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8話

賢者ゼノスが常連となってから一週間。

店の前には、彼が保証人となったことを示す『ギルド公認』のプレートが掲げられていた。その影響は凄まじく、今や客層はスラムの冒険者から、国中の名家や蒐集家にまで広がっている。

そんなある日の夕暮れ。

一人の老騎士が、震える手で重厚な木箱をカウンターに置いた。

「……クロガネ殿とお見受けする。ゼノス閣下より、ここなら『真実』が判ると聞き、参った」

俺が黙って促すと、老騎士は苦渋に満ちた表情で蓋を開けた。

中にあったのは、禍々しい黒い雷を放つ「折れた剣の破片」。

その瞬間、店内の空気が一変した。

実体化していたレオンハルトが、見たこともないほど激しく青い炎を燃え上がらせたのだ。

『……それは、まさか……!』

「鑑定」

俺は即座にスキルを走らせる。

名称: 絶望の残滓ざんし

正体: 聖剣【デュランダル】の成れの果て。

状態: 猛烈な怨念による汚染。

詳細: 三百年前、レオンハルトと共に魔王の心臓を貫いた伝説の聖剣。しかし、主を失った後に魔族に回収され、呪いの触媒として「改造」された。

「……レオンハルト。お前の相棒、ずいぶんと無残な姿になっちまったな」

俺が呟くと、レオンハルトは拳を握りしめ、折れた剣を見つめた。

『……ああ。間違いない。我が魂の一部とも言える剣だ。……だが、もはやこれは聖剣ではない。ただの呪具だ』

老騎士が膝をつき、絞り出すような声で言った。

「この破片が発見された遺跡の周囲では、草木が枯れ、人々が病に倒れている。教会は『処分しろ』と言うが、これは我が国の救国英雄の遺産……。どうしても、ただのゴミとして捨て去ることができなかったのだ……!」

「クロガネ様……。この剣、泣いています」

エリシアが、鑑定の特訓で培った感性で剣に触れようとした。

「よせ、エリシア! 呪いが移る!」と叫ぶレオンハルト。

だが、俺はその手を止めなかった。

「……レオンハルト、お前はこいつをどうしたい? 英雄の遺品として、静かに眠らせてやりたいか?」

『……いや。……もし叶うのなら。もう一度、こいつと共に「光」を見たい』

英雄の魂が、静かに、だが熱く燃えた。

「よし。エリシア、特訓の成果を見せろ。お前の『清浄な魔力』で、この破片にこびりついた汚れ(呪い)を浮かせろ。……俺がその『価値』を再定義する」

「はいっ!」

エリシアが両手をかざし、店全体が白銀の光に包まれる。

本来なら数十年かかる浄化作業を、彼女の「神速清掃」が数秒で終わらせていく。

黒い霧が悲鳴を上げて霧散し、中からボロボロになった銀色の金属片が姿を現した。

俺はすかさず、カウンターの下から取り出した『聖域の守護鞘(第3話で回収したもの)』をその横に置く。

「……鞘は剣を待ち、剣は鞘を求めていた。バラバラだった『価値』を、ここで一つに繋ぎ合わせる」

俺は「鑑定」の極致——【価値再構成リビルド】を発動した。

バラバラだった情報の断片を、俺の意志で「あるべき姿」へと書き換えていく。

まばゆい閃光が収まった時。

カウンターの上には、折れていたはずの刀身が完璧に修復され、清廉な光を放つ『新生・聖剣デュランダル』が鎮座していた。

『……ああ……』

レオンハルトの手が、ゆっくりと柄に伸びる。

幽霊であるはずの彼の手に、実体化した聖剣が吸い付くように収まった。

その瞬間、彼の霊体はより強固に、より神々しく変化していく。

「お代は、その木箱でいい。珍しい木材を使ってやがる」

俺がぶっきらぼうに言うと、老騎士は涙を流して床に額をこすりつけた。

——この日、俺の店には「幽霊の用心棒」ではなく、「聖剣を携えた守護霊騎士」が誕生した。

だが、聖剣が復活したという噂は、すぐに国境を越え、かつてレオンハルトを死に追いやった「魔族の生き残り」たちの耳にも届くことになる。

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