2話
「はぁ……。今日もまた『自称・勇者の遺産』の持ち込みか」
俺、タツヤが経営するこの『ジャンク屋・クロガネ』は、王都の最果て、スラム街の入り口にある。
客の九割は、一攫千金を夢見てゴミを拾ってきた貧乏冒険者か、それらを騙して売りつける詐欺師だ。
だが、俺には関係ない。
鑑定スキルがある限り、俺だけは「本物」を逃さない。
「……ん?」
店先に、ボロボロの布を被った少女が立っていた。
手には、泥にまみれた一本の杖。
「……あの、これを、買い取ってほしいんです」
少女の顔は汚れで黒ずんでいるが、瞳だけは強い意志で輝いている。
俺は無造作にその杖を手に取り、スキルを動かした。
名称: 泥まみれの枯れ枝
価値: 測定不能(一般市場では薪以下)
詳細: 表面に強力な封印結界が幾重にも施されている。正体は、神話時代に失われた【賢者の叡智】。
(……おいおい、マジかよ)
心臓が跳ねた。
これはただのレアアイテムじゃない。世界に一本しかない、伝説の魔導杖だ。
しかも、目の前の少女——。
名称: エリシア
正体: 滅ぼされた魔法帝国の末裔(皇女)
状態: 重度の魔力飢餓、追手による監視中
「……お嬢ちゃん、これ、どこで手に入れた?」
「お、おじいさまの形見です。……あの、パン一つ分のお金にでもなれば……」
彼女は震えている。飢えと恐怖で限界なのだろう。
ここで「これは国が買えるほどの価値がある」と教えるのは、商売人として二流。
それに、そんなことをすれば彼女は明日には野垂れ死ぬか、悪党に捕まる。
俺はわざとらしく鼻を鳴らし、カウンターの下から「硬くなった黒パン」と「銀貨1枚」を取り出した。
「いいか。その棒きれは、せいぜい暖炉の焚き付けにしかならない。だが、お前の死んだじいさんの思い出に免じて、銀貨1枚で買ってやる」
「……えっ!? ぎ、銀貨……!? そんなに……!」
銀貨1枚あれば、この街なら一週間は贅沢に食っていける。
彼女は信じられないといった様子で、パンと硬貨を交互に見て、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます! ありがとうございます……!」
「……おい。行き場がないなら、うちの裏の倉庫を掃除しろ。飯ぐらいは出してやる」
「はいっ……! 喜んで!」
こうして俺は、「世界最強の武器」と、「将来の大魔導師」を、銀貨1枚という破格の安値で手に入れた。
——数日後。
俺の店に、仰々しい鎧を着た騎士団が踏み込んでくることになる。
「亡国の皇女を探している」とか何とか言ってな。
ふん、勝手に探してろ。
彼女は今、俺の店でエプロンをつけて、棚のホコリを払ってるよ。




