9話
「……で、これがその『果たし状』か?」
俺はカウンターの上に放り出された、金縁の豪華な封書を指さした。
差出人はアステリア王国第二王子、カイル・ド・アステリア。
内容は「伝説の聖剣を修復した稀代の鑑定士を、王城での晩餐会に招待する」というものだ。
「クロガネ様、これは『招待』ではなく『出頭命令』に近いです……。拒否すれば、騎士団が店を包囲する口実を与えてしまいます」
エリシアが不安そうに、綺麗に整頓された棚を眺める。
彼女の鑑定眼も上がっている。この手紙に込められた「傲慢な魔力」を感じ取っているのだろう。
『……フン。カイルか。あの若造、私の直系の子孫にあたるはずだが、あまり筋が良いとは聞かぬな。タツヤ、私が行って一喝してやろうか?』
「幽霊が王城に殴り込みか? 面白そうだが、営業停止になるのは勘弁だ」
俺は溜息をつき、店をエリシアとレオンハルトに任せて城へ向かうことにした。
……もちろん、ただで行くつもりはない。
王城の広間は、着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。
その中央、一段高い椅子に座る金髪の青年が、カイル王子だ。
「貴様がクロガネか。……ふん、薄汚いスラムの商人と聞いていたが、案外まともな格好をしているな」
カイルは俺を値踏みするように見下ろし、本題を切り出した。
「単刀直入に言おう。貴様が修復した『デュランダル』を王家に献上せよ。あれは元々、我が先祖レオンハルト卿の持ち物。王家が管理するのが筋というものだ。代わりに、貴様には金貨100枚と、王家御用達の称号を与えてやろう」
広間にどよめきが広がる。金貨100枚は平民が一生遊んで暮らせる額だ。
だが、俺は鼻で笑った。
「断る。あれは客から持ち込まれた『依頼品』だ。持ち主は別にいる」
「……何だと? 貴様、王子の頼みを断るというのか!」
カイルの顔が怒りで赤く染まる。
彼は腰の剣を引き抜き、俺の喉元に突きつけた。
「ならば、鑑定してみせろ。この私が持つ、王家に伝わるもう一振りの聖剣【カラドボルグ】を! これとデュランダル、どちらが王にふさわしいか、その目で見極めてみよ!」
俺は無造作に、突きつけられた剣の刀身を指先で弾いた。
「鑑定」
名称: 煌めく模造剣(カラドボルグ風)
価値: 金貨10枚(美術品として)
詳細: 20年前に宮廷工房で作られたレプリカ。派手なエフェクト魔法がかけられているが、強度は並の鉄剣以下。
「……王子。あんた、これを本物だと思って毎日磨いてたのか?」
「何……?」
「こいつはただの『光るおもちゃ』だ。価値はあんたが言った金貨100枚の十分の一もありゃしない。……あんたの審美眼は、うちの店の見習い(エリシア)以下だぜ」
静まり返る広間。王子のプライドが砕け散る音が聞こえた気がした。
「き、貴様ぁぁ! 嘘を吐くな! 衛兵! この不敬者を捕らえろ!」
衛兵たちが一斉に踏み込もうとした、その時。
広間の扉が吹き飛び、まばゆい白銀の光と共に「彼」が現れた。
『……我が主に剣を向ける不届き者は、どこのどいつだ?』
実体化したレオンハルトが、新生デュランダルを抜き放つ。
その圧倒的な英雄の威圧感に、衛兵たちは膝をつき、カイル王子は腰を抜かして座り込んだ。
「れ、レオンハルト卿……!? なぜ、死者が……!?」
「王子。あんたが欲しがってた『本物』は、自分の意志で俺の店の用心棒を選んだんだ。……無理やり奪おうったって、そうはいかないぜ」
俺は腰を抜かした王子の横を通り抜け、出口へと歩き出す。
「晩餐会のメシは不味そうだから帰るわ。……あ、そのレプリカ、修理が必要ならうちに来な。『格安』で直してやるよ」




