会議①
「……とは言ったものの、誰が誰だか全く分からん。まだ全員と顔を合わせられたわけではないからな……」
「ま〜だ覚えられてないんすかぁ? 叶馬くん特製のリストがあんのにぃ?」
「作者と一緒にしないでくれたまえ。私は読者側なのだから」
「はぁ〜? 新キャラ使い捨て群像劇で、名前が覚えられないなんて甘えですぅ。学校の教師を見習ってくださ〜い!」
「使い捨てるな。大事にしろ」
屋敷から死の危険性が去ってから数日。
たからとミヤビは朝食を摂りながら、のんびりと話をしていた。
食堂の雰囲気も随分と良くなり、初日に博喜が暴れて壊したテーブルなども、まるで何事も無かったかのように全て元通りとなっていた。
「顔と名前、それに派閥が一致しないのに、心のケアとか夢のまた夢じゃないっすか」
「ほんとにな」
たからは顔に隠しきれない疲労を滲ませ、冷めかけたコーヒーを胃に流し込んだ。
その時、食堂の乾燥した空気を切り裂くように、白藍色のリボンが揺れた。使用人のような、あるいは精巧な自動人形のような佇まいで、少女――居燭がそこに立っていた。
「お食事中、失礼します。たから様、ミヤビ様」
「居燭ちゃ〜ん! 今日も可愛いねぇ」
ミヤビが包帯の巻かれた指先をピアノのように動かし、熱に浮かされたような声を出す。
居燭はそれを表情一つ変えずに聞き流し、たからだけを真っ直ぐに見つめた。
「おはよう、居燭くん。……何かあったか?」
「はい。たから様が『会議』に出席されることを、遊梨姉様が切望しております。今から、お時間はよろしいでしょうか」
「遊梨……は、確か、車椅子の……」
「はい。山吹派の最年長で、両足の機能しておられないため、車椅子に乗られています」
「私は!? 何でたからさんだけ!?」
食堂にミヤビの叫びが木霊する。給仕をしていた他の子どもたちが一瞬手を止め、気味の悪いものを見る目でミヤビを振り返った。
その冷ややかな視線の中心で、居燭だけが、あらかじめ決められた台本を読み上げるように口を開いた。
「……ミヤビ様も呼ばれておりますよ」
「ほんとかぁ? ぜってぇ歓迎されてねぇよなぁ? 招かれざる客どころか、招きたくない不純物扱いっすよね!?」
「じゃあ行かなきゃいいだろう」
たからは呆れたように返事をした。
「いいっすね〜! じゃあ、私は欠席で」
ミヤビはあっさりと、そして実に嬉々として、包帯まみれの両手を振った。
「せっかくの平和っすよ? 楽しまなきゃ損ですよ! それにこんないいタイミングはありませんし、たからさんも私がいない方が、色々動きやすいんじゃないっすか〜? 子どもたちからの信頼も、お熱いようですしぃ?」
「……勝手にしろ。ただし、妙な騒ぎは起こすなよ」
たからは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえ、居燭に向き直った。
「すまない、待たせた。会議室へ案内してくれ」
「かしこまりました。こちらへ」
居燭はミヤビに一瞥もくれず、音もなく踵を返した。白藍色のリボンが、完璧な軌道を描いて空を切る。
ミヤビは、去っていく居燭の背中を、ただ静かに――捕食者が獲物の轍をなぞるような眼差しで見送っていた。
食堂に残したミヤビの視線が、妙に引っかかった。
昨夜の『未完の傷』という言葉が、鈍い棘のように脳裏に残る。
廊下を進むたびに、食堂の熱気が背後で薄れていく。
代わりに、不自然なほど磨き抜かれた床の冷たさが、じわりと靴底から伝わってきた。




