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『好きな人がいるので、幼馴染に恋愛相談していたら、なんだか様子がおかしくなりました』   作者: 伊佐波瑞樹


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第36話 彼氏と元好きな人が初めて向き合った日、私はどちらの味方をするのかを決めなければなりませんでした


 水曜日の朝。


 目を覚ました瞬間、私は理由の分からない嫌な予感ではなく、理由のはっきりした重さを胸の奥へ感じた。


 昨日の放課後、春斗には竹下くんと話したことを全部伝えた。


 竹下くんが、今も私を好きだと言ったこと。


 諦めたとは言いたくないと言ったこと。


 そして、春斗へ「完全に自分が消えたと思うな」と伝えてほしいと頼まれたこと。


 何より、その言葉を聞いた春斗が、今まで見たことがないくらい分かりやすく怒ったこと。


 もちろん、春斗は私へ理不尽に当たり散らしたわけではない。


 竹下くんにまだ好きだと言われて、私が少し嬉しかったと正直に話しても、その感情自体を責めることはしなかった。


 嫌だとは言った。


 嫉妬したとも言った。


 それでも、私が謝るべきことと、謝らなくていいことを春斗なりに分けていた。


 最後には、学校を離れたところで手も繋いだ。


 だから、私たちが喧嘩したわけではない。


 それでも。


『俺、竹下と話すかも』


 昨日の帰り道、春斗がそう言ったときの顔が頭から離れなかった。


 普段の春斗は穏やかだ。


 読書が好きで、必要以上に騒がず、面倒事なら避けられるだけ避けたい方だと思う。


 以前は、自分が嫌でも苦しくても、それを私へ見せずに飲み込んでしまうことの方が多かった。


 そんな春斗が。


 竹下くんの話になると、あれだけ露骨に感情を出した。


 嫌だ。


 嫉妬する。


 殴りたい。


 話したい。


 全部、隠さなかった。


 怖い。


 でも。


 少しだけ分かる。


 もし逆だったら。


 もし石井さんが、今も春斗を好きだと言い続けていたら。


 もし春斗へ直接ではなく、私を通して「私はまだ好きだから」と伝えてきたら。


 たぶん、私も嫌だ。


 絶対に嫌だ。


 春斗が怒ること自体は理解できる。


 ただ。


 竹下くんの気持ちまで、私には分かってしまう。


 本気で好きだった。


 振られた。


 その翌日には、その相手が別の人と付き合った。


 しかも、その相手はずっと近くにいた幼馴染。


 簡単に「諦めて」と言えるような状況ではない。


 だから苦しい。


 私は枕元のスマートフォンへ手を伸ばした。


 午前五時二十分。


 通知は一件。


『おはよう』


 春斗だった。


 それだけで、少し安心する。


 昨日の話を引きずって、今朝は気まずくなるのではないかと、どこかで心配していた。


『おはよう』


 返す。


 既読はすぐについた。


『起きるの早い』


『いつもくらい』


 少し間。


『今日』


 そこで文章が途切れた。


 私は画面を見つめたまま待つ。


 数秒。


 十秒。


 二十秒。


 そして。


『竹下と話す』


 来た。


 胸が重くなる。


『今日?』


『うん』


『放課後』


『春斗』


 名前だけ送る。


 すぐ既読。


『逃げない』


 短い。


 でも、強かった。


 昨日までなら、面倒だからやめるとか、少し様子を見るとか、そんな選択もしたかもしれない。


 でも今の春斗は違う。


 自分が嫌だと思ったことから逃げない。


 私はしばらく画面を見た。


 止めるべきだろうか。


 でも。


 止めてもたぶん無理だ。


 春斗は行く。


 行かなければ、きっと自分の中でずっと引っかかったままになる。


 それなら。


『喧嘩しないで』


 送る。


 すぐ既読。


『努力する』


 昨日と同じだ。


 思わず苦笑する。


『努力だけ?』


『保証はできない』


『春斗』


 既読。


『でも』


 続く。


『殴らない』


『当たり前』


『真理が嫌がるから』


 胸が少し温かくなった。


 完全に冷静ではない。


 でも、私の嫌がることはしないと決めている。


『学校終わったら迎えに来る』


 続けて春斗から届く。


『迎え?』


『彼女だから』


 またそれだ。


『便利な言葉』


『便利』


『認めるんだ』


『認める』


 少しだけ。


 いつもの調子へ戻った。


 それが嬉しかった。


     ◇


 登校中。


 今日は私の家が送迎当番だった。


 母の運転する車の後部座席へ、いつものように春斗と並んで座る。


 昨日までなら。


 付き合ったばかりの恥ずかしさの方が大きかった。


 肩が近い。


 手が近い。


 彼氏と彼女。


 それだけで何を話せばいいのか分からなくなっていた。


 でも今日は違う。


 私も春斗も。


 少しだけ静かだった。


「二人とも」


 母がバックミラー越しにこちらを見る。


「今日は落ち着いてるね」


「そう?」


 私は答える。


「うん。昨日はもっと分かりやすかった」


「何が」


「全部」


「お母さん」


 母は少し笑う。


「喧嘩した?」


「してない」


「してない」


 私と春斗。


 また同時だった。


 母が笑う。


「じゃあ何かあるのね」


 鋭い。


「別に」


 春斗が言う。


 でも。


 母は見逃さない。


「春斗くん」


「はい」


「何か怒ってる?」


 私の心臓が跳ねた。


 春斗は少しだけ窓の外を見る。


「少し」


 正直だった。


「誰に?」


「……」


 そこは答えない。


 母は少し考えるように前を見た。


「なるほど」


「何が」


 私が聞く。


「男の子同士のやつ」


「分かるの?」


「だいたいね」


 それだけ言って、母はそれ以上踏み込まなかった。


 助かった。


 でも。


 車内へ残った沈黙の中で。


 春斗の右手が、膝の上で少し握られていることに気づいた。


 私は。


 その手へ触れようか迷った。


 でも。


 母の前。


 少し恥ずかしい。


 だから。


 ほんの少しだけ。


 自分の小指を。


 春斗の手の甲へ触れさせた。


 春斗がこちらを見る。


 私は前を見る。


 何も言わない。


 でも。


 春斗の手から。


 少し力が抜けた。


     ◇


 学校。


 一時間目。


 二時間目。


 授業。


 内容がほとんど頭に入らない。


 教科書は開いている。


 黒板も見ている。


 ノートも取っている。


 でも。


 意識は別のところにある。


 春斗。


 竹下くん。


 放課後。


 話す。


 何を話すのだろう。


 どこまでぶつかるのだろう。


 そして私は。


 その場にいるべきなのか。


 いない方がいいのか。


「真理」


 休み時間。


 愛ちゃんが呼ぶ。


「何?」


「顔」


「何」


「ずっと心配してる顔」


 図星だった。


「分かる?」


「分かる」


「そんなに?」


「かなり」


 愛ちゃんはため息をつき、頬杖をついた。


「春くん?」


「うん」


「竹下くん?」


「うん」


「両方?」


「うん」


「大変だね」


「他人事」


「他人事だから」


「酷い」


 愛ちゃんは少し笑った。


 でも。


 次の言葉は。


 真面目だった。


「真理」


「何?」


「今日、どっちの味方するの?」


 胸が止まる。


「え?」


「春くんと竹下くん」


「味方とか」


「絶対そうなる」


 愛ちゃんは断言する。


「二人とも今かなり意地張ってる」


「うん」


「で、真理はその真ん中」


 私は黙る。


 否定できない。


 確かに。


 そうだ。


「私」


 少し考える。


「竹下くんには幸せになってほしい」


「うん」


「傷ついてほしくない」


「うん」


「でも」


 私は小さく息を吸う。


「春斗を選んだ」


 愛ちゃんが頷いた。


「じゃあ答え出てる」


「え?」


「味方は春くん」


 私は少し眉を寄せる。


「でも竹下くんも」


「大事なんでしょ」


「うん」


「それと、誰の隣に立つかは別」


 愛ちゃんは私を真っ直ぐ見る。


「竹下くんが傷ついてるからって、真理がそこを曖昧にしたら、今度は春くんが傷つくよ」


 胸へ刺さる。


「春くんを選んだんだから」


「うん」


「春くんが間違ったことしたら止める」


「うん」


「でも、二人が同じだけ苦しいからって、真ん中に戻るのは違う」


 私はしばらく何も言えなかった。


 竹下くんを大事に思う。


 春斗も大事。


 でも。


 私はもう。


 二人の間に立って選ぶ前の自分ではない。


 選んだ。


 春斗を。


 恋人として。


「……うん」


 私は小さく頷いた。


「分かった」


「本当?」


「うん」


「じゃあ」


 愛ちゃんは少しだけ笑う。


「今日、逃げないでね」


「逃げない」


     ◇


 昼休み。


 事件は。


 思っていたより早く起きた。


 特進棟と商業棟を繋ぐ渡り廊下。


 私は愛ちゃんと、自動販売機へ飲み物を買いに向かっていた。


 昼休みの廊下は人が多い。


 購買へ向かう生徒。


 別クラスの友人を呼びに行く生徒。


 窓際で話している女子。


 そんな中。


 向こうから歩いてくる人影。


 春斗。


 そして。


 反対側から。


 竹下くん。


 私は思わず足を止めた。


「え」


 愛ちゃんも気づく。


「最悪」


 小さく呟いた。


 どちらが最悪なのかは分からない。


 このタイミングか。


 この場所か。


 それとも二人ともなのか。


 春斗も。


 竹下くんも。


 真っ直ぐ歩いてくる。


 偶然。


 なのかもしれない。


 でも。


 二人とも。


 相手へ気づいても進む速度を変えなかった。


 十メートル。


 五メートル。


 三メートル。


 そして。


 止まる。


 春斗。


 竹下くん。


 向かい合う。


 周囲の生徒も。


 少しずつ気づき始める。


 昨日から。


 いや。


 もっと前から。


 学校内で噂になっている二人。


 私を巡って。


 それぞれ違う形で。


 名前を知られている。


「竹下」


 春斗が先に口を開いた。


 声は。


 低い。


 でも。


 怒鳴ってはいない。


 竹下くんも春斗を見る。


「何」


 その瞬間。


 渡り廊下の空気が少し変わった。


 私は。


 動けなかった。


 愛ちゃんも。


 今は何も言わない。


「放課後話そうと思ってた」


 春斗が言う。


「うん」


 竹下くんは短く頷いた。


「俺も」


 逃げる気はない。


 それだけは。


 分かった。


「じゃあ放課後」


 春斗。


「いいよ」


 竹下くん。


 本当なら。


 そこで終わればよかった。


 昼休み。


 人が多い。


 こんな場所で話すことじゃない。


 春斗もたぶん。


 そう思っていた。


 でも。


 竹下くんが。


 春斗を呼び止めた。


「春斗くん」


「何」


「伝わった?」


 心臓が跳ねる。


 あの言葉だ。


 昨日。


 私へ言った。


『春斗くんに、完全に俺が消えたと思われるのは腹立つ』


「伝わった」


 春斗の声が少し低くなる。


 竹下くんは。


 私の方を一瞬見た。


 それから。


 春斗へ視線を戻す。


「俺、まだ真理好きだから」


 周囲の空気が一気に変わった。


 ざわめき。


 小さな声。


 誰かが足を止める。


 聞いている。


 みんな。


 愛ちゃんが隣で小さく舌打ちした。


「馬鹿」


 誰に向けたのか分からない。


 竹下くんか。


 春斗か。


 それとも。


 こんな場所で始めた二人ともか。


 春斗は数秒黙った。


 そして。


「知ってる」


 答えた。


 竹下くんの目が少し細くなる。


「だから?」


 明らかに。


 挑発。


 春斗も分かったはずだ。


「だから何だよ」


 声が一段低くなる。


「別に」


 竹下くんは笑わない。


「伝えただけ」


「それを俺に伝える意味は?」


「あるだろ」


 竹下くんの声も少し強くなる。


「俺はまだ諦めてない」


 その言葉。


 前より。


 はっきりしていた。


 周囲がまたざわつく。


 私は。


 身体が冷たくなるような感覚を覚えた。


 やめて。


 そう思う。


 でも。


 声が出ない。


 竹下くんの気持ちも。


 春斗の気持ちも。


 分かる。


 だから。


 どちらへ何を言えばいいのか。


 一瞬。


 分からなくなった。


「竹下」


 春斗が言う。


 怒鳴らない。


 でも。


 声は強い。


「真理は俺の彼女だ」


 初めてだった。


 学校で。


 人がいる前で。


 春斗が。


 あれほどはっきり。


 私を彼女だと言った。


 胸が鳴る。


 恥ずかしい。


 でも。


 今は。


 それより。


 その言葉に含まれている春斗の感情の方が強く伝わる。


 竹下くんも。


 一瞬だけ黙った。


 でも。


「知ってる」


 返す。


 そして。


「だから?」


 同じ言葉。


 春斗の眉が寄る。


「好きなままじゃ駄目なのか」


 竹下くんの声。


 苦しい。


 強い。


 でも。


 怒りだけではない。


 私は。


 胸が痛くなる。


 好きな気持ちは。


 簡単には消えない。


 それを。


 昨日。


 竹下くん本人から聞いた。


 だから。


 竹下くんだけが悪いとは思えない。


 でも。


 春斗も。


 悪くない。


「駄目じゃない」


 春斗が答えた。


 少し意外だった。


 竹下くんも。


 少しだけ目を動かす。


「好きなのは勝手だと思う」


 春斗は続ける。


「でも」


 目を逸らさない。


「俺は嫌だ」


 真っ直ぐだった。


「俺の彼女を、まだ好きだって言われて平気な男じゃない」


 渡り廊下が。


 一瞬。


 完全に静かになったように感じた。


 竹下くんも。


 黙る。


 それから。


 ほんの少し。


 苦い笑い。


「そういうところ」


「何」


「前より嫌い」


 春斗も。


 すぐ。


「俺も」


 即答。


 竹下くんが少しだけ笑った。


 春斗は。


 笑わない。


 でも。


 殴り合いにはならない。


 まだ。


 理性がある。


 私は。


 少しだけ息を吐いた。


「放課後」


 竹下くんが言う。


「ちゃんと話そう」


「うん」


 春斗が答える。


「逃げるなよ」


「逃げない」


 そこで。


 終わった。


 二人は。


 すれ違う。


 春斗は商業棟側へ。


 竹下くんは特進棟側へ。


 でも。


 残された空気は。


 重い。


 周囲にいた生徒たち。


 すぐには動かない。


 囁き。


 視線。


 全部。


 私へ集まる。


 愛ちゃんが。


 隣で。


 小さくため息を吐く。


「今日、絶対何か起きる」


 私も。


 同じことを思っていた。


     ◇


 昼休みが終わる少し前。


 私は一人で教室へ戻っていた。


 愛ちゃんは先生に呼ばれて、別の廊下へ向かった。


 頭の中では。


 さっきのやり取りが。


 何度も。


 繰り返される。


『俺はまだ諦めてない』


『真理は俺の彼女だ』


 どちらも。


 本気。


 だから。


 怖い。


「久保さん」


 後ろから呼ばれた。


 振り返る。


 竹下くん。


 さっきより。


 少しだけ。


 落ち着いている。


 でも。


 表情は。


 完全に平気ではない。


「何?」


 私は立ち止まった。


 竹下くんも。


 少し距離を空けて止まる。


「さっき」


「うん」


「ごめん」


 意外だった。


「何が」


「人いるところで言った」


 私は少し黙る。


 竹下くんは。


 視線を逸らした。


「真理が困るの分かってた」


「うん」


「でも」


 一度。


 小さく息を吐く。


「止まらなかった」


 それが。


 一番正直な答えだった。


「竹下くん」


「うん」


「春斗に言いたかった?」


「言いたかった」


「昨日私に頼んだのに?」


「頼んだけど」


 少しだけ。


 苦く笑う。


「本人見たら、自分で言いたくなった」


 高校生らしい。


 意地。


 嫉妬。


 負けたくない気持ち。


「でも」


 竹下くんは続ける。


「真理を困らせたいわけじゃない」


「うん」


「そこは本当」


 私は。


 頷く。


「分かってる」


「本当?」


「うん」


「でも」


 私は。


 今度は。


 ちゃんと言う。


「人前ではもうやめて」


 竹下くん。


 少し。


 目を見開く。


「うん」


「私も困る」


「うん」


「春斗も」


 そこで。


 竹下くんの顔。


 少し。


 固くなる。


 でも。


 私は止めない。


「春斗も傷つく」


「……うん」


「私」


 愛ちゃんの言葉。


 思い出す。


『誰の隣に立つかは別』


「竹下くんのこと、大事だよ」


「うん」


「好きだったことも」


「うん」


「全部、なかったことにしない」


 竹下くん。


 少し。


 目を伏せる。


「でも」


 私は。


 自分の胸の奥へ。


 ちゃんと確認する。


「今、私が恋人として一番大事にするのは春斗だから」


 竹下くんの表情が。


 少しだけ。


 歪む。


 痛い。


 言う私も。


 苦しい。


 でも。


 曖昧にはしない。


「そっか」


 竹下くん。


 小さく言う。


「うん」


 少し沈黙。


 それでも。


 竹下くんは。


 逃げなかった。


「分かった」


 声。


 少し掠れている。


「でも」


「うん」


「後悔はしてない」


「何を?」


「まだ好きだって言ったこと」


 真っ直ぐだった。


「だって好きだし」


 私は。


 頷く。


「うん」


「でも放課後」


 一度。


 息を吐く。


「終わらせる」


 その言葉に。


 私は少しだけ目を見開いた。


「終わらせる?」


「うん」


「何を?」


 竹下くんは。


 すぐには答えない。


「それは」


 少しだけ。


 苦しそうに笑う。


「放課後」


 そのまま。


 歩き出した。


 私は。


 背中を見送る。


 終わらせる。


 その言葉の意味。


 まだ。


 分からない。


     ◇


 午後の授業。


 さらに。


 頭へ入らなかった。


 教師の声。


 黒板。


 教科書。


 全部。


 遠い。


 竹下くん。


 終わらせる。


 春斗。


 放課後話す。


 そして。


 私は。


 どうする。


 逃げない。


 それは決めた。


 でも。


 二人が。


 本気でぶつかったとき。


 私は。


 何を言う。


 春斗の味方。


 それは。


 ただ竹下くんを責めることではない。


 竹下くんを嫌いになることでもない。


 春斗が間違えたら。


 止める。


 でも。


 私が選んだのは。


 春斗。


 そこだけは。


 曖昧にしない。


     ◇


 放課後。


 最後の授業終了を告げるチャイムが鳴った。


 教室。


 ざわつく。


 いつもと違う。


 何人か。


 明らかに。


 こちらを見ている。


 昼休みの件。


 もう。


 かなり広がっている。


 竹下くんも。


 席を立つ。


 小野寺くんが。


 何か話しかける。


 竹下くん。


 短く答える。


 そして。


 教室を出る。


 私。


 窓の外。


 見る。


 空。


 少し曇っている。


 朝は晴れていたのに。


 夕方。


 雲。


 増えている。


 天気予報。


 当たった。


「真理」


 愛ちゃんが声を掛ける。


「うん」


「行く?」


「うん」


「一人で?」


「うん」


 愛ちゃん。


 少しだけ。


 心配そう。


「止めた方がいい?」


「何を?」


「ついてく」


 私は。


 少し考える。


 でも。


 首を振る。


「大丈夫」


「本当?」


「三人で話した方がいいと思う」


 愛ちゃん。


 しばらく。


 私を見る。


「分かった」


「うん」


「でも」


 愛ちゃん。


 少し強く言う。


「真ん中に戻らないでね」


 胸。


 鳴る。


「うん」


「竹下くんが泣いても」


「うん」


「春くんが怒っても」


「うん」


「真理が選んだのは春くん」


 私は。


 頷く。


「分かってる」


 鞄。


 持つ。


 席。


 立つ。


 教室。


 出る。


 廊下。


 放課後の音。


 部活動へ向かう生徒。


 階段。


 昇降口。


 歩く。


 怖い。


 でも。


 逃げない。


 春斗。


 竹下くん。


 二人が。


 初めて。


 真正面から。


 向き合う。


 そして。


 私も。


 向き合う。


 竹下くんの恋を。


 否定しない。


 春斗の嫉妬も。


 否定しない。


 でも。


 誰の隣に立つかは。


 もう。


 決めた。


 私は。


 春斗を選んだ。


 その事実を。


 もう一度。


 自分へ言い聞かせる。


 そして。


 放課後。


 三人の関係が。


 もう一度。


 大きく動こうとしていた。

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