第38話 彼氏になった幼馴染と初めて休日デートを決めた夜、私はキスのことまで考えて眠れなくなりました
水曜日の夜、午後八時十二分。
私は自室のベッドへ仰向けになり、白い天井を見つめながら、今日だけで何度目になるのか分からないため息を吐いた。窓の外はもう完全に暗く、住宅街には家々の明かりが静かに並んでいる。遠くを走る車の音が時折聞こえる以外、部屋の中は落ち着いていた。
その静けさとは反対に、私の頭の中は全然静かではなかった。
今日はいろいろありすぎた。
昼休みには、春斗と竹下くんが渡り廊下で真正面からぶつかった。放課後には三人でもう一度話し、竹下くんは私へまだ好きだと伝えたうえで、その気持ちを今日一日で全部消すことはできないとはっきり言った。
春斗も、竹下くんを完全に受け入れたわけではない。
まだ嫌いだと言った。
私を好きなままでいることも、本当は嫌だと正直に言った。
それでも最後には、好きな気持ち自体を無理に消せとは言わなかった。
竹下くんも、春斗へ「真理を大事にしろ」と言った。
友達になったわけではない。
完全に和解したわけでもない。
それでも三人とも、昨日までとは少し違う場所へ進んだのだと思う。
私は枕元に置いたスマートフォンへ手を伸ばした。
画面をつけると、一番上には春斗とのトーク画面が残っている。
今日の帰り道、駅へ着いてから別れるまでにも少しだけやり取りをした。
『家着いた』
『俺も』
『今日は疲れた』
『俺も』
『竹下くん大丈夫かな』
『すぐそれ』
『心配するでしょ』
『分かってる』
『春斗』
『何』
『怒った?』
『少し』
『ごめん』
『それは謝らなくていい』
私は、その最後の一文をもう一度見た。
春斗は本当に変わった。
付き合う前だったら、少しくらい嫌なことがあっても「別に」で済ませていたと思う。私が竹下くんの話をしても、本を開いて何でもない顔をして、それ以上のことを言わなかった。
今は違う。
嫌なら嫌と言う。
嫉妬したら嫉妬したと言う。
会いたかったら会いたいと言う。
私も少しずつ、春斗へ本音を言えるようになっている。
それが恋人になるということなのかもしれない。
でも、まだ分からない。
恋人になって、まだ数日しか経っていない。
何をしたら恋人らしいのか。
どこまで近づいていいのか。
何を言ったら重いのか。
どこからが普通なのか。
全部手探りだった。
私はスマートフォンを胸の上へ置き、そのまま目を閉じる。
すると、すぐに端末が震えた。
慌てて画面を見る。
春斗。
『真理』
たった名前を呼ばれただけで胸が鳴る。
『何』
返信。
『土曜』
私は少し身体を起こした。
『うん』
『空いてる?』
土曜日。
頭の中で予定を確認する。
特にない。
『空いてる』
送信すると、すぐに既読がついた。
数秒後。
『デートしよう』
私は完全に動きを止めた。
「……デート」
無意識に声へ出していた。
短い文章。
それだけなのに。
頭の中では、その言葉だけが妙に大きく響いた。
春斗とデート。
恋人になってから、初めてちゃんと予定を決めてする休日デート。
もちろん、付き合った日にも一緒に出かけた。
公園で告白して。
正式に恋人になって。
そのあと喫茶店にも行った。
でも、あの日は私が急に春斗を呼び出して、その場で関係が変わった流れのまま出かけただけだった。
今度は違う。
最初から。
彼氏と彼女として。
二人で時間を決めて、待ち合わせをして出かける。
そう考えただけで、胸の奥が急に熱くなる。
『行く』
ほとんど迷わず送った。
すぐに返ってくる。
『早い』
『行きたいから』
送ったあと、自分で少し恥ずかしくなる。
でも取り消さない。
既読。
少しして。
『今かなり嬉しい』
また、この言葉。
『そんなに?』
『そんなに』
思わず口元が緩む。
『どこ行く?』
聞く。
『木下書房』
私は少し笑った。
『やっぱり?』
『店主に報告』
『付き合ったって?』
『うん』
『恥ずかしい』
『俺は言いたい』
『何で』
『ずっと相談乗ってもらった』
その返事を見た瞬間、少しだけ胸が温かくなった。
木下書房。
春斗にとって、ただの古本屋ではない。
私の知らないところで、春斗が自分の感情と向き合うきっかけになった場所。
石井さんのこと。
私のこと。
好きなのに言えないこと。
待つこと。
それを店主さんへ話していた。
だったら。
付き合えたと報告したいという気持ちは、少し分かる。
『じゃあ行く』
『そのあと』
『うん』
『水戸』
『何する?』
『真理がしたいこと』
困る。
そう言われると、逆に何も思いつかない。
映画。
一番最初に浮かんだ。
でも。
竹下くんと初めて二人で出かけたときも、映画だった。
だから春斗との最初の正式なデートまで映画にするのは、何となく違う気がした。
水族館。
少し遠い。
服屋。
春斗はたぶん長時間耐えられない。
本屋。
カフェ。
散歩。
考えれば考えるほど、何でもよく思えてくる。
だって。
春斗と二人なら。
何をしていても、たぶん楽しい。
そのことに気づくと。
逆に決めるのが難しくなった。
『春斗は?』
聞く。
少しして。
『真理といればいい』
「……ずるい」
思わず声へ出た。
画面を見ているだけなのに、頬が熱くなる。
『ちゃんと決めて』
『じゃあ本屋』
『木下書房行くよ』
『別の』
『また本屋?』
『嫌?』
『嫌じゃない』
『じゃあ本屋』
春斗らしい。
『春斗らしい』
『真理も好きだろ』
『うん』
私も本は好きだ。
だから結局。
私たちはそういうところが似ている。
少し笑ったところで。
私はあることを思い出した。
交換した本。
春斗から借りている一冊。
『君の隣を選び直す』
まだ最後まで読んでいない。
『本』
送る。
『何』
『まだ読み終わってない』
『土曜までに』
『宿題?』
『感想聞く』
『無理』
『読む』
『命令』
『彼氏』
『便利にしないで』
『使える』
また。
最近何度もするやり取り。
それでも、飽きない。
むしろ。
こういう会話が少しずつ恋人同士の日常になっていくのが嬉しかった。
◇
午後八時二十九分。
私はベッドから降り、机へ向かった。
春斗から借りた本を手に取り、椅子へ座る。
表紙には。
『君の隣を選び直す』
今の私には。
少し刺さりすぎるタイトルだった。
物語は、昔から近くにいた男女が一度それぞれ別の道へ進み、離れてから改めて互いの大切さへ気づく話だ。
近すぎる。
だから。
気づかない。
でも。
離れて。
初めて分かる。
春斗がこの本を私へ選んだ理由。
以前より。
ずっとよく分かる。
私はページを開いた。
少しずつ読む。
でも。
なかなか内容が頭へ入ってこない。
理由は。
本ではない。
土曜日。
春斗。
デート。
何を着る。
どこを歩く。
手を繋ぐ。
たぶん。
抱き締める。
そして。
そこまで考えたところで。
頭の中へ。
もう一つ。
浮かぶ。
キス。
私は読んでいた行の途中で完全に止まった。
「……」
付き合った日。
公園。
春斗は聞いた。
『キスしていい?』
私は。
『まだ』
と答えた。
嫌ではない。
そう言った。
でも。
怖かった。
恋人になったその日に。
いきなり。
そこまで進むのが。
だから。
待ってほしいと伝えた。
春斗は。
すぐに待つと言った。
その代わり。
怖くなくなったら教えてほしい。
また自分から聞く。
そういう約束になった。
私は本を開いたまま、机へ肘をつく。
土曜日。
正式なデート。
もしかしたら。
聞かれる。
「……いやいや」
首を振る。
まだ。
付き合って数日。
早い。
でも。
高校生。
恋人。
キス。
別に変なことではない。
母も。
もう普通にキスの話をしてきた。
愛ちゃんだって。
たぶん。
『したいならすればいいじゃん』
くらい平然と言う。
「……無理」
私は机へ額をつけた。
でも。
一度考えてしまうと。
止まらない。
春斗の顔。
近い。
抱き締められて。
目を見て。
少しずつ。
距離が縮まる。
唇が。
「うわぁぁぁぁ……」
両手で顔を覆う。
何を考えているんだろう。
春斗はまだ何も言っていない。
土曜日にキスを聞くとも言っていない。
それなのに。
私は勝手に想像して。
勝手に恥ずかしくなっている。
しかも。
一番困るのは。
嫌ではないことだった。
春斗とキス。
怖い。
でも。
少し。
してみたい。
そう思っている自分がいる。
それを自覚した瞬間。
さらに顔が熱くなる。
そのとき、スマートフォンが震えた。
私は少し驚いて画面を見る。
春斗。
さっきまで考えていた本人。
一瞬。
開くのをためらった。
でも。
結局。
見る。
『真理』
『何』
『土曜』
また。
心臓が大きく鳴る。
『うん』
『服』
私は少し首を傾げた。
『何』
『何着る?』
『まだ決めてない』
すると。
『前』
嫌な予感。
『竹下とのデートの服』
胸が少しだけ痛む。
でも。
続く。
『俺に見せた』
覚えている。
竹下くんとの最初のデート。
私は春斗へ服の写真を送った。
可愛いと言ってほしかった。
竹下くんとのデートなのに。
春斗にも女の子として見てほしかった。
今思えば。
あの時から。
私はかなりおかしかった。
『うん』
返す。
少し間。
『今回は』
胸が鳴る。
『俺に最初に見せて』
私は画面を見たまま動けなくなった。
前。
竹下くんにも言われた。
『今日、俺と出かける服なら、最初に俺が見たかったかも』
だから。
二回目のデートでは。
竹下くんへ最初に見せた。
そして今。
春斗が。
同じことを言っている。
でも。
今回は。
迷わなかった。
『うん』
すぐに返す。
そして。
『春斗に最初に見せる』
送信。
既読。
少し長い。
『真理』
『何』
『かなり嬉しい』
また。
私は自然に笑う。
『大事だから?』
『大事だから』
胸が温かくなる。
『可愛いって言って』
『言う』
『見てないのに?』
『可愛い』
『適当』
『真理だから』
顔が熱い。
『やめて』
『何で』
『恥ずかしい』
『彼女』
『それ便利に使いすぎ』
『使える』
何度同じやり取りをしても。
私は。
まだ。
「彼女」という言葉へ弱い。
それでも。
嫌ではない。
むしろ。
最近。
少し待ってしまう。
春斗が。
そう呼ぶことを。
◇
午後八時五十三分。
私は愛ちゃんへ電話を掛けた。
数回の呼び出し音のあと。
『もしもし』
「愛ちゃん」
『何。声変』
「土曜」
『うん』
「春斗とデート」
一秒。
沈黙。
『やっと?』
「やっとって何!」
『付き合ってるんだから行くでしょ』
「初めてちゃんと予定決めて」
『ああ、そういう意味』
愛ちゃんの声が少し楽しそうになる。
『どこ?』
「木下書房」
『本屋?』
「春斗らしいでしょ」
『そのあと?』
「水戸」
『何するの』
「まだ決めてない。本屋とか」
『また?』
「春斗だから」
『真理も本好きじゃん』
「うん」
『ならいいでしょ』
そこで少し。
会話が止まる。
私は。
本当に聞きたいことを言えない。
すると。
愛ちゃんが。
すぐに気づいた。
『何』
「何が」
『まだ何かあるでしょ』
「ない」
『真理』
「……」
『キス?』
「何で分かるの!?」
思わず声が大きくなった。
電話の向こうで。
愛ちゃんが笑う。
『分かるよ』
「何で」
『デートって言って、そのあと急に黙ったから』
「それだけ?」
『付き合いたての女子が急に黙ったら大体その辺』
「何その統計」
『愛ちゃん統計』
「信用できない」
『でも当たった』
「……うん」
『春くんに言われた?』
「まだ」
『まだ?』
「前に」
『うん』
「付き合った日に、していいって聞かれた」
電話の向こうが少し静かになる。
『それ初耳』
「言ってなかった?」
『聞いてない』
「断った」
『うん』
「嫌じゃないけど、まだって」
『うん』
「怖くなくなったら、また聞くって」
『春くんが?』
「うん」
愛ちゃんの声が少し柔らかくなった。
『ちゃんとしてるね』
「春斗?」
『うん。ちゃんと確認してる』
「かなりしたいって言った」
『そこは春くんだね』
思わず笑う。
「土曜、聞かれるかな」
『知らない』
「愛ちゃん」
『私、春くんじゃないもん』
「そうだけど」
『真理はどうしたいの』
その一言で。
笑っていた気持ちが少し静かになった。
「分からない」
『嫌?』
「嫌じゃない」
『じゃあ、したい?』
「……」
すぐには答えられなかった。
愛ちゃんは。
急かさない。
待つ。
私は。
春斗とキスをする自分を。
もう一度。
考える。
「少し」
『うん』
「してみたい」
言った瞬間。
顔が熱くなる。
『ならいいじゃん』
「でも怖い」
『何が?』
「分からない」
『初めてだからじゃない?』
「たぶん」
『それ普通だと思う』
少し安心する。
「キスしたら」
『うん』
「もっと変わる?」
愛ちゃんは少し考えた。
『何が?』
「春斗との関係」
『もう彼氏でしょ』
「そうだけど」
『キスしたら恋人レベル二になるとかないよ』
私は思わず笑った。
「ゲームみたい」
『真理が考えすぎ』
「分かってる」
『真理って、何かする前に意味を決めすぎるんだよ』
「意味?」
『竹下くんと手を繋いだら答えが出るかも、とか』
「うん」
『デートしたら誰が一番好きか分かるかも、とか』
「うん」
『今度はキスしたら関係が変わるかもって考えてる』
「……うん」
全部。
その通りだった。
『でもさ』
愛ちゃんの声が少し真面目になる。
『その瞬間、春くんとキスしたいかだけでいいんじゃない?』
私は黙った。
その瞬間。
春斗と。
したいか。
それだけ。
そこへ。
意味を先につけなくてもいい。
「うん」
私はゆっくり頷いた。
「そうする」
『だから今決めなくていい』
「そのときでいい?」
『いいでしょ。嫌なら嫌、したいならしたい』
「言えるかな」
『春くん待つでしょ』
「うん」
『なら大丈夫』
胸の奥が少し軽くなった。
『服は?』
「まだ」
『明日候補送って』
「お願い」
『任せて』
いつもの愛ちゃん。
それだけで少し安心する。
「愛ちゃん」
『何』
「ありがとう」
『うん』
通話を終えた。
◇
午後九時二十一分。
私はもう一度、春斗から借りた本を開いた。
今度は少しだけ集中できる。
物語は終盤へ入っていた。
主人公と幼馴染。
ずっと近くにいた。
近すぎた。
だから、自分の気持ちへ気づかなかった。
一度離れた。
別の人も見た。
それでも。
また隣へ戻りたいと思った。
最後。
主人公が言う。
『隣にいたから選んだんじゃない。何度離れても、また隣にいたいと思ったから選んだ』
私は。
その文章の上で。
しばらく指を止めた。
春斗。
ずっと。
隣にいた。
でも。
私は。
近いから選んだわけではない。
竹下くんを好きになった。
デートした。
手も繋いだ。
恋をした。
それでも。
春斗を失う未来が。
一番怖かった。
春斗と。
恋人になりたいと。
自分で思った。
だから。
選んだ。
「……似てる」
小さく呟く。
春斗。
絶対。
分かっていて。
この本を選んだ。
少し悔しい。
でも。
嬉しい。
私は。
そのまま。
最後まで読み切った。
本を閉じる。
少しだけ。
目元。
熱い。
スマートフォンを取る。
『読み終わった』
送る。
すぐに既読。
『感想』
『土曜』
『今』
『嫌』
『何で』
『会って言う』
少し間。
『分かった』
続けて。
『泣いた?』
『少し』
『どこ』
『言わない』
『真理』
『土曜』
『分かった』
そして。
『会いたい』
胸が鳴る。
『さっき会った』
『関係ない』
『明日学校』
『土曜デート』
『うん』
『待てない』
『春斗』
『何』
『私も』
そこで指が止まる。
でも。
送る。
『早く会いたい』
既読。
少し長い。
一分も経っていないのに。
長く感じる。
『真理』
『何』
『今行っていい?』
『駄目』
『何で』
『九時半』
『まだ行ける』
『来なくていい』
『会いたい』
『私も』
『じゃあ』
『でも明日』
少し間。
『分かった』
そして。
『土曜いっぱい一緒にいる』
胸が温かい。
『うん』
『朝から』
『何時』
『九時』
『いいよ』
『待ち合わせ』
『岩瀬駅?』
『いつもの』
いつもの駅。
ずっと。
一緒に学校へ行って。
一緒に帰った。
その場所で。
今度は。
恋人として。
待ち合わせをする。
『うん』
私は返した。
◇
午後十時三分。
私は部屋の電気を消し、布団へ入った。
目を閉じる。
でも。
眠れない。
土曜日。
春斗とデート。
木下書房。
水戸。
手を繋ぐ。
たぶん。
抱き締める。
そして。
もしかしたら。
キス。
私は布団を鼻の辺りまで引き上げた。
「……まだ決めない」
小さく言う。
愛ちゃんが言った。
その瞬間。
春斗と。
したいか。
それだけでいい。
今から答えを作らなくていい。
分かっている。
でも。
考えてしまう。
春斗の顔。
近づく。
目を閉じる。
触れる。
ほんの一瞬。
それだけ。
想像しただけで。
心臓が速くなる。
「……無理」
でも。
嫌ではない。
それが。
一番困る。
春斗と付き合った。
恋人になった。
手を繋ぐのも。
抱き締められるのも。
嬉しい。
キスも。
いつか。
したい。
そう思う。
その「いつか」が。
思っていたより近いのかもしれない。
そんなことを考えていると、またスマートフォンが震えた。
春斗。
『おやすみ』
私は少し笑った。
『おやすみ』
送る。
すぐ。
『彼女』
顔が熱い。
でも。
今度は。
私も返す。
『彼氏』
既読。
『かなり嬉しい』
『知ってる』
『何で』
『大事だから』
春斗がよく使う言葉を、そのまま返した。
『取るな』
『早い者勝ち』
『真理』
『何』
『好き』
呼吸が止まりそうになる。
でも。
今日は。
逃げない。
『私も好き』
送った。
それからスマートフォンを伏せ、胸元へ置いた。
土曜日。
恋人になってから初めて、最初からデートとして出かける。
何が起こるのかは分からない。
キスするかもしれない。
しないかもしれない。
それでいい。
ただ。
一つだけ。
今の私は分かっている。
春斗と。
もっと。
恋人になりたい。
幼馴染として重ねてきた時間を消すのではなく、その上へ新しい二人の時間を少しずつ増やしていきたい。
手を繋ぐことも。
抱き締めることも。
いつかキスすることも。
全部。
春斗と。
一つずつ。
増やしていきたい。
そう考えてしまったせいで。
結局、その夜。
私はなかなか眠れなかった。




