも少し変な質問だと思った。
竹下くんが少し笑う。
「してほしい?」
「違う!」
すぐに否定した。
「分かってる」
竹下くんが少し笑う。
その笑い方。
前より。
少しだけ自然。
「しないよ」
「うん」
「明日、俺部活だし」
「そっか」
「だから考える暇ない」
「嘘」
「少しはある」
竹下くんが苦笑した。
「でも」
少しだけ真面目な顔になる。
「久保さんが楽しみなら、それでいい」
胸が痛い。
でも。
今は。
ちゃんと受け取る。
「ありがとう」
竹下くんは頷いた。
「うん」
それだけ言い。
自分の席へ戻っていった。
愛ちゃんが横で少しだけ息を吐く。
「すごいね」
「何が」
「ちゃんと前進してる」
「うん」
「竹下くんも」
「うん」
「真理も」
私は少しだけ笑った。
「うん」
もう振り返らない。
なんて。
言うつもりはない。
竹下くんは大事な人。
でも。
明日は。
春斗との日。
◇
放課後。
昇降口。
春斗はいつもの場所で待っていた。
私を見ると。
「おかえり」
言う。
今日は。
私は。
少しだけ迷ってから。
「ただいま」
返した。
春斗の目が少し大きくなる。
「今」
「何」
「ただいまって」
「言った」
「うん」
「何」
「かなり嬉しい」
「また」
「だって」
春斗は少し笑う。
私も笑った。
学校を出る。
少し歩く。
生徒の数が減ってくる。
いつもの角。
春斗が右手を差し出す。
私は迷わず取る。
最近は。
ここで手を繋ぐことが。
本当に自然になってきた。
「春斗」
「何」
「明日」
「うん」
「楽しみ」
自分から言った。
春斗がこちらを見る。
「俺も」
繋いだ手を少し強く握られる。
「かなり」
「知ってる」
「何で」
「天気三回」
「母さん」
春斗が少しむっとする。
私は笑った。
「あと」
「何」
「服」
「うん」
「明日」
少し恥ずかしい。
でも。
言いたい。
「ちゃんと可愛いって言って」
春斗の歩く速度が少しだけ遅くなる。
「言う」
「本当に?」
「うん」
「写真より変でも?」
「変じゃない」
「まだ直接見てない」
「写真で見た」
「直接だよ」
春斗は少しだけ私を見る。
「直接の方が絶対可愛い」
顔が一気に熱くなる。
「春斗」
「何」
「最近ずるい」
「何が」
「全部」
春斗は笑う。
「真理も」
「何が」
「朝」
「うん」
「明日、俺を一番見るって言った」
思い出し。
また顔が熱い。
「本当だよ」
「うん」
「だから」
春斗が少し立ち止まり。
私を見る。
「俺も明日、真理だけ見る」
胸が強く鳴った。
周囲には。
ほとんど人がいない。
手は繋いだまま。
春斗が近い。
明日。
一日。
もっと近くにいる。
「……うん」
私は。
それしか。
言えなかった。
◇
帰り道。
春斗は少し話題を変えた。
「木下書房」
「うん」
「店主、絶対ニヤニヤする」
「春斗の相談知ってるから?」
「うん」
「私、何て言えばいいかな」
「普通でいい」
「付き合いました?」
「俺が言う」
「春斗が?」
「うん」
「恥ずかしい」
「俺も」
「見えない」
「かなり」
でも。
春斗は。
自分で言いたい。
その気持ちは。
分かる。
「じゃあ春斗から言って」
「うん」
「私は」
少し考える。
「ありがとうって言う」
「何で」
「春斗の相談、聞いてくれたから」
春斗の顔が少し柔らかくなる。
「それ言ったら喜ぶ」
「本当?」
「うん」
「じゃあ言う」
木下書房。
私にとって。
少しずつ。
特別な場所になっている。
春斗が。
私の知らなかった自分を。
話していた場所。
明日。
そこへ。
恋人として一緒に行く。
それも。
楽しみだった。
◇
夜、午後七時三十一分。
私は明日持っていくバッグを選んでいた。
床には、昨日決めた服がきれいに並べてある。
その横へ。
白い小さなショルダーバッグを置く。
鏡を見る。
まだ着替えていない。
それでも。
明日の自分。
想像。
する。
春斗。
見る。
何て言う。
『かなり可愛い』
昨日。
写真。
言った。
直接言われたら。
きっと。
普通ではいられない。
「……普通にしよう」
自分へ言い聞かせる。
たぶん無理だ。
そのとき。
スマートフォンが震える。
春斗。
『準備できた?』
『まだ』
『何してる』
『バッグ』
『写真』
『バッグだけ?』
『うん』
白いショルダーバッグを撮って送る。
すぐ既読。
『いい』
『本当?』
『服合う』
『春斗、分かるの?』
『昨日の写真覚えてる』
胸が少し鳴る。
『保存した?』
送る。
既読。
少し長い。
『した』
私は固まった。
『何で』
『彼女』
『理由になってない』
『可愛かった』
顔が熱い。
『消して』
『嫌』
『春斗』
『俺だけ持ってる』
胸が大きく鳴った。
少し。
独占欲。
ある言葉。
でも。
嫌じゃない。
『変なのに使わないで』
『使わない』
『本当?』
『見るだけ』
それはそれで恥ずかしい。
『もう寝る』
『早い』
『逃げる』
『明日』
春斗はすぐ返す。
『逃がさない』
心臓が跳ねた。
『何それ』
『デート』
『怖い』
すぐに。
『嫌がることしない』
ちゃんと。
戻る。
春斗。
分かってる。
『うん』
『でも』
『何』
『手は繋ぐ』
『うん』
『いっぱい』
胸が温かくなる。
『うん』
私は返した。
◇
午後九時四十七分。
布団へ入る。
明日。
九時。
岩瀬駅。
春斗と待ち合わせ。
服。
用意。
バッグ。
用意。
財布。
ある。
スマートフォン。
充電。
折り畳み傘。
一応入れる。
天気。
晴れ。
準備は。
大丈夫。
でも。
心は。
全然大丈夫じゃない。
楽しみ。
緊張。
嬉しい。
恥ずかしい。
そして。
キス。
少し。
期待。
全部。
一緒にある。
私は枕を抱いた。
でも。
一瞬。
春斗に抱き締められる方がいい。
そんなことを思ってしまい。
また顔が熱くなる。
「……明日」
小さく呟く。
春斗。
会える。
一日。
恋人として。
過ごす。
幼馴染としてではなく。
彼氏と彼女として。
それを。
ちゃんと。
楽しみたい。
スマートフォン。
最後。
通知。
『おやすみ』
春斗。
『おやすみ』
返す。
そして。
少しだけ迷う。
『明日、早く会いたい』
送信。
すぐ既読。
『俺も』
続けて。
『かなり』
私は少し笑う。
『知ってる』
『何で』
『大事だから』
また。
春斗の言葉。
使う。
『それ俺の』
『私のにもする』
少し間。
『ならいい』
会話が終わる。
私は画面を消し。
暗い部屋で目を閉じる。
明日。
春斗に会う。
たった一晩。
それだけなのに。
今の私には。
少し長すぎる。
布団の中で何度か寝返りを打ちながら。
私は。
もう。
明日が待ちきれなくなっていた。




