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10話

王城での一件は、一晩で街中に知れ渡った。

「スラムの古物商が、王子の聖剣を『おもちゃ』と切り捨てた」

その噂は、王室の権威を失墜させるには十分すぎる爆弾だった。

一方、自室に引きこもったカイル王子は、屈辱に震えながら「おもちゃ」と呼ばれたレプリカを床に叩きつけていた。

「許さん……あの男も、あの生意気な幽霊も! 私は王子だぞ! この国の次期国王だぞ!」

「……ならば、その『相応しい力』を手に入れたいとは思いませんか?」

背後の影から、ぬらりと現れたのは、漆黒のローブを纏った男だった。

名称: 影の執行者(自称)

正体: 魔王軍残党・第3部隊長「ギルガ」

状態: 狡猾な誘惑。カイルの劣等感を利用しようとしている。

「魔族だと!? 衛兵を——」

「おや、呼んでも無駄ですよ。今の貴方は、聖剣を失ったただの無力な人間だ。……ですが、この『石』をそのレプリカの芯に埋め込めば、伝説を凌駕する力が手に入る」

ギルガが取り出したのは、赤黒く脈打つ不気味な魔石。

カイルはその禍々しさに一瞬怯んだが、俺に恥をかかされた怒りが、恐怖を上回った。

「……それをやれば、あの男を殺せるのか?」

「ええ。あの店も、あの忌々しい『鑑定士』も、すべて塵にできるでしょう」

カイルの手が、ゆっくりと魔石へ伸びた——。

その頃。

俺は店の掃除を終え、エリシアに「魔力の込められた宝石の見分け方」を教えていた。

「エリシア、石の表面を見るな。その奥にある『熱』を見ろ。本物は冷たくても、芯に熱がある」

「……あ、本当です! このルビー、小さな心臓みたいに動いています!」

エリシアの鑑定眼は、日に日に研ぎ澄まされている。

そんな和やかな空気を切り裂くように、レオンハルトが鋭く店先を睨みつけた。

『……タツヤ、客だ。だが、歓迎すべき客ではないな。……血と泥、そして「絶望」の匂いがする』

カランカラン、と夜の静寂を破ってドアが開く。

立っていたのは、全身を返り血で汚し、息を切らせた一人の女騎士だった。

「……ハァ、ハァ……。ここが……『クロガネ』か。……頼む、鑑定してくれ。この『私という存在』に、まだ戦う価値があるかどうかを……!」

彼女が倒れ込む間際、俺は反射的にその体を支えた。

名称: セーラ・フォニックス

正体: 王子直属近衛騎士団・副団長。

状態: 瀕死。裏切ったカイル王子の凶刃から逃げ延びた唯一の生存者。

「おいおい、うちは死体安置所じゃねえんだ。……エリシア、例の『世界樹の雫』のお茶を淹れろ。濃いめのやつだ」

「はいっ!」

俺はセーラをソファに寝かせ、その折れた剣に視線を落とした。

その剣には、カイルが手にした「魔石」と同じ、不吉な魔力の痕跡が刻まれていた。

「……どうやら、王子の『おもちゃ』が本物の『凶器』に化けちまったみたいだな」

俺は静かに、店奥にある「非売品」の棚から、一本の重厚なハンマーを取り出した。

鑑定士として、そして古物商として。

「偽物」が「本物」を穢すのを、見過ごすわけにはいかない。

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